男子「意味わかんねぇ。さっさと地球に戻せよ」

女神「え……えええええええええええっ!!? 救ってくれないんですか!?」

男子「むしろなんでやると思ったんだよ」

女神「そんな……ハッ! もしかして、チートですか!? チートが欲しいんですね!? でもズルは良くないと思います!!」

男子「いや、チートとかどうでもいいし」

女神「じゃあハーレム!?」

男子「俺にそんな甲斐性はない」

女神「圧倒的な魔法の才能は!?」

男子「オカルトとか嫌いなんだよね」

女神「あ、人間以外にも、天使やエルフ、ドワーフなんかにもなれますよ!?」

男子「得体の知れない生物になんてなりたくない」

女神「それなら、今異世界救済をすると、もう一回異世界救済出来るお得な特典が!!」

男子「心底要らねぇ。ピザ感覚で増やすな」

女神「ああもう! あなたは一体何が欲しいんですか!!?」

男子「話聞いてた? 地球に戻せって言ってんの」

女神「……無理です」

男子「は?」

女神「無理ですよぉ!! だってあなたの肉体はケルベロスちゃんの餌にしちゃいましたもん!! もう要らないと思って!!」

男子「はぁぁああああ!!? てめぇふざけんじゃねぇぞ!!」

女神「本当ですぅ……文字通り骨の髄までしゃぶりつくしてしまいました」

男子「じゃあどうやって地球に戻るんだよ!!」

女神「そんなの知りません! 私はあなたが異世界救済してくれる前提で計画を立てていたので!」

男子「見切り発車ってレベルじゃねぇぞ!! クソがッ!!」

女神「ひっ」

男子「おいてめぇ……仮にも神なら俺の肉体くらい余裕で復活出来るだろ? オイ」

女神「無理ですぅぅ……あっ、でも、異世界救済してくれたらその力を使って復活出来るかも」

男子「あぁん?」

女神「ひぃぃん! と、とにかく今の私にそんな力はないんです!! 勘弁してください!!」

男子「チッ、てめぇじゃ話が通じねぇ。てめぇより偉い神をここに連れてこい!」

女神「えっ!? だ、ダメですよ!! そんな事したら私が怒られちゃいます!! 先輩神はすっごく厳しいんですよ!!」

男子「知ったことか!! むしろてめぇが叱られるんなら願ったり叶ったりだ!!」

女神「本当に無理なんですぅ!! ただでさえ二兆五千八十億四千三百万と八十五回も異世界救済に失敗してるのに、その上先輩神まで呼びだしたらまたお尻ペンペンされちゃいます!!」

男子「……おい。今お前なんて言った?」

女神「えっ……お尻ペンペン?」

男子「違ぇよ。何回失敗したって言った?」

女神「えっと……二兆五千八十億四千三百万と八十五回です」

男子「いや失敗し過ぎだろ!? お前女神じゃなくて破壊神じゃねぇのか!!?」

女神「えっどうして神界での私のあだ名を」

男子「言われてんのかよ!!」

女神「で、でもでもでも!! 私だって頑張ってるんですよ!! それなのにみんな私の事をバカにして!!」

男子「そりゃするだろうよ!! つーかそんなに失敗しといてお尻ペンペンで済ませる先輩神甘すぎだろ!!」

女神「あなたはお尻ペンペンされたことないからそんな事言えるんです!! 先輩神のお尻ペンペンはとーーーーっても痛いんですからね!?」

男子「知るか!! だいたい、こんな破壊神が手引きする異世界救済とか百パー失敗するだろ!!」

女神「破壊神じゃないです!! 女神ですぅ!! それに、もしかしたら奇跡が起きて成功するかもしれないじゃないですか!!」

男子「奇跡が起きなきゃ成功しないって自分で認めてんじゃねぇか!!!」

女神「痛ぁぁああ!! なんで殴ったんですか!?」

男子「そりゃ殴りたくもなるだろうが!! この破壊女神!!」

女神「うぅぅぅぅ……! ぐすっ……ひどいです……今まで人たちはみんな素直に救済に行ってくれてたのに……」

男子「むしろ泣きたいのはそいつらの方だろ」

女神「ど……どうしても、ダメなんですか?」

男子「ああ、ダメだね。最低でも、俺が地球に戻れる保証がなきゃ話にならん」

女神「そ、そう言われても……さっきも言った通り、異世界救済くらいしか肉体の復活方法は……」

男子「失敗フラグで城が立つレベルなのにやる訳ねぇだろ」

女神「ですよね……あはは」

男子「はぁ……頭が痛い……」

女神「私もです……さっき殴られた所にたんこぶが……」

男子「そういう意味じゃねぇよ」

女神「しかし困りました……神々の盟約により、あなた以外の人間に代わりに救済してもらう、という事も出来ないのです」

男子「一連托生って事か。嫌な運命だな、ハハッ」

女神「笑い事じゃないですよぅ……」

男子「そりゃ笑いたくもなるだろ…………ん? いや、待てよ」

女神「え?」

男子「そもそも、俺が異世界を救済する必要があるのか?」

女神「……え、どういう意味ですか?」

男子「いやだってさ、要は異世界を救済する事で、俺の肉体を復活させられるんだろ」

女神「えっと……まあ、そうですね」

男子「つまり、異世界救済さえ出来るなら手段はなんでも良いって事だよな」

女神「はい。……あ、いや、でも! あなた以外に異世界を救済出来る人なんて……!」

男子「居るじゃねぇか」

女神「えっ?」

男子「居るだろ、俺の目の前に。破壊女神という名の暇人……いや、暇神が」

女神「……」

男子「……」

女神「……ふ、ふふふっ」

男子「……ハハッ」

男子&女神「あははははははっ!」

女神「もう! 冗談が得意なんですね、あなたは!」

男子「何言ってんだ。これが冗談を言ってる目に見えるか?」

女神「…………えっ。本気で言ってます?」

男子「ああ」

女神「…………い、いやいやいやいや!!! 無理ですってそんなの!!」

男子「やってみなきゃ分かんねぇだろ」

女神「絶対無理ですって!! 神が人間の代わりに異世界を救済するなんて、前代未聞にも程があります!!」

男子「じゃあ確認取れよ」

女神「え?」

男子「本当にダメなのか、先輩神とやらに連絡して確認してみろ」

女神「い、嫌です!! そんなバカみたいな質問したらまた怒られちゃいます!!」

男子「既にバカなんだから誤差みたいなもんだろ」

女神「ひどい!」

男子「いいからさっさとしろ。どっちにしろ、確認とれるまでは俺は動かんぞ」

女神「うぅ……」

男子「泣こうが喚こうが、この何にもない空間でずっと二人っきりだ。いやぁ、楽しみだなあ?」

女神「ふぐぅぅぅぅ……ッ!!」

男子「そんなハムスターみたいな顔しても無駄だ。早く連絡してこい」

女神「……わ、分かりました。分かりましたよ!! 確認すれば良いんでしょ、もう!!」

男子「おう」

女神「言っときますけど、どーせ無理ですからね!! 念のため聞いてみるだけですからね!! 確認とれたら、直ぐにあなたを異世界に送りこんであげますからね!!」

男子「あーはいはい分かった分かった。さっさとしろ」

女神「まったくもう、あなたと言う人間は……!」

ピポパポ……プルルル……プルルル……

女神「あ……も、もしもし? 先輩神様ですか? は、はい、女神です。いつもお世話になっておりますぅ……」

男子「……」

女神「えっと……はい。その、なんというか。トラブルが発生してしまいまして……はい。
         今回の異世界救済を担当する人間が、行きたくないと言っていまして……あ、いや、ちゃんと説明はしましたよ!
         でもチートもハーレムも何にも要らないって、地球に戻して欲しいの一点張りで……ワガママで困っちゃいますよねー、あはは……」

男子「おい、さっさと本題に入れ」

女神「わ、分かってますよ! ……それで、ですね。その人間がおかしな事を言っているんです。
         自分が異世界を救済する必要はない、私が代わりに行けばいいんだ、って……でもそんなの、無理ですよね。ね、ね?」

男子「……」

女神「……えっ? あの、えっ? 嘘ですよね? 先輩神様? ……あははっ。
         またまたー、冗談がお上手なんですから。でも今の私は本気で困ってるんです。だからほら、真面目に答え……ちょっ、えっ、先輩神様?
         待って下さい! 先輩神様ぁぁあああ!!?」

男子「……」

女神「……」

男子「……」

女神「…………ふぅ」

男子「……」

女神「残念ですが、やっぱりダメで」

男子「よし、早速お前を異世界に送る準備をするぞ」

女神「いやぁぁああああ!!! 待って、待ってください!!」

男子「うっせぇ。お前も神なら腹をくくれ」

女神「無理ですぅぅ!! 私、管理専門の女神ですから、異世界に行ったりしたら死んじゃいますぅぅうう!!!」

男子「大丈夫、そうならないように俺がサポートしてやるから」

女神「そんなのどうやって……って、ああっ!?」

男子「そりゃもちろん、たった今お前から移譲された神の力を使ってだよ」

女神「返して!! 返してください!! 私の力ぁ!! この泥棒!! 卑怯者ぉ!! うわぁああああん!!!」

男子「ハッハッハ。今の俺に楯突くとはいい度胸だな。よし分かった。チートなし能力最低値で送りこんでやろう」

女神「ごめんなさいごめんなさい許してくださいどうかそれだけはご勘弁を」

男子「嫌だね。お前も少しは今まで異世界に送ったやつの苦労を味わえ」

女神「ふぐぅぅうううう……ッ!! この私がこんなに頭を下げているのにぃぃ……!!」

男子「お前のスカスカの頭に価値なんてあるか」

女神「なんでそんなこと言うんですかぁ!! この鬼畜!! ドS!! 人でなし!!」

男子「はいはい。それじゃあ準備も出来たし、異世界転移発動……ポチッとな」

女神「えっ、あっ! ちょっとぉ!?」

男子「おー光ってる光ってる」

女神「待ってください! 本当に私、やだ、死にたくない! やめてぇぇええええ!!」

男子「そう思うなら死ぬ気で頑張るこったな。女神様」

女神「いやぁぁああああああああ────ッ!!」

シュワワワ……シュンッ

男子「……」

男子「……さてと」

男子「それじゃあ、めんどくさいけど……」

男子「さっさと異世界、救っちゃいますか」


<はじまりの草原>

シュワワワ……シュンッ

女神「────あああああぶべっ!?」

ドサッ

女神「うぇっ、ぺっぺっ……口の中ジャリジャリします……」

男子『あー、あー……テステス。聞こえるか破壊女神』

女神「……はっ!! この声は……鬼畜ドS窃盗犯の人間さん!?」

男子『どうやら転移は上手く行ったみたいだな』

女神「当然です! 神の力ですからね!」

男子『そうか。まあ今は俺の力だけどな』

女神「ぐぬぬ……って、あれ? どうしてあなたの声が聞こえるんですか?」

男子『えっ? ああ、そりゃ、【神託】の能力を使ってるからな』

女神「へぇー。神の力って、そんな事が出来たんですねぇ……」

男子『……って、ちょっと待て。お前まさか、今まで【神託】をした事なかったのか?』

女神「え? ……まあ、はい。そうですね。そもそもそんな能力がある事自体知らなかったですし」

男子『……じゃあ、人間を異世界救済に送った後は?』

女神「基本放置ですね」

男子『ガッデム……』

女神「ああっ、ひどい! 女神に向かってガッデムだなんて! 神々に対する最低級の侮辱ですよ!」

男子『うっせぇ。お前が底なしの無能だということはよーく分かった』

女神「そ、そんな事ないです! 私だってやるときはやりますぅ!!」

男子『とにかく! これからはこの【神託】を使って、お前に逐一異世界救済の為の指示を出す。いいな?』

女神「……まあ、私一人よりはマシですけど。そこまでするなら、いっそあなたが代わってくれても……」

男子『い、い、な?』

女神「はぃぃいっ!! 誠心誠意、救済に努めさせて頂きますぅ!!」

男子『うむ』

女神「うぅ……私に神権は無いのでしょうか……」

男子『つべこべ言わずに働け。まずはスライムを倒して経験値を稼ぐぞ』

女神「分かりました……って、スライム?」

男子『なんだ。まだ文句あるのか』

女神「いや、文句というか……そもそもここって何処ですか?」

男子『ん? ああ、<はじまりの草原>ってとこだな』

女神「はじまりの……それって、魔王城から一番遠い?」

男子『知らんけど、多分そうなんじゃねぇの? この世界で魔物が一番弱い場所に転生させたからな』

女神「…………ば」

男子『ば?』

女神「バカなんですかぁ!!? あなたはッ!!!」

男子『…………はああ??』

女神「あなたは異世界を救うための条件、分かってるんですか!?」

男子『……魔王を倒す事、だろ?』

女神「そうです!! この世界に巣食う悪しき魔王を倒し、世界を破滅へと向かわせる歪みを修正する事で異世界は救済されるのです!!」

男子『うん』

女神「で、あるならば!! 最初の転移場所を魔王の居城近くに設定するのは当然でしょう!?」

男子『うん?』

女神「世界を歪め、人々を苦しめる魔王を速やかに排除する事で、この異世界に平穏と安寧を……!!」

男子『待て待て待てちょっと待て』

女神「なんですか!!」

男子『なんですかじゃねぇよ! お前まさか、今までの人間全部、魔王の目の前にいきなり転移させてたのか!?』

女神「そうですけど、何か!?」

男子『…………はぁぁああああ』

女神「な、なんですかそのため息は」

男子『おめでとう。お前は今、破壊女神から大量虐殺悪鬼羅刹女神にレベルアップした』

女神「いやそれレベルアップじゃないですよね!?」

男子『あのさ、冷静に考えてみ? 転移したばかりで右も左も分からん奴を魔王にぶつけて勝てると思う?』

女神「可能性はゼロじゃないです!」

男子『ゼロだよ!! もう一回言うよ? ゼロだよ!!!』

女神「ゼ、ゼロじゃないですぅ……!!」

男子『二兆回やって無理ならゼロだろうが!! いい加減認めろ!!』

女神「うぅぅぅ……! 人間さんがイジメる……」

男子『うっせぇ! だいたい、いくらチートあるって言ったってさあ、転移して即魔王戦とかそりゃ死ぬだろ以外の感想がねぇよ!』

女神「それならすっごく強いチートをあげればいいんです! いきなりでも魔王に勝てるくらいの!」

男子『なるほど。確かにそんなチートをやれるなら可能かもしれないな? 出来るもんならなあ?』

女神「うっ……な、なんですか。その含みのある言い方は」

男子『お前さ、神々の盟約の第三条って知ってる?』

女神「えっ、第三条……ですか?」

男子『そうだ』

女神「えっと……みんなで仲良く異世界を救いましょうね、とか?」

男子『違ぇよ!! 神々の加護をみだりに用いて世界の崩壊を早める事なかれ、だよ!! ピクニックじゃねぇんだぞ!!』

女神「ひぃぃんっ!!」

男子『いいか? 神の力で異世界に干渉するほど、世界の歪みが酷くなる。だからチートでゴリ押しなんて無理なんだよ。お前も神の端くれならそんくらい知っとけや!!』

女神「えっ……じゃ、じゃあ、前にありったけのチートを詰め込んだ人間を送った異世界が三秒で崩壊したのって」

男子『お前のせいだよ虐殺女神』

女神「そ、そんなぁ……」

男子『ったく……なんで神のくせに神々の盟約を読んでねぇんだよ』

女神「だってあれ、文字が一杯あってよく分かんないんですもん」

男子『幼稚園児かてめぇは!!』

女神「女神ですぅ……」

男子『ああ、もう……そもそも今のお前はチート皆無の能力最低値だぞ。魔王どころかその辺のゴブリンにすら余裕でボコられるわ』

女神「そう、それですよ!! どうしてもっと強くしてくれなかったんですか!?」

男子『今言ったばかりだろうが。お前を強くするほど世界が歪んで、崩壊が早まるんだよ。だから最弱にするしかなかった』

女神「えっ……そうだったんですか。ごめんなさい、私てっきり、人間さんが私に意地悪してるものだと……」

男子『まあそれも無いといえば嘘になるな』

女神「ちょっと!?」

男子『じゃあ改めて、スライムでレベル上げをするぞ。近くにスライムは居ないか?』

女神「えっと……あ、居ました。あっちの茂みの中に」

男子『よし。じゃあそいつを素手で殴れ』

女神「嫌ですよ!? 溶けるじゃないですか私の手!」

男子『チッ……じゃあ適当な石をぶつけて核を砕け』

女神「今舌打ちしましたよね?」

男子『気のせいだ。ほらさっさとしろ!』

女神「うぅ……釈然としません……」

ガサガサ……

女神「え、えいっ!」

バキイッ!!

スライム「ピギィィイイッ……」

女神「あ、やりました! やりましたよ、人間さん!」

男子『そうだな』

女神「反応薄くないですか!?」

男子『いやだって、スライムだし? 経験値一だし? この程度でドヤ顔されてもねぇ……』

女神「ふぐぅぅぅ……こっちの苦労も知らないくせにぃ……!」

男子『じゃ、その調子でスライム五百体倒してくれ』

女神「はい…………あの、人間さん?」

男子『なんだ』

女神「気のせいでしょうか。今、スライム五百体と聞こえたような……」

男子『気のせいじゃないぞ。お前にはこれからスライムを五百体倒してもらう』

女神「頭おかしいんですか!? スライムばっかり倒したって魔王は倒せませんよ!?」

男子『だが、ゴブリン二百体分、オーク三十体分くらいの経験値は手に入る。中々バカにならん量だぞ』

女神「だからって……! そもそも、そんなにずっと戦っていられませんよ! 途中で倒れて死んじゃいますって!」

男子『ああ、その辺については心配すんな。今倒したスライムの近くにドロップ品はないか?』

女神「ドロップ? ……あ、ちっちゃい銅貨みたいなのが落ちてますね」

男子『それはこの世界の共通通貨だ。それを集めて、適当なタイミングで最寄りの町の宿屋で休憩しつつ討伐を進めろ』

女神「え……」

男子『この辺りの相場は一食一泊で銅貨10枚だ。まあなんとかなるだろ』

女神「いや、それ最低ランクの雑魚寝宿屋の相場ですよね!?」

男子『いやあ、この異世界がゲーム風の世界で良かったよ。実に分かりやすくて助かる』

女神「い……嫌です!! 女神の私がそんな極貧の日雇い労働者みたいな生活するなんて、ぜぇーったいに嫌ですぅぅうう!!」

男子『ハッハッハ。知るかバーカ』

女神「うわぁぁあああん!!!」

男子『そんじゃスライム五百匹を倒した頃にまた【神託】するからな。サボるなよ? サボったら一生この世界から出られないと思え』

女神「あ、ちょ、ちょっと待って!! 人間さん!?」

男子『じゃーなー』

女神「私を一人にしないでぇぇぇええええ!!!」

女神「……」

女神「……」

ガサガサ……

スライム「……ピギッ?」

女神「……あなたのせいです」

スライム「ピッ……」

女神「あなたさえ居なければぁぁあああ!!!」

バキイッ!!!

スライム「ピギィィイイッ……」

女神「はぁ……はぁ……あと、四百九十八……!」

女神「……ふ、ふふっ……女神の底力を甘くみない事ですね……」

女神「この程度の試練……容易く乗り越えてみせましょう」

女神「ですから……」

ガサガサ……バキイッ!!!

スライム「ピギィィイイッ……」

女神「待っていなさい……! 人でなしでロクでなしで鬼畜で自分勝手な……人間さんめ!!」


<神界>

男子「さて、と……それじゃあ適当に時間を進めますか」

男子「ん〜っと、一週間くらいでいいか? 接続……っと」

男子「……お?」

バキイッ!!

スライム『ピギィィイイッ……』

女神『これで……あと三百!!』

男子「うーん。まだこの程度か。じゃあ更に二週間くらい飛ばして……」

男子「あっやべ。手が滑った」

男子「……」

男子「丸一月飛ばしちゃったな」

男子「まあ、大丈夫だろう。まさかスライム相手で死ぬこたぁ無いはず……ん?」

ガサガサ……

女神『ピギッ、ピギィ? ピギィィ……』

スライム『ピギッ、ピィィィッ』

男子「やべぇ。なんかスライム化してる」

女神『ピィ、ピピッ、ピギィィ』

男子「聞こえるか、女神。おい、女神?」

女神『ピギッ……あ、ふぇっ? 人間……さん?』

男子「おう。スライム五百体倒したか?」

女神『……』

男子「……女神?」

女神『……う』

男子「う?」

女神『うぇぇぇぇえええええん……っ!!!』

男子「……なぜ泣く」

女神『だ、だって、だってぇ……ごひゃ、五百たお、したのに……来なくて……見捨て、られちゃったのかもってぇ……!』

男子「んな訳ねぇだろ。お前を見捨てたら俺も道連れだぞ」

女神『じゃ、じゃあなんで……もっとはやく……』

男子「あー悪い。手が滑った」

女神『……はぇ?』

男子「お前が五百体倒したくらいまで時間進めようと思ったら、間違えて進め過ぎた」

女神『……な……な……』

男子「いやあ、あれ結構微調整ムズいんだな。むしろこの程度で済んで幸運だったよ。うんうん」

女神『なんですかそれぇぇえええ!!!! 最低!! 最っっっ低です!! 人の気持ちも知らないで!!』

男子「だってあれ時間戻せないんだもん。どうしようもないでしょ」

女神『なら少しは申し訳なさそうにして下さい!! こっちは寂しさのあまり、スライムと会話出来るようになっちゃったんですよ!!』

男子「いやお前そんなことしてたのかよ」

女神『謝って!! 謝ってください!! このクズ人間!! 鬼畜悪魔の人でなし!!』

男子「謝るって、何に?」

女神『それは勿論、私をずーーっと放ったらかして、寂しくさせた事についてです!!』

男子「……なあ、女神」

女神『なんですか! 謝る気になりましたか!』

男子「お前、今すっごい恥ずかしい事言ってるの気付いてる?」

女神『何が……あっ』

男子「誰に放ったらかされて寂しかったって?」

女神『……いや、その、それは』

男子「……」

女神『何というか、えっと、あの……』

男子「うん。続けて?」

女神『…………ふぐぅぅぅうううっっ!!!』

男子「ハハハッ」

女神『何笑ってるんですかぁ!!』

男子「あーはいはい。そうだな。悪かった。俺が悪かったよ」

女神『そんな適当な……!』

男子「じゃあスライム五百体も倒した事だし、次の町へ向かうとするか。今の所持金は?」

女神『……銅貨百枚くらいです』

男子「……やけに少ないな? おい、女神」

女神『な、なんですか』

男子「お前、宿屋のランク上げただろ」

女神『……い、いいじゃないですか、それくらい!! 私、頑張ったんですよ!? 一人でずーっとスライムと戦って、ご飯も一日二回で!! お布団くらい、柔らかいのにしたって許されるはずです!!』

男子「いやまあ別に構わんけど……その手持ちだと、大した装備は買えねぇぞ?」

女神『ふーんだ。平気ですよ! レベルも上がりましたし、仲間も出来ましたから! ねー、スラちゃん?』

スラちゃん『ピギーッ!』

男子「……さっきから気になってたんだけど、なんでスライムなんだ?」

女神『えっ? 可愛いじゃないですか』

男子「いや、どうせ仲間にするなら普通の人間の方が」

女神『人間さん。私は、異世界管理専門の女神です』

男子「おう」

女神『会話する相手は先輩神と異世界救済する人間くらい。それもひと月に一回あるかないかです』

男子「うん」

女神『そんな私に、人間の仲間を見つけられるほどのコミュニケーション能力があると思いますか?』

男子「え、無いの?」

女神『ないです。だからスラちゃんとお話してました』

男子「むしろそっちの方がすげぇよ」

女神『人間の仲間なんて居なくても、私とスラちゃんさえいれば向かう所敵なしです! さあ行きましょう、スラちゃん!』

スラちゃん『ピギーッ!』

男子「……まあいいや。計画に支障はないだろうし」

女神『え、何か言いましたか?』

男子「何でもない。それじゃあ西の方角にある、誘魔の森の手前の町に向かえ。着いたらまた連絡する」

女神『了解です! 任せてください!』

男子「じゃーなー」

男子「……」

男子「……スライムを仲間に、か」

男子「魔物使いのチートを自力で習得するとは、さすがは女神……なのか?」

男子「何にせよ、世界の歪みに影響がないか注意しておく必要があるな……」


<誘魔の森>

女神「ここが誘魔の森ですか……なんというか、不思議な雰囲気ですね」

男子『お前にはここで、ゴブリンを倒して経験値を稼いでもらう。武器の準備はいいな?』

女神「もちろんです!……あっ」

ガサガサ……

ゴブリン「ギ、ギギギ」

男子『あいつがゴブリンだ。流石にスライムよりは強いが、油断しなきゃ倒せる。集団で囲まれないように注意しろ』

女神「分かりました! ……てやっ!」

ザシュッ

ゴブリン「ギギィィイイイッ!!」

女神「よしっ!」

男子『おい、しっかりトドメを刺せ! まだ死んでない!』

女神「えっ?」

ゴブリン「ギィィァァアア!!!」

女神「きゃぁあああっ!!?」

パシュッ! ジュゥゥ……

ゴブリン「ギャッ!?」

スライム「ピギィィイイッ!!」

女神「あ、ありがとうスラちゃん! せやっ!」

ザシュッ

ゴブリン「ギャォォオオオ……ッ」

ドサッ

女神「はぁ……はぁ……危ない所でした」

男子『だから言っただろ油断するなって』

女神「はい、すみません……でも、おかしいですね?」

男子『何が?』

女神「あれだけスライムを倒してレベルアップしたんですから、ゴブリンくらい余裕で倒せると思ったんですが……」

男子『ああ、なんだそんな事か』

女神「そんな事って……人間さん、何かご存知なんですか?」

男子『いや、ご存知も何も……お前の今のレベル、三だぞ?』

女神「え?」

男子『初期能力値も低いし、流石にレベル三でゴブリンを余裕は無理だろ。常識的に考えて』

女神「え……は? え? れべる、さん?」

男子『うん。レベル三』

女神「いや、おかしいですよね!!? なんでスライム五百体も倒してレベルがそれっぽっちしか上がってないんですか!?」

男子『だって俺がそう設定したし』

女神「はあ!?」

男子『言ったじゃん。世界の崩壊を早めない為に能力値を最弱に設定したって。お前は成長速度も最弱なんだよ』

女神「だ、だからって……これじゃあ魔王を倒すまで何年掛かるか分からないですよ!?」

男子『大丈夫。時間はいくらでも飛ばせるから』

女神「いやそれ人間さんだけの話ですよね!? 私の体感時間は変わらないんですよ!!」

男子『そうだな。まあ頑張れ』

女神「こ、このっ……鬼畜!」

男子『はいはい、じゃあその調子でゴブリン五百体倒してくれ』

女神「また五百体!?」

男子『倒し終わった頃にまた【神託】するから』

女神「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

男子『……何だよ』

女神「えっと、その。今度はもう放ったらかしにしたりしないですよね?」

男子『はあ?』

女神「っ……で、ですから! 今度はちゃんと、五百体倒したらすぐに来てくれますよね! そうですよね!」

男子『……あーうん。まあなるべく善処する』

女神「約束ですよ!? 私、待ってますからね!」

男子『はいはい、分かった分かった。じゃーな』

女神「あっ……!」

女神「……」

女神「……はあ、もう。仕方ないですね」

女神「あんまり期待しないようにして、さっさと終わらせてしまいましょう」

ガサガサ……

ゴブリン「ギ……」

ザシュッ

ゴブリン「ギギィッ!?」

女神「さあ行きますよ、スラちゃん! この森のゴブリンを、全て狩り尽くしてやるのです!」

スラちゃん「ピギィーーッ!」


<神界>

男子「ここをこうして、ああして……」

男子「うーむ、上手く行かないな。やっぱり借り物の力か……」

男子「さてと、女神の方は……」

ザシュッ ザシュッ ザシュッ

ゴブリン達『『『ギギギィィィイイイッ!!?』』』

女神『あと二百! まだまだ行きますよー!』

スラちゃん『ピギーッ!』

男子「あっ、やべぇ。あんまり森の奥に入らないようにって言うの忘れてた」

女神『おっ、あそこにでっかいゴブリンが居ますね! よーし!』

男子「つーか、あれホブゴブリンじゃねぇか。流石にそれは無理だろ……おい、女神」

女神『ひゃあっ! ……あれ? に、人間さん? まだ五百体倒してないですよ? あ、もしかして私の事心配してくれて』

男子「黙れ。そこから離れろ。あいつとは戦うな」

女神『なんか冷たい!?』

男子「あの大きいのはホブゴブリン。ゴブリンの上位種だ。お前が勝てる相手じゃない」

女神『そうなんですか?』

男子「当たり前だ。見れば分か……らないか。とにかく、あいつからは離れて別のゴブリンを探せ」

女神『えっ……でも、私あれ何体も倒しましたよ?』

男子「は? ……マジで?」

女神『本当ですー! あっ、もしかしてあのゴブリン、普通のゴブリン十体分の価値があったり……?』

男子「いや、ない。通常のゴブリンじゃないから別カウントだ」

女神『えぇええええ!! そんなぁ……』

男子「……まあいい。それと、あまり森の奥に入るなよ。森の深部にはゴブリンなんか目じゃない魔物が居るからな。死ぬぞ」

女神『うっ……分かりました』

男子「それじゃあ、五百体倒した頃にまた【神託】するから」

女神『あっ待って! もうちょっとお話を』

男子「じゃあな」

男子「……」

男子「……ホブゴブリンを倒した? 嘘だろ……」

男子「まあ、強くなってる分には問題ないっちゃあ問題ないけど……」

男子「まさか、また新しいチートを発現したとか?」

男子「うーむ……」

男子「とりあえず、時間を進めてみるか。今度は一週間飛ばして、そこから三日ずつくらいで」

女神『えいっ! やあっ! あと百八十!』

男子「次」

女神『よしっ! あと百二十!』

男子「次」

女神『あと五十! もうちょっとです!』

男子「次」

女神『はぁぁあああ!!!』

ザシュッ!!

ホブゴブリン『ギァァアアアアッッ!!?』

女神『よーし、これで……』

男子「ん? なんでホブゴブリン?」

女神『ホブゴブリン、五百体目です! やりました!』

男子「!?」

女神『あっ、しかも銀貨が落ちてる! やったー!』

男子「待て待て待て!! どうしてそうなった!?」

女神『え?……あ、人間さん! どうですか! 私やりましたよ!』

男子「いや、まあ。やったにはやったんだろうけど……」

女神『それにしても、こんなに早く来てくれるなんて……約束、守ってくれたんですね。嬉しいです!』

男子「それは偶然だ。どうでもいい」

女神『ひどい!?』

男子「それよりも、だ。なんでゴブリンじゃなくてホブゴブリンを倒してるんだ」

女神『え? でも、人間さん、ホブゴブリンを五百体倒してって言ってたじゃないですか』

男子「言ってねぇよ」

女神『ええっ!? で、でも、普通のゴブリンを五百体倒しても全然来てくれなかったですし、ホブゴブリンも倒さないとダメなのかなって……』

男子「は?」

女神『ほら。この前、途中で【神託】があったじゃないですか。あのときちょうどゴブリンとホブゴブリンを三百体ずつ倒した所だったんです。それで五百体倒した頃にまた【神託】するって言ってたから、てっきり……』

男子「……」

女神『……人間さん? あの、まさか』

男子「女神」

女神『はい』

男子「……紛らわしい事するお前が悪い。以上」

女神『はあああああああ!!? ちょっと流石にそれは聞き捨てなりませんよ!!』

男子「うっせぇ!! 俺だって予想外だよこんなの!!」

女神『わ、私、すっごく頑張ったのに!! 頑張ったのにぃ!! こんなのあんまりですよぅ!!』

男子「そうだな。頑張った事は認める」

女神『じゃあ!』

男子「だが方向性が間違ってた。残念だったな」

女神『ふぐぅぅぅうう……っ!!!!』

男子「というか、だ。こんなに早く倒し終わるなんて、また新しいスキルでも発現したのか?」

女神『あなたはいつもそうやって……! え、スキル?』

男子「ああ。ほら、この前スライムと話してたやつみたいな」

女神『スラちゃんです!!』

男子「はいはい、スラちゃんね。で、あんの?」

女神『……まあ、ありますけど? ありましたけどぉ? あなたに教える必要があるんですかぁ?』

男子「なんでそんな喧嘩腰なんだよ。めんどくせぇな」

女神『あ、あなたがそれを言いますか……?』

男子「いいからさっさと話せ。異世界救済に必要な事だ」

女神『分かりましたよ! 言えばいいんでしょう! 言えば! ……私が新しく出来るようになったのは、これです』

スゥゥ……

男子「む?」

女神『気配を消すスキルと、気配察知のスキルです! 森の中限定ですが、これのお陰でゴブリン狩りが随分と楽になったんですよ! すごいでしょう!』

男子「いや、すごいっていうか……それエルフ限定のチートスキルだぞ。分かってるのか?」

女神『え、そうなんですか! さっすが私! 天才ですね!』

男子「……まあ、うん。そういう事にしておくか」

女神『……なんですか。言いたい事があるならハッキリと言ってください』

男子「……いいや? 別に?」

女神『あー! 嘘です! その声は嘘をついてる声ですね!? 女神には分かるんです!』

男子「なんだよ、嘘をついてる声って」

女神『ほらほら、さっさと白状して下さい!』

男子「あーはいはい……分かったよ。じゃあ聞くけどさ」

女神『はい!』

男子「そもそも、管理専門の神って何だ?」

女神『……はい?』

男子「管理専門って事は、そうじゃない神も居るって事か? どうなんだ?」

女神『あの……どうしてそんな話を?』

男子「お前が聞けって言ったんだろうが」

女神『いや、そうですけど……あれぇ?』

男子「いいからさっさと答えろ。データベースにも載ってないんだよ」

女神『わ、分かりました……。その、管理専門の神というのは別世界から人間を送りこんで、異世界を救済する役目を持った神の事です』

男子「うん」

女神『それで、それよりも上位の神々は創世神と呼ばれます。たとえば以前話した先輩神などがそうです』

男子「その二つの神は出来る事に違いがあるのか?」

女神『それはもう! 例えば新たな世界を創造したり、新たなチートを生み出す、というのは創世神の専売特許です』

男子「ふーん?」

女神『一方で私みたいな管理専門の神は、既に出来上がっている世界を調整したり、人間を送りこんだりするくらいが精々です。私が人間に授けていたチートの力も、元は先輩神に譲って貰ったものなんですよ』

男子「分かった。じゃあもう一つ聞くが、なんでお前は異世界を救済しようとするんだ?」

女神『それはもちろん、異世界をたくさん救済した神は創世神に格上げされるからです!』

男子「……」

女神『あっ、でも……私は失敗続きですし、創世神なんて夢のまた夢ですけどね……あはは』

男子「……なるほどな、大体は理解した」

女神『そうですか? なら良かったです』

男子「そして悪いが────お前にはもう、【神託】はしてやれない」

女神『………………え?』

男子「……」

女神『え、あの……えっ? 人間さん? どういう事です? また何かの冗談ですか?』

男子「冗談じゃない。本当だ」

女神『待ってください!! 見捨てないって、私のこと見捨てないって言ったじゃないですかぁ!!』

男子「見捨てる訳じゃない。これはそういう問題じゃないんだよ」

女神『じゃあどうして!!』

男子「悠長に説明している時間はない。【神託】は切るが、お前は急いで魔王城へと向かい、魔王を討伐しろ。そして世界を救え」

女神『はあ!? 意味分かりませんよ!! 絶対に勝てませんって!! というかそもそもどうやって行くんですかぁ!?』

男子「大丈夫だ。今のお前なら出来る。ただ願え、魔王の城へ向かいたいと」

女神『そんな無茶苦茶な……!』

男子「安心しろ。お前はもう、神の力を取り戻している。大抵の事は何とかなるさ。じゃあな」

女神『えっ? ちょっと待っ────!!』

男子「……」

男子「……」

男子「……さて、と」

男子「居るんだろ、先輩神」

先輩神「……おや、気付いてたのかい?」

男子「いや別に。たぶん居るだろなってカマ掛けただけだ」

先輩神「はははっ! なるほど、大した度胸をお持ちのようだ」

男子「それで? ここに来たって事はつまり」

先輩神「ああ、そうだね……阻止させて貰うよ。君達の異世界救済を」

男子「……やっぱりか」

先輩神「正直、もっと早くに失敗すると思ったんだけどね……思いの外上手く行ってるようだから、手を加える事にしたのさ」

男子「そうか……一応聞いておくが、そこまでして異世界救済を失敗させようとする理由はなんだ?」

先輩神「ああ、それはね。────────────だよ」

男子「は?」

先輩神「……」

男子「お前、ふざけてるのか? そんな……」

先輩神「おやおや、ふざけてるとは心外だね。偉大なる創世神が伊達や酔狂でこんな事をすると思うのかい?」

男子「……ああ、そうかい。そうかよ。そんなくっだらねぇ目的に、俺は巻き込まれたって事か」

先輩神「ひどいなあ。僕はこれでも真剣に、────────って思ってるんだよ?」

男子「うっせぇ黙れ!!」

先輩神「あはは、怖い怖い」

男子「チッ! ……仕方ねぇ。こうなったら死んでもお前を足止めしてやる」

先輩神「へぇ……僕に勝てるつもりなのかい? 君のその力だって、元は僕の物だっていうのに」

男子「ハッ、んなこたぁ思っちゃいねぇよ。だがな、やる前から諦めるのは性に合わねぇ」

先輩神「そうかい。まあ、好きにすればいいよ」

男子「ああ、そうさせて貰おう────人間のしぶとさ、思い知るがいい!!」


<魔王城>

ヒュォオ……

女神「……ほ、本当に来てしまいました」

女神「【神託】が無いって事は、私一人で魔王と戦わなきゃいけないんですよね……」

女神「うぅ……怖いです。本当に勝てるんでしょうか」

プニッ

女神「ふぇっ?」

スラちゃん「ピギッ、ピギーッ!」

女神「スラちゃん……! そ、そうですね! 私にはスラちゃんが居ます! 一人じゃないです!」

スラちゃん「ピギッ!」

女神「よーし! スラちゃんと二人で、魔王討伐目指して頑張りますよ! えいえい、おー!」

スラちゃん「ピィーッ!」

女神「……それで、ここは一体何処なのでしょう。どうやらバルコニーのようですが、窓の向こう側は…………え?」

魔王「……」

女神「…………………え?」

女神「あれ? 見間違いでしょうか。何故か目の前にいきなり魔王が見えるような……」

魔王「……」

女神「…………見間違いじゃない!?」

女神「どっ、どどどどうしましょうスラちゃん!? 流石にこれは予想外です!!」

スラちゃん「ピィィ……」

女神「確かに魔王を討伐するとは言いましたけど! 言いましたけどぉ!! まだ心の準備がぁ!!」

魔王「……おい、そこの小娘」

女神「ぴゃいっ!」

魔王「そこで何を騒いでいる?」

女神「え、あ、はひっ! わ、私ですか!?」

魔王「他に誰がいるのだ」

女神「そ、そうですよねぇ!! あは、あはは……」

魔王「……」

女神「……」

魔王「……いつまでそこに居るつもりだ? 早く中に入って来い」

女神「えっ、入っていいんですか?」

魔王「そのままそこで騒がれる方が敵わん。早くしろ。殺されたいのか?」

女神「は、はいいいっ!! 入りますっ! 入りますぅ!!」

ガチャッ……キィィ

女神「し、失礼します……」

魔王「……」

女神「……」

魔王「……小娘」

女神「はいっ!?」

魔王「その魔物は、スライムか?」

女神「えっ……あ、はい! そうです! 私の仲間の、スラちゃんです!」

スラちゃん「ピ、ピギッ!」

魔王「ふむ? 見た事のない種だな……貴様は、魔に連なる者か?」

女神「え?」

魔王「我の配下かと聞いている」

女神「い、いえいえ違います!! 滅相もございません!!」

魔王「ふむ……なら人間の魔物使い、あるいは勇者か?」

女神「そ、それも違います……」

魔王「ではなんだと言うのだ」

女神「女神です」

魔王「……女神、だと?」

女神「はい」

魔王「……それで、女神が何故我の元に?」

女神「それは、その……ですね? 実は私、この世界の歪みを修正する為に色々頑張ってまして」

魔王「……」

女神「あなたのような魔王がいらっしゃると、世界の歪みがどんどん激しくなって最終的には崩壊してちゃうんです」

魔王「……」

女神「ですから、その、世界を救う為に……ちょっと、死んで頂けないかなぁって、あはは。ダメ……でしょうか?」

魔王「……ふむ。よく分かった」

女神「本当ですか!? じゃ、じゃあ……!」

魔王「ああ、望み通り死をくれてやろう────貴様のな!!」

ドゴォォオン!!

女神「いやぁああああああ!!! やっぱりぃぃいいい!!!」

魔王「む……避けたか。だが次は逃さんぞ!」

女神「無理ぃぃいい!! 死んじゃいますぅぅうう!!」

スゥゥ……

魔王「なっ……消えた!?」

女神「うわぁああああん!!!」

ザシュッ!

魔王「ぐっ! いつの間に……」

女神「ダ、ダメです……全然ダメージが通らない……!」

魔王「当然だ。小娘の短剣なぞ痛くも痒くもないわ」

女神「かくなる上は……スラちゃん!!」

スライム「ピギィィイイッ!!」

ペシャッ ジュゥウウ……

魔王「む?」

女神「剣で切れないなら、溶かすまでです! お願い、スラちゃん!」

スライム「ピ、ピギィィイイッ……!!」

魔王「……邪魔だ」

バシュッ!

スライム「ピギィィイイッ!!?」

女神「スラちゃぁあああああん!!!?」

魔王「む。今ので死なんか……しぶといスライムだな」

女神「ス、スラちゃん!! しっかりして! スラちゃん……!!」

スライム「ピ、ピィィ……」

女神「うぅ、ひどい……ひどいです……きゃぁああっ!!」

ドガァァアン……!!

魔王「殺し合いの最中に背を向けるとは余裕だな、小娘!!」

女神「……」

魔王「どうした? もう声も出んか」

女神「……」

魔王「ふん、他愛ない……次の一撃で消し炭にしてくれよう」

女神「……さない」

魔王「む?」

女神「許さない、許さない、許さない……よくもスラちゃんを……!!」

魔王「……まだ立ち上がるか。だが、無駄だ」

ガキィィインッ!!

魔王「なっ……!? 高位結界だと!?」

女神「スラちゃんは私の大切な仲間……たった一人のお友達です。それを傷付ける者は、たとえ魔王でなかろうとも絶対に許しません……!!」

魔王「馬鹿なッッ!! これはまさか、神の……!!」

女神「女神の名の下に宣告します────消え失せなさい、魔の王よ!!!」

パァァアアアッ……!!

魔王「グァァアアアッ!!! やめろぉぉおお!!! 我の、力がぁぁあああ!!!」

パァァアアアッ……!!

魔王「消える……消えてゆくぅぅううう!!! ウォォオオオオ……!!!」

パァァアアアッ……!!

魔王「ガァアアアアア……ッッッ!!!」

パァァアアアッ……!!

魔王「くそっ……こんな……こんな終わり方があってたまるかぁあああ!!!」

女神「あれ!? まだ消えないんですか!? これ結構しんどいんですけど!!?」

魔王「かくなる上は貴様も道連れにィィイイイ……!!!」

女神「いやぁぁああ!! ちょっ、早く、消えて!! 消えて下さいぃぃいいい!!!」

魔王「ォオオオ……ォ────!」

シュゥゥン……

女神「はぁーっ……はぁーっ……!」

女神「……」

女神「……た、倒した?」

スラちゃん「ピィィッ!」

女神「あ、スラちゃん! 無事だったんですね! 良かったぁ……」

スラちゃん「ピギッ!」

女神「……えへへ。スラちゃん、私、やりましたよ。ついにやりました! 魔王を、倒したんです! 初の異世界救済です!」

スラちゃん「ピィー?」

女神「嘘じゃないです。本当ですよ! ……ふふふ。これで私も一歩、創世神に近付きましたね!」

スラちゃん「ピッ!」

女神「それにしても……人間さんの言っていた通りでしたね。私、また神の力が使えるようになってました」

スラちゃん「ピィ」

女神「もしかして、先輩神が気を遣って力を返してくれたんでしょうか……うーん。でも、なんか今までの力とは違う感じがするんですよね」

スラちゃん「ピィ?」

女神「……まあ、いいです! それじゃあ、一度神界に帰還して……」

先輩神『困る。困るんだよなぁ、そういうの』

女神「えっ?」

先輩神『悪いけど、ハッピーエンドはお呼びじゃないんだ。この世界は予定通り、崩壊して貰うよ』

女神「この声……先輩神様!? 一体何が……」

先輩神『可愛い女神。君には異世界救済という甘美な蜜はまだ早い。今は須く、辛酸を舐め耐え忍ぶべき……そうだろう?』

女神「……はい? すみません、おっしゃってる意味がよく分からないのですが……」

先輩神『あははっ! つまりは────こういう事さ!』

ゴゴゴゴ……

女神「きゃぁあああっ!?」

先輩神『さあ、行け! チートまみれの人間君! この世界を滅びへと導くんだ!!』

女神「な、なななな……!? 救済されたはずの世界が、壊れ……えっ!?」

男子「……」

女神「人間さん!? どうしてここに!?」

男子「……悪い。しくじった」

女神「しくじったって……何を?」

男子「あいつだ。あのクソ先輩神が、諸悪の根源だったんだよ……ッ!!」

女神「……え?」

先輩神『あははっ! その人間には、ボクが譲渡できるだけのチートを付与してある! この世界の寿命はもってあと10分さ!』

女神「そんな……っ! どうしてですか、先輩神様!?」

先輩神『どうして? まだ気付かないんだね。本当に間抜けで……愛おしい女神だよ、君は』

女神「ま、間抜けって……!」

男子「あのクソ神はお前に異世界を救済して欲しくなかった……だから間違った常識を教え込んで、お前の異世界救済をずっと邪魔していたんだよ。今までも、今回もな」

女神「はあ!? え、それってまさか……」

先輩神『……』

女神「私の才能に、嫉妬してたって事ですかぁ!?」

先輩神『……うん?』

女神「そ、そうだったんですね!! だから、私は二兆五千八十億四千三百万と八十五回も異世界救済を失敗して……許せません!!」

男子「あー……いや、その。女神?」

女神「人間さん、私、あなたの事をちょっと酷い人だなって思ってましたけど……でも本当は私の事をずっと考えてくれてたんですね! 誤解して申し訳ありませんでした!」

男子「うん、うん。分かった。一回落ち着け、な?」

女神「そして、ありがとうございます! あなたのお陰で諸悪の根源を見つける事が出来ました!」

男子「いやだから、違うんだって」

女神「さあ一緒に、あの憎っくき先輩神を討伐しましょう! えい、えい、おー!!」

男子「あーもう! 一回黙れ!!」

女神「むぐぅぅうっ!!?」

男子「いいか? お前の予想は半分当たっていて、半分間違っている」

女神「む、むぐぐっ!?」

男子「確かに俺の見立ててでは、お前の神としての才能はクソ先輩神を遥かに凌ぐ。だが、あいつの目的はそこじゃなかったんだよ….…」

女神「ぷはっ! ……えっ、それじゃあ本当の目的って?」

男子「それは……」

先輩神『待って。そこから先は、僕が話そう』

女神「……先輩神」

先輩神『様、はもう付けてくれないのかな? 悲しいなぁ……でも仕方ないか』

女神「いいから、早く話してください」

先輩神『はいはい……そうだね。僕が君の、女神の異世界救済を悉く妨害し、失敗させてきた理由……それは』

女神「それは……?」

先輩神『女神のお尻を────ペンペンする為だよ!!』

女神「………………………………………………………………………………………………………………………はあ?」

先輩神『……』

女神「……えっ。いや、あの……えっ? おし、り?」

先輩神『ペンペン』

女神「……」

男子「……女神」

女神「……」

ポンッ

男子「諦めろ。これが真実だ」

女神「はっ…………はぁぁあああああああああああああああああああ!!!?!?!? お尻ペンペン!!? 何ですかそれ!!?? バッカじゃないんですかぁ!!?」

男子「俺もそう思う」

女神「そ、そんなっ、そんな事の為に!!? そんなくっっだらない理由で私は二兆五千八十億四千三百万と八十五回も異世界救済を失敗させられたんですかぁ!!?」

男子「残念ながらそうらしいな」

女神「ふ、ふざっ……ふざけっ……ぁあああああああッッ!!!!」

先輩神『ふざけてなんかいないさ。君のお尻は非常に叩き心地が良いんだ。そう、打てば響く太鼓のように……ね』

女神「黙りなさいッッ!! この変態セクハラゴミクズ産業廃棄物ッッ!!!」

先輩神『もはや神ですらない』

女神「許しません……絶っっっ対に許さない……!! 殺じでやるぅぅぅううう……ッッ!!!!」

男子「落ち着け。気持ちは分かるが、冷静にならんとこの状況は解決出来ないぞ」

女神「だっ、だって!! あいつが!! あのゴミクズがぁあああ……!!!」

ポフッ

女神「ひゃああっ!!?」

スラちゃん「ピィー!」

女神「あ、わわっ……スラちゃん?」

男子「ほら、そのスラ……ちゃんも言ってるぞ。落ち着けって」

女神「ス、スラちゃん……」

スラちゃん「ピッ、ピィッ!」

女神「うん……うん。そうですよね。私が、この世界を守らないと……!」

男子「その意気だ。それじゃあ、作戦を伝えるぞ」

女神「さすが人間さん! もう作戦を用意してあるんですね!」

男子「ああ、つってもほとんどお前頼みになるけどな」

女神「任せて下さい! 私に出来る事なら、なんだってしてみせますよ!」

男子「よし。じゃあまず、お前に創世神の力があるのは分かるな?」

女神「あ、はい。何となく……ですけど」

男子「その力を使って、滅びゆくこの世界を片っ端から修正していってくれ」

女神「えっ。でも、それだけじゃ……」

男子「いいから、さっさとしろ」

女神「わ、分かりました! ふぐぅぅうううう……っっ!!」

ゴゴゴゴ……

女神「〜〜〜〜〜〜ッ!! や、やっぱり無理ですぅ!! 抑えきれません!!」

先輩神『あははっ! 無駄だよ。そんな付け焼き刃じゃあ、崩壊は免れないさ!』

女神「ああああ!!! やっぱりムカつきますぅぅうううう!!! ふぐぅぅうううう!!!」

男子「お、いいぞ。その調子で、崩壊を出来るだけ遅らせてくれ」

女神「つ、次は!? 次はどうするんですかぁ!?」

男子「そうだな。次は……こいつの番だ」

スラちゃん「ピギィ?」

女神「え、す、スラちゃん!?」

男子「そうだ。こいつに崩壊の核である俺を包ませて、この世界の歪みそのものを吸収してもらう」

女神「いや、何言ってるんですか!!? いくらスラちゃんが可愛くてもそれは無理ですよ!?」

男子「出来るんだよ。何故ならこいつはただのスライムじゃない。女神の力を注がれた、神聖生物だからだ」

女神「え……はい? 神聖?」

男子「ああ。お前、ずっとこいつと一緒に行動してただろ? そのせいで、本来は歪みをもたらす魔物の性質が、歪みを吸収する性質に変化したんだよ」

女神「えーっと、つまり?」

男子「こいつは歪みに強いんだよ。魔王に殴られても死なないくらいにはな」

女神「ああ、なるほど!」

男子「という訳で、頼んだぞ。スラ……ちゃん」

スラちゃん「ピギィ!」

グニグニ……シュゥゥウ

女神「あ、崩壊が収ま……って、人間さん溶けてませんか!? 大丈夫ですか!?」

男子「俺の事はいいから気を抜くな!! まだ崩壊は続いてるぞ!!」

女神「わ、分かりました! ふぐぅぅうううう……っ!!」

スラちゃん「ピギィィイイ……ッ!!」

ゴゴ……ゴ……

女神「ふぐぅぅうううううううッッッ!!!!」

スラちゃん「ピギィィイイイイイッ!!!!」

ゴ…………

女神「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!! ぷはあっ!!」

スラちゃん「ピィッ!!」

女神「ど、どうですか? 収まりましたか!?」

男子「……ああ。完璧だ。良くやった」

女神「って、きゃああっ!! 人間さん、服が……!」

男子「落ち着け。服程度で済んだなら安いもんだろ」

女神「で、でも! その格好は流石に刺激が……!」

男子「……いや、そう思うなら早く服をくれよ。創世神の力使えるんだろ」

女神「はっ! そうでした! ……ど、どうぞ!」

パァァア…!

男子「貫頭衣……まあ無いよりはマシか」

女神「それにしても、やりましたね人間さん! 今度こそ、この世界を救済出来ましたよ!」

男子「あ? 何もう終わった気でいるんだよ」

女神「え?」

男子「まだひとつ、ビックイベントが残ってるだろうが。ほら」

先輩神『あはは、まさか崩壊を止めてしまうなんてね……流石にこれは、予想外かな』

女神「……ああ。そうでしたね。私とした事が、うっかりしてましたぁ……うふふふ」

男子「ククク……諸悪の根源をぶん殴ってこそ、ハッピーエンドってもんだよなぁ? クソ先輩神さんよぉ?」

先輩神『おお、怖い怖い。まさか僕に攻撃するつもりなのかい?』

男子「出来ねぇと思ってんのか?」

先輩神『ふふふ、怖いね。怖いから……今日の所はここまでにしておこうか』

女神「ああ!! あのゴミカス、逃げようとしています!!」

男子「大丈夫だ。【一連托生】」

ジャラララッ……ガキィンッ!

先輩神『……あっれぇ? この鎖は何かな?』

男子「神々の盟約第五条。救済を全うせずに、救済を行う人間を変えること能わず……だったか?」

先輩神『……まさか』

男子「随分と念入りにチートを注ぎ込んでくれたからなぁ? お陰で細工をする時間はいくらでもあったよ」

先輩神『……』

男子「そして、元々俺と女神は【一連托生】だ。……つまり」

男子「てめぇはもう────俺達から逃げられない」

先輩神『……あはは。参ったね、これは』

女神「人間さんっ! あなたってば、本当に最高です!!」

男子「まだまだこんなもんじゃねぇぞ。スラちゃん、解放準備」

スラちゃん「ピギッ……ピィイッ!!」

女神「わっ!? す、スラちゃんが光って……!」

男子「吸収した歪みは消えた訳じゃない。それをまとめてぶつけりゃあ、いくら神といえどもひとたまりもねぇだろ」

女神「な、なるほど……!」

先輩神『えっちょっと待って、それは流石に洒落にならないんだけど』

男子「うるせぇゴミが喋るな。……おい、女神」

女神「はい!」

男子「お前がやれ」

女神「えっ?」

男子「お前がその拳にスラちゃんの力を乗せて、あのゴミクズの顔面をぶん殴るんだ」

女神「……いいんですか? 人間さんも、あのゴミカスを殴りたいはずじゃ」

男子「ああ、そうしたいのは山々なんだけどな……俺がやる場合、殴る前に歪みに耐えきれずに死ぬ。そして世界が滅ぶ。だが創世神の力を持つお前なら出来るはずだ。それに……」

女神「……」

男子「二兆回の救済失敗の恨みを持つお前が殴る方がふさわしい。そう思っただけだよ」

女神「人間さん……!」

男子「頼んだぞ、女神。あいつの顔面をボコボコのグチャグチャにしてやってくれ」

女神「分かりました! 誠心誠意、滅します!!」

ピカーッ!!!

スラちゃん「ピィィイーーーーーッ!!!」

男子「お、準備が出来たみたいだな。それじゃあ引き摺り下ろすぞ……ふんッッ!!!」

ジャラララッ……ドサッ

先輩神「痛っ! ちょっ、髪が絡まって……イタタタッ!!」

男子「さあ、やれ。女神」

女神「分かりました。……おいで、スラちゃん」

スラちゃん「ピッ!」

ゴゴゴゴ…

女神「はぁぁああああ…………ッッ!!!」

先輩神「あ、待って待って。それなんか本当にヤバいって! そんなので殴られたらシンプルに死んじゃうから! やめて!!」

女神「黙りなさい……あなたに告げる言葉はたった一つのみ。すなわち────」

カッ!

女神「悔い改めなさい、この────ド変態ッッ!!!!」

ドガァァアアアン!!!

先輩神「ぎゃぁあああああああああッッッ────!!!」

ガキィン!

先輩神「────ああああッ!? えっ!?」

男子「よし、じゃあ二発目よーい」

女神「任せてください! 次はアッパーです!」

先輩神「えっ、ちょっ、あっ……待って!! 一発だけじゃないの!?」

男子「はあ? いつ誰がそんな事を言ったよ」

女神「【一連托生】の効果は世界の歪みが無くなるまで、です。その意味、分かりますよねぇ?」

先輩神「…………え? 嘘でしょ?」

男子「嘘じゃねぇよ。とりあえず、最低でも地面とコイツの区別が付かなくなるまでは磨り潰すからな」

先輩神「あ、あははは…………あの、土下座するんで許し」

女神「せいやぁぁああああああ────ッッ!!!!」

ドガァァアアアン!!!

先輩神「ギャァアアアアアアアアアアアア──────ッッッ!!!!」


<神界>

女神「ただいま戻りました……」

男子「おう。で、あのゴミカスはどうなった?」

女神「えっと……故意に異世界を滅ぼし続けた罪で、神界追放八千億年、かつ私との関わりを永久に断つ事になりました」

男子「なるほどな。まあそのくらいが落とし所か」

女神「私としては神界永久追放の刑が良かったのですが……うぅ」

男子「仕方ねぇだろ。そもそも二兆回も騙されるお前にも責任はある」

女神「だ、だって!! あんな酷いこと考える神が居るなんて、普通思わないじゃないですかぁ!!」

男子「ああ、うん。それに関しては同意するけど……」

女神「ぐぬぬ……納得行きません。こんな事なら、もっと沢山殴って置くべきでした!」

男子「いや、無理だろ。あれ以上どうやって殴るんだよ。ほとんど赤黒い砂になってたぞ」

女神「でも! でもぉ……!」

男子「ま、あんだけ細切れにすりゃ数億年は復活しねぇだろうからな。それで納得して、あのゴミカスの事はもう忘れろ」

女神「うぅ……分かりたくないですが、分かりました」

男子「おう」

女神「……あ、そう言えば」

男子「ん?」

女神「人間さん、いつから気付いてたんですか?」

男子「何がだよ」

女神「えっと、色々です。ほら、異世界救済が邪魔される事とか、私の創世神の力が目覚めていた事とか!」

男子「あー……なんつーか、どっちも疑い始めたのはスライムを五百体倒した辺りで、確信を持ったのはホブゴブリン倒した辺りだな」

女神「え? 最初から気付いてた訳じゃなかったんですか?」

男子「んな訳ねぇだろ。どんなエスパーだよ」

女神「じゃあ最初にスライム五百体倒させた理由って……?」

男子「あ? そんなもん、それ以外にお前のレベルを安全に上げる方法が無かったからに決まってんだろ」

女神「……つまり、私を心配してくれていたんですか?」

男子「ああ。ほっといたら全裸で魔王に突撃して死ぬ恐れがあったからな……」

女神「ひどい!? 流石にそこまでバカじゃないですよ!!」

男子「つっても事実、突撃しようとしてたじゃねぇか。初期レベルで」

女神「うっ……た、確かにそうですけど」

男子「まーそういう訳で、最初の計画は酷く地道で堅実なレベル上げ。だが、途中でお前の創世神の力が目覚めたから……」

女神「それを利用する計画に変更したんですね?」

男子「そうだ。そもそも神を異世界に送る時点でかなり無理があったからな。ゴミカスの妨害も相まって、あの世界が崩壊するのは時間の問題だったんだよ」

女神「はぁー……割と、ギリギリの戦いだったんですねぇ」

男子「他人事みたいに言うな。お前の働き次第で失敗する可能性もあったんだぞ」

女神「あっ、すみません……その、まだ実感湧かなくて」

男子「実感?」

女神「だ、だって、今までずーっと失敗してたのに、今回初めて救済出来たんですよ! だから今でも信じられないというか……ふわふわしていて、なんだか幸せな気分です。えへへ」

男子「……そうかい。そりゃー良かったな」

女神「はい! 良かったです!」

男子「……」

女神「……あ! それでですね! 実はまた救済が必要な異世界が発生しまして、その……また人間さんと一緒に救済に行きたいのですが」

男子「え? 嫌だけど」

女神「本当ですか! よろしくお願いします! ……って、え?」

男子「そもそも、異世界救済したら地球に戻す約束だったろうが。早く戻せよ」

女神「え……えええええええええええっ!!? 救ってくれないんですか!?」

男子「むしろなんでやると思ったんだよ」

女神「だ、だってぇ……今回すごく上手く行ったので、次もやってくれないかなーって」

男子「どんだけ都合の良い思考回路してんだよてめぇは」

女神「そ、そんなぁ……!」

男子「今回のは例外中の例外だ。ほら、分かったらさっさと地球に戻せ」

女神「…………無理です」

男子「は?」

女神「無理ですよぉ!! だ、だって、救済回数がまだ全然足りませんし……!」

男子「……おい、てめぇ。ふざけてんのか?」

女神「ひぃっ!?」

男子「お前言ったよなぁ? 異世界を救済したら、その力を使って地球に戻れるって。まさか嘘ついたのか!?」

女神「ひぃぃんっ!! ご、ごめんなさい!! 嘘じゃないですぅ!!」

男子「だったら無理無理言ってないでさっさと地球に戻せや!!」

女神「だ、だから! 足りないんです! 私、何回も救済を失敗してたから! 負の救済エネルギーが溜まっちゃっててぇ!!」

男子「……ああん? どういう意味だよ」

女神「今回の救済で得た力も、ほとんど相殺されちゃって残ってないんですぅ! だから地球には戻せません!」

男子「はあああああ!!!? ざっけんじゃねぇぞ!!」

女神「ごめんなさいいいいい!!!」

男子「じゃあ何だ!? まさかあと二兆回異世界を救えとでも言うつもりか!!?」

女神「そ、そこまでじゃないですけど……その」

男子「その?」

女神「最低でも、あと百回くらいは救済が必要かなーって……てへっ」

男子「……」

ゴッ!

女神「痛ぁぁあああ!!?」

男子「ざっけんなコラァァアア!!! なんじゃそりゃぁああああ!!!」

女神「ま、また殴りましたね!? せっかくたんこぶ治りかけてたのに!!」

男子「うっせぇ黙れ!! ぬか喜びさせやがってこの疫病女神!!」

女神「疫病女神!?」

男子「ああ、もう。最悪だ……こんなのどうしろってんだよ……」

女神「……あ、あのー。人間さん?」

男子「ああん!?」

女神「ひぃっ! ……そ、その。次の異世界救済の話なんですが」

男子「……」

女神「実は、今回の件が神界の議会でも認められまして……限定的ではありますが、人間さんに神の力をお貸し出来る事になったんです」

男子「……で?」

女神「つ、つまり! 私と人間さんがタッグを組めば、神の力は二倍! どんな異世界も救済出来ちゃうに違いありません!」

男子「……」

女神「……ですからその、これからも一緒に異世界を救ってくれませんか? そうしたらきっと、百回分の救済エネルギーもすぐに溜まるはずですから……ね?」

男子「……一応聞いておくが、断ったらどうなる?」

女神「その場合は、私が一人で百回分の救済を成功させるまで、神界で待っていて頂く事になります。……もっとも、それだといつまでかかるかは分かりませんが」

男子「…………………はぁぁあああああ」

女神「に、人間さん?」

男子「……仕方ねぇな」

女神「!」

男子「おい、女神。次の異世界の情報を寄越せ」

女神「じゃ、じゃあ……!」

男子「付き合ってやるよ……あと百回だけだ」

女神「あ……ありがとうございます! ありがとうございます、人間さん!!」

男子「いいか? 百回救済したら速攻で地球に戻るからな! 今度は嘘とは言わせねぇぞ!」

女神「はい、はいっ! もちろんです! よろしくお願いしますぅ!!」

男子「本当に分かってんのか……?」

女神「分かってますよ! 人間さんが居れば百神力です!」

男子「不安だ……」

女神「えへへー」

男子「……まあ、いいか。それじゃあ、めんどくさいけど……」

男子「さっさと異世界、救っちゃいますか」

-完-

以上です。ありがとうございました。
 
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この記事のコメント一覧
1 . @  ID:5D3mVmF10編集削除
ジョーカー
2 . 名無しさん  ID:gNeTTzJh0編集削除
クソバカに長い
やり直せ
3 . 名無しさん  ID:e7AD.wEv0編集削除
女神のセリフが雨宮天の声で脳内再生されたわw

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