主人「みんな、今夜は勇者様がここに宿泊する!」

主人「勇者様一行は魔王を倒すため旅をしていて、大変疲れている!」

主人「全力でおもてなしするぞ!」

妻・息子「応ッ!!!」

従業員「いつも通り接客した方がいいんじゃ? 絶対空回りしますよ」

主人「む!」

従業員「それにどんな客でも全力でもてなすのが、宿屋のあるべき姿だと思いますが」

主人「ええい、正論を吐くな!」



主人「もし、勇者様に気に入ってもらえたら評判も上がり、宿泊客も増えるというもの!」

主人「ゆえにいつも以上に全力でいかねばならんのだ!」

従業員「はぁ……まあ頑張りましょう」


勇者一行――

勇者「今日の敵は手強かったな……」

戦士「ああ……なにしろ暗黒騎士の直属部隊だったからな。敵も本腰入れてきてやがる」

女魔法使い「あたし、もう魔力すっからかんよ……」

女僧侶「私もです……」

勇者「あそこが今日予約してある宿屋だ。ゆっくり休ませてもらおう」

パッパッパッ…

勇者「なんだこれ!?」

戦士「紙吹雪……!?」

主人・妻・息子「お待ちしておりましたーっ!!!」

勇者「ど、どうも……」

従業員(だから言わんこっちゃない)

従業員「お部屋へご案内いたします。こちらへどうぞ」

戦士「最初は面食らったが、なかなかいい宿だな」

勇者「うん、今夜は久々にくつろげそうだ」

妻「失礼します」

勇者「あ、女将さん」

妻「お風呂の準備ができましたので、どうぞ」

勇者「ありがとうございます!」

主人「息子よ、準備しろ!」

息子「うん!」

主人「自慢の斧で……高速薪割りだああああああああああっ!!!」

ココココココココココココココンッ

主人「どんどん薪をくべてけ!」

息子「分かったよ、父ちゃん!」ポポポポポイッ

ボワァァァァァ…

女魔法使い「いい湯だったねー」ホカホカ…

女僧侶「ええ、リラックスできました」ホカホカ…

戦士「混浴だったらさらに最高だったのによ!」ホカホカ…

女魔法使い「なにいってんのよ、このスケベ!」ホカホカ…

従業員「お食事の準備ができております。あちらの部屋にどうぞ」

勇者「はい」ホカホカ…

妻「当宿名物、ビーフシチューでございます」

勇者「これはおいしそうだ!」

妻「勇者様のお口に合うかどうか……」

勇者「いただきます」モグッ

勇者「……うまい!」

戦士「うめえぜ!」

女魔法使い「こんなにおいしいビーフシチューははじめて!」

女僧侶「濃厚でそれでいてまろやかで……おいしいです!」

妻「あなた、やったわぁ〜!」

主人「よくやった、妻よ……!」

ガシッ!

従業員「ベッドメイキングが終わりました」

勇者「ありがとうございます」

主人「よろしければ」シュザッ

妻「子守唄を歌いましょうか?」シュザッ

息子「寝酒もあるよ!」

勇者「いえ、お気持ちだけで……」

勇者「じゃあ、みんなおやすみ!」

戦士「おう! 今夜はゆっくり休めそうだ!」

女魔法使い「また明日からも戦いは続くものね」

女僧侶「おやすみなさい、皆さん」

ぐぅ…… ぐぅ…… すやすや……

……

魔物「暗黒騎士様、どうやら勇者どもは寝静まったようです」

暗黒騎士「今日の昼、奴らはかなりの激戦を強いられている。今こそ絶好の好機だ」

暗黒騎士「この魔王軍幹部が一人、暗黒騎士が必ずや討ち取ってくれようぞ!」

暗黒騎士「さあ、あの宿屋に攻め込むぞ!」

魔物「はっ!」

主人「ちょっと待ったァ!!!」

暗黒騎士「……む?」

暗黒騎士「なんだ貴様らは……」

主人「私はこの宿屋の主人だ」

妻「妻よ」

息子「息子だ!」

従業員「えーっと、従業員です」

暗黒騎士「ほう……」

暗黒騎士「勇者一行どころか兵士ですらない者が、我々になんの用だ?」

主人「ここから先へは一歩も通さん!」

暗黒騎士「通さない? どういう意味かな?」

主人「分からんのか……勇者様たちに手は出させないという意味だ!」

暗黒騎士「これは面白い……おい、誰か相手をしてやれ」

怪物「ではオレ様にお任せを……」グヘヘヘ…

怪物「食い殺してやる!」グワァァァァァッ

主人「……」

主人「薪をカチ割るように……脳天をカチ割るッ!!!」

ガシュッ!!!

怪物「ぐぴゃっ!」ドズゥン…

暗黒騎士「……な!」

暗黒騎士(斧で一撃だと……!)

暗黒騎士「面白い……奴らを殺せ! 魔物どもよ!」

ウガァァァァ… キシャァァァァ… グオォォォォォ…

妻「こっちにも来たわよ!」

息子「よぉーし!」

主人「君まで戦うことはないんだぞ?」

従業員「そういうわけにもいかないでしょう。給料もらってますし」

妻「包丁乱舞!」

スパパパパパッ!

息子「薪を改造した棍棒でかっ飛ばしてやる!」

カキーンッ!

亜人「てめえは武器無しか! もらったァ!」

従業員「あいにく素手の方が強いもので」シュッ

ズドォッ!

亜人「ごふぅぅぅぅぅ!?」

魔物「あ、あいつら……強いです! ものすごく強いです!」

暗黒騎士「……ふむ」

暗黒騎士「宿屋の者ども! この暗黒騎士が直々に相手になってやろう!」チャキッ

主人「……!」

主人(雑魚どもとは格が違うようだ……さすがは幹部!)

主人「行くぞ、暗黒騎士!」ジャキッ

主人「でやああああっ!!!」

ガキィンッ!

主人(軽々と……!)

暗黒騎士「人間にしては大したものだ。だが、私の相手になれるレベルではない!」

ズバァッ!

主人「ぐおっ……!」

妻「あなた!」

妻「よくもやったわね! ――包丁乱舞!」

キキキキキンッ!

妻「全部捌かれた……!」

息子「だああっ!」ブオンッ

バキィッ!

息子「ぎゃぶっ!」

従業員(飛び蹴りで……!)バッ

ガシッ!

従業員(掴まれた!)

暗黒騎士「むんっ!」ブオンッ

ドゴォッ!

従業員「ぐわぁっ!」

主人「ま、まだだ……」ヨロッ

暗黒騎士「!」

暗黒騎士「どけ! 貴様ら如きにかまってる暇はないのだ!」

主人「どくわけには……いかん!」ヨロ…

主人「勇者様の……いや、お客様の安眠を妨げるわけにはいかん。宿屋の誇りにかけて!」

暗黒騎士「宿屋の誇り? 笑わせるなァ!」

ガキィンッ!

暗黒騎士「ぬ……」グググ…

主人「うおおおお……!」グググ…

暗黒騎士「ハァッ!!!」ブオンッ

主人「ぐはぁっ!」ドサァッ

妻「あなた!」

息子「父ちゃん!」

従業員「旦那さん!」

主人「まだまだ……」ヨロ…

暗黒騎士「まだ立つか……」

暗黒騎士「よかろう。その健闘に免じてチャンスをやろう」

主人「なに!?」

暗黒騎士「少し暴れたので腹が減った。なにか食事を持ってこい」

暗黒騎士「もし美味ければ……こちらの気も変わるかもしれんぞ」

妻「……分かったわ!」

妻「私のビーフシチューを持ってくるから待ってなさい!」

妻「どうぞ」

暗黒騎士「……どれ」モグ…

暗黒騎士「ほう……これはなかなか……ふむ……」

魔物「あのー、一口いいですか?」

暗黒騎士「ダメだ」

魔物「あうう……」

妻「今日ははりきって作りすぎたから、少しずつでよければみんなに振る舞ってあげるわ!」

ワァァァァ…

暗黒騎士「ごちそうさま」

主人「……」

暗黒騎士「一つ質問をしよう」

妻「なによ?」

暗黒騎士「なぜ毒を盛らなかった?」

暗黒騎士「毒を盛っていれば、もしかしたら私を殺せたかもしれないのに」

妻「そんなの決まってるわよ。ねえ、あなた?」

主人「我々は宿屋だ!」

主人「たとえ魔族であろうと、食事を求めてきた相手に毒を盛るなど……そんなことできるかァ!!!」

暗黒騎士「……」

暗黒騎士「退くぞ」クルッ

魔物「暗黒騎士様!?」

魔物「まさか、あんな奴ら相手に約束を守るおつもりですか!?」

暗黒騎士「そうではない」

暗黒騎士「この四人を相手にし、なおかつ勇者一行をも倒そうとなると……かえって犠牲は大きくなりそうだ」

暗黒騎士「さらばだ」

暗黒騎士「……なかなかの宿屋だった」

ザッザッザッ…

主人「……」

妻「あなた、やったわね!」

息子「あいつら帰ってったよ!」

主人「……ああ。何とかなったな」

従業員「旦那さん、俺、この宿屋に勤めててよかったです」

従業員「皆さんの宿屋魂を見せてもらいました!」

主人「そんなこといっても給料は上げないぞ」

従業員「あ、バレました?」

アハハハハ… ワハハハハ…

……

翌朝――

勇者「昨夜は久々にぐっすり熟睡できました!」

勇者「ところで……俺たちが寝てる間は何もありませんでしたか?」

主人「はい、何もありませんでした。なぁ?」

妻「ええ、何もなかったわ」

息子「静かな夜だったよね!」

従業員「勇者様たちがぐっすり眠れて何よりですよ」

勇者「それじゃ、行ってきます!」

戦士「絶対魔王を倒してくるぜ!」

女魔法使い「その前に当面の敵はまず暗黒騎士だけどね。そろそろ本人が攻めてくるわよきっと」

女僧侶「皆さん、お世話になりました」

主人・妻・息子・従業員「またお越し下さいませー!!!」

―おわり― 
 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:JbW5gUFa0編集削除
やwwwどwwwwwやwww
2 . 名無しさん  ID:VuLDWtpi0編集削除
すべからくプロとはこうありたいものだ。

やぁっwww どやっwww
3 . @  ID:JzNRVcA.0編集削除
ジョーカー

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