魔王「まだ心の準備ができてないよぉ……」

勇者「な、なんだ……子供……?」

勇者「……いや」

勇者「こんな場所に子供がいるわけがない」

勇者「誰だお前は、名乗れ」ジャキッ

魔王「ふぇぇ……やる気満々だよぉ……」 

勇者「名乗れと言っている」

魔王「ふぇぇ……魔王だよぉ……」

勇者「魔王?」



勇者「長たる者がそのような姿でだまし討ちとは」

勇者「やはり魔族、滅ぼすほか無いようだ」

魔王「ふぇぇ……これは生まれつきだよぉ……」

勇者「……」

魔王「?」

魔王「来ないのぉ?」

勇者「……卑怯者め」

魔王「???」

勇者「分かったうえで言っているんだろう?」

勇者「その姿でいる限り、子供が操られている可能性は拭えない」

勇者「お前がその力を持って自身を証明するまで」

勇者「……私は手を出せない。先手を許すことになる」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「じゃあ……これでいい?」

ボォォオオオ

勇者「!!!」

シュバッ

魔王「きゃっ」

魔王「ふ、ふぇぇ……見るなり斬りかかってきたよぉ」

勇者「当たり前だ」

勇者「人間ではその大きさの火球を瞬時に作ることなどできない」

勇者「少なくともお前は魔の者だ」

勇者「……が」

勇者「火球をそのまま私にぶつけなかったところを見ると」

勇者「最低限の礼儀は弁えているようだ」

勇者「私も礼なく斬りかかったことを詫びよう」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「この人堅苦しいよぉ……」

勇者「私は勇者だ!」

勇者「勇者とは勇気を示す者!」

勇者「例え倒れることになっても!」

勇者「後に続く者の勇気となるような戦いをしなければならない!」

勇者「よって!その生涯に一切の偽りや逃げがあってはならないのだ!」

勇者「いざ!!」

魔王「ふぇぇ……気持ちで負けたよぉ……」

魔王「だから、手持ちで勝つよぉ」

勇者「なにっ?」

魔王「……おいでぇ」

グルルル……

勇者「ド、ドラゴンが……3匹……」

魔王「逃げてもいいよぉ?」

勇者「……先ほど言ったばかりだろう」

勇者「勇者に、逃亡の二文字は無い!」

魔王「ふぇぇ……」

勇者「……」

魔王「楽しかったねぇ」

勇者「……早く殺せ」

魔王「ついこの間まで4人がかりでやっとだったのに」

魔王「1人で2匹も殺しちゃうんだもん」

魔王「びっくりだよぉ」

勇者「……」

魔王「ドラゴンを殺すときの顔、かっこ良かったよぉ」

魔王「わたし、二番目に好き」

魔王「一番は……」

魔王「やっぱり腕を飛ばされちゃった時の顔かな」

勇者「……殺せ」

ドラゴン「グルル……」

魔王「よしよし」

魔王「ドラゴンちゃん、この後どうしよっか?」

魔王「勇者をどうしたらいいのか、わたしには分からないよぉ」

勇者「な、なんだと?」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「魔王ってねぇ、えっと……かりすま?」

魔王「ちから・かしこさ・かっこよさのどれかがあればなれるの」

魔王「とっても頭のいい幹部の子たちが今まで考えててくれたんだけど」

魔王「みぃんな殺されちゃった」

勇者「……」

魔王「まあ、勇者の仲間も死んじゃったみたいだけどねぇ」

勇者「……そうだ」

勇者「私は……仲間の仇を取ることができなかった」

勇者「仲間の想いに応えることができなかった」

勇者「……無念だ」

魔王「ふぇぇ……仇討ちなんかやめなよぉ」

勇者「なんだと?」

魔王「戦いは自分のためにするのが一番だよぉ」

魔王「わたし、お友達をみんな殺されちゃったけど」

魔王「別に勇者のことは嫌いじゃないよぉ?」

魔王「だって」

魔王「お友達よりも、それを殺した時のあなたの表情」

魔王「あれのほうが好きだから」

勇者「……悪魔め」

魔王「ふぇぇ……魔王だよぉ……」

魔王「きめたよぉ」

魔王「ドラゴンちゃん、勇者を王都に返してあげてぇ」

勇者「な、なに!?」

勇者「私を愚弄するのか!?」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「ボロボロになった勇者が空から落ちてきたら」

魔王「みんなどう思うかなぁ」

勇者「貴様……!」

魔王「わたし、もうワクワクしてきちゃった」

魔王「きっと、みんな絶望しちゃうよねぇ」

勇者「そ、そんなことは無い!!」

勇者「必ず私の意志を継ぐものが現れる!」

魔王「……ふぅん」

魔王「そういえばお友達が言ってた」

魔王「希望は絶望の中からいくらでも湧いて出るって」

魔王「ほんとかなぁ……」

ドラゴン「グルル……」

魔王「あ、待たせちゃったねぇ。 もういいよぉ」

ガシッ

勇者「ぐぁっ!」

魔王「傷口を持たれて痛いだろうけど」

魔王「世界一周の旅、いってらっしゃあい」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「本当に希望がぽこぽこ出てくるなら」

魔王「勇者みたいな子がたくさん来るんだねぇ」

魔王「その度にお城へ落としてあげたら……」

魔王「えへへ〜」

数ヶ月後

魔王「ふぇぇ……」

戦士「」

魔法使い「」

魔王「弱すぎるよぉ……」

魔王「勇者みたいな強くてかっこいい子が全然来ないよぉ……」

側近「お言葉ですが」

魔王「あれぇ? だれぇ?」

側近「本日付けで魔王城勤務になった側近です」

魔王「あれぇ? わたしが戦ってるの、黙って見てたのぉ?」

側近「私は事務担当ですので」

魔王「ふぇぇ……」

側近「……よろしいですか?」

魔王「ふえ?」

側近「勇者とは神の加護を受けた神聖なる役職」

側近「決して心構えやトレーニングではたどり着けない境地なのです」

側近「聖なる剣の破壊力は戦士のそれを大きく上回り」

側近「光の魔法は魔法使いと一線を画す威力を持ち」

側近「自分一人を回復させるなら上級聖職者にも全く引けをとらない」

側近「一人で完成されたパーティ、それが勇者です」

魔王「ふぇぇ……すごいねぇ……」

側近「もし魔王様が勇者との戦闘を望むのであれば」

側近「今の勇者にとどめを刺し、次の世代に託す他ありますまい」

魔王「ふぇぇ……」

側近「勇者とは選ばれし者」

側近「あらゆる時代に一人しか存在しないのですから」

側近「さあ魔王様、ご命令ください」

側近「王都に攻め入り、憎き勇者もろとも皆殺しにすると」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「……」

魔王「にっくき?」

魔王「仇討ちは良くないよぉ」

側近「……なぜですか!」

側近「あなたのご友人は!私の恩師は!」

側近「あいつに殺されたんですよ!!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「みんな殺したらなんにもなくなっちゃうよぉ……」

側近「人間など、絶滅させても問題は無いでしょう!」

魔王「それはつまらないよぉ……」

側近「あくまで面白さのためだけに行動すると?」

魔王「ふぇぇ……」

側近「……」

側近「失言でした」

側近「私は魔王様に反論はしますが決定には従います」

――

銃士「」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「この人、変なもの持ってたよぉ……」

側近「粉末を爆発的に燃焼させ、その衝撃で鉄を飛ばす武器のようですな」

魔王「ふぇぇ……怖いよぉ……」

側近「まだ我々の脅威になるような代物ではありませんが」

側近「これが軽量・量産化されると厄介です」

側近「こちら側も武器の未来化を進めますか?」

魔王「ふぇぇ……逆がいいよぉ……」

魔王「呪いをかけちゃおう」

側近「呪い……ですか?」

魔王「うん、爆発しちゃうの」

魔王「つかった人が。ときどきね」

側近「これから出てくるであろう武器……全てにですか?」

魔王「そうだよぉ」

側近「そのようなことが本当に……」

魔王「はい、側近ちゃん」

側近「これは……」

魔王「この本のこのぺぇじ開いてもってて」

魔王「あとは……おいでー」

ドラゴン「グルル……」

側近「この城最後のドラゴンですか。いつ見ても立派なものですね」

魔王「えへへー、準備できたよぉ」

魔王「それじゃあ読んでぇ」

側近「はっ」

側近『あらゆる理を司る神々よ』

側近『我、力と魂を持って全てに干渉するものなり』

側近「……魂?」

魔王「うん」

魔王「それじゃあドラゴンちゃん」

ドラゴン「グルル……」

魔王「わたしのために」

魔王「死んでくれる?」

ドラゴン「……」

コクン

魔王「えへへ、ありがとぉ」

側近「ま、魔王様!そのドラゴンは最後の……!」

魔王「えーっと……」

魔王「力も魔力もないのに道具だけで戦うのはずるいと思うので」

魔王「10回にいっかいぐらいは爆発して自分が死んじゃうようにします!」

魔王「えいっ」

スッ……

ドラゴン「オ……」

ドラゴン「オオオォォォオオオオォオオオオオオオオオン!!!!」

魔王「ふぇぇ……すごい声だよぉ……」

側近「よ、よろしかったのですか?」

魔王「うん」

側近「そのドラゴンはこの城の主力のひとつ」

側近「それに……勇者撃退の立役者なのでは」

魔王「あぁー……そうだったねぇ」

魔王「あ、そのオモチャ、もう捨てといてねぇ」

側近「……」

――

側近「向こうの大陸は大混乱のようです」

魔王「ふぇぇ……よかったねぇ」

側近「……魔王様?」

側近「気のせいかお体が縮んで見えますが」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「また大きくなるのが遠のいたよぉ……」

側近「呪いの副作用というわけですか」

側近「それにしても10分の1とは微妙な確率ですね」

側近「もう少し高くはできなかったのですか?」

魔王「100ぱーせんとにもできるよぉ」

側近「……なんですと?」

魔王「でもねぇ」

魔王「死ぬかもしれないのに使ったり」

魔王「使わせたりする人がでてきたら」

魔王「そっちのほうが面白いでしょぉ?」

――

側近「魔王様、侵入者です」

魔王「ふぇぇ……」

側近「数十人規模の人間が城に攻め入り」

側近「魔物の目を逃れた一人がもうじきこちらにたどり着くとのこと」

魔王「ふぇぇ……」

側近「……うれしそうですね」

魔王「楽しみだねぇ」

若者「てめェが魔王か!!ずいぶんちっこいんだなァ!!」

魔王「ふぇぇ……」

側近「これはまた血気盛んな方が来ましたね」

若者「問答無用だァ!!二人まとめてぶっ殺してやらァ!!!」

魔王「えいっ」

パァン!

魔王「ふぇぇ……」

魔王「爆発は魔法が一番だねぇ……」

側近「体の内部から破裂したように見えましたが」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「ちゃんと爆発させようとしたんだけど」

魔王「ちょうどその場所にこの人が来ちゃったから……」

側近「指定した座標をその物質に関係なく爆裂させる魔法ですか」

魔王「ふぇぇ……」

――

魔王「きた」

側近「はっ?」

魔王「勇者がきたよぉ」

側近「本当ですか?そのような報告は受けておりませんが」

魔王「ここに来るの、初めてじゃないからねぇ」

魔王「みんなをあつめてぇ」

側近「はっ!」

側近「……ばかな」

勇者「魔王!その首貰い受ける!」

魔王「ふぇぇ……まだ準備ができてないよぉ……」

側近「戦線に復帰できるような傷ではないと聞いていたが……」

勇者「知れたこと!」

勇者「この身朽ち果てるまで戦う、それが勇者だ!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「片腕の勇者なんかに負けたりしないけど」

魔王「念のためみんなを呼びに行ってねぇ」

魔王「……」

魔王「側近ちゃん?」

側近「貴様が……貴様がぁ!」ジャキッ

勇者「! 銃か!」

ダンッ! ダンダンッ!

勇者「ぐぅ……連射しただと!?」

側近「鉄クズを手元に転移するぐらいなら!」

魔王「ふぇぇ……そんなに使ったら……」

ダンッ!

側近「止めないでください!」

ダンダンッ!

側近「こいつは……こいつだけは!」

勇者「……斬る!」

ドガァアアアン!!

魔王「ふぇぇ……」

勇者「ぐ……う……」

勇者「"兵器の呪"……人間だけにかけたのでは無かったのか」

魔王「ふぇぇ……側近ちゃん死んじゃった」

勇者「こ……この程度の傷で……!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「ちゃんすだよぉ」

魔王「わたしねぇ」

魔王「たたかうことも大好きだけど」

魔王「勝てないとわかってるのに頑張ったり」

魔王「負けて悔しそうにしてるのを」

魔王「ぐしゃー」

勇者「かはっ……!」

魔王「ってするのが一番好き!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「またわたしの勝ちだったねぇ」

魔王「こんどはどうしよっかなぁ……」

勇者「ま、また愚弄するのか……」

魔王「うーんと……」

魔王「おめめがいいかな」

スッ

勇者「ぐ!?」

ブチブチ

勇者「ぐぁぁああああああああ!!!!!」

コリコリ グジュ

魔王「……おいし♪」

勇者「」

魔王「ふぇぇ……気絶しちゃったよぉ……」

魔王「それじゃあ……ドラゴンちゃんいないから……」

魔王「だれか飛べる子呼ばなきゃ……」

人面鳥「ギャアギャア!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「よろしくねぇ」

数ヶ月後

召使い「は、初めまして!!」

召使い「私!今日からお、恐れ多くも魔王さまのおせわを……」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「あら?」

召使い「お嬢様……かしら?」

魔王「ふぇぇ……魔王だよぉ……」

召使い「はいっ!?」

召使い「も、もも申し訳ございませんでした!!」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「ご、ご年配のかただと思っていたので!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「それで、あなただぁれ?」

召使い「も、申し遅れました!」

召使い「魔王さまのお世話をさせていただく、召使いでございます!」

召使い「どうぞ、こき使ってくださいませ!」

魔王「ふぇぇ……」

――

召使い「魔王さま!お部屋のお掃除が終わりました!」

魔王「ふぇぇ……頼んでないよぉ……」

召使い「あとはその玉座だけです!」

魔王「これはいいよぉ……」

召使い「そんな事言わずに!こまめに洗ったほうがいいんですよ!」

魔王「ふぇぇ……」

――

召使い「魔王さま!お召し物の用意ができました!」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「魔王さまのお体に合わせて整えましたよ!」

召使い「長いローブも素敵ですが、動きやすいのが一番です!」

魔王「ふぇぇ……」

――

召使い「魔王さま、お食事の用意ができました!」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「本日はクリームスープです!」

魔王「ふぇぇ……熱いよぉ……」

召使い「いかがでしょうか?」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「お、お味はいかがでしょうか?」

魔王「甘いよぉ……野菜もお肉も」

召使い「よかった〜!」

召使い「農家のおじさんからもらった新鮮な食材なんですよ!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「……」

魔王「のうか?」

召使い「はい。 人間の方からいただきました」

召使い「正体を隠し人間の村へ潜入した時」

召使い「そこの方々にとてもよくしてもらって」

召使い「お土産までもらってしまいました!」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「あ! も、もちろんスパイとかじゃないですよ!」

召使い「ただ……」

召使い「魔族と人間、その命の重みに差は無いんじゃないでしょうか」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「それを言うためにここに来たのぉ?」

召使い「……その通りです」

召使い「魔王さま、戦争なんか終わりにしませんか?」

魔王「ふぇぇ……そんなことしてるつもりはないよぉ……」

魔王「戦いたい子が戦ってるだけだよぉ……」

召使い「それでも!魔王さまなら終わらせることができるはずです!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「……おいでぇ」

人面鳥「ギャアギャア!」

召使い「な、なんですか?」

魔王「かわいいよねぇ」

魔王「でもこの子が一番かわいいのは」

魔王「誰かをぐしゃーってやってるときなんだよぉ……」

魔王「だからねぇ、わたしはこのままでいいと思うなぁ」

召使い「そ、それじゃあ子どもは!」

召使い「子どもたちはどうなるんですか!」

召使い「戦いで親を失って……悲しみ・恨む子どもが増えてしまいます!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「そうなのぉ?」

魔王「それじゃあ2倍楽しめるねぇ」

召使い「そんな……」

召使い「魔王さま」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「私があなたを愛します」

魔王「ふぇぇ……?」

召使い「誰かに愛され、誰かを愛し……愛を知ったうえで」

召使い「それでも戦いを続けるというのなら」

召使い「私はもう何も言いません」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「よくわかんないけど、頑張ってねぇ」

――

召使い「魔王さま!侵入者です!」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「先ほど1階で血まみれの見張りが見つかったとのこと!」

魔王「ふぅん……」

武闘家「おっと、鉢合わせてしまったか」

召使い「!!」

召使い「ま、魔王さま!侵入者です!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「どうするのぉ?一緒に戦う?」

召使い「大丈夫です!私も魔族の端くれ!」

召使い「魔王さまが出る幕じゃないですよ!」

武闘家「ほぅ…? 一人づつ戦ってくれるのか?」

武闘家「願ってもない話だ」ス……

召使い「参ります!」

召使い「ぜぇ……ぜぇ……」

武道家「ぐっ……くそ……!」

召使い「み、見ましたか魔王さま!勝ちましたよ!」

魔王「そうだねぇ……」

武闘家「ま……まだだッ!」

召使い「おやめなさい。もう勝負はついています」

召使い「命までは取りません。村へ戻り話を広めなさい」

召使い「自分の無力と、戦闘の無意味さを」

魔王「ふぇぇ……それはだめだよぉ……」

召使い「魔王さま、お願いします」

召使い「この者を見逃してはくれませんか」

魔王「そうしても下の子たちに殺されちゃうよぉ?」

召使い「それなら、私が門まで送って行きましょう」

召使い「私は――」

魔王「えいっ」

ゴシャッ!

武道家「がっ……!」

ドサ……

召使い「ま、魔王さま!?」

魔王「ふぇぇ……」

召使い「ま、魔王さま……なにを……」

魔王「これ見てぇ」

武道家「」

召使い「! 袖の中に毒針……!」

魔王「生きて返すなら」

魔王「もっと傷めつけないとだめだよぉ」

召使い「……」

魔王「まあ、死んじゃったけどねぇ」

魔王「まだ色々もってると思うから」

魔王「ちゃんと取ったあと外に捨てといてぇ」

召使い「は、はい!」

魔王「下の子たちが食べちゃわないように気をつけてねぇ」

魔王「ふぁあ……眠くなっちゃった」

召使い「ふぅ〜……これで全部でしょう」

召使い「小刀・鎖……たくさんありましたね」

召使い「魔王さまは捨てろとおっしゃっていたけど」

召使い「お墓ぐらいは作ってあげましょう」

召使い「……」

召使い「髪も結い直しておきましょうか」

魔王「……」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「気をつけてって言ったのに……」

召使い「」

魔王「わたし……命も愛もよくわからないけど」

魔王「あなたは軽かったねぇ」

数カ月後

魔王「ふぇぇ……」

執事「ほっほっほっ」

魔王「ふぇぇ……」

執事「お久しぶりですな」

魔王「知らないよぉ……」

執事「いやぁ大きくなりまし……」

執事「あまり変わってませんなぁ!ほっほっほっ!」

魔王「ふぇぇ……」

執事「自己紹介が必要ですかな」

執事「私は執事とお呼びください」

執事「先代魔王の元で働いていた頃」

執事「当時幹部の一人だったあなたに会ったことがあるのです」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「前の魔王って……」

執事「ええ、その通りですぞ」

執事「あなたが殺したあの御方です」

魔王「ふぇぇ……」

執事「ほっほっほっ」

執事「なあに、ここではよくあることでしょう」

執事「魔族は実力主義、強いものが上に立って当然ですからな」

執事「むしろ誇るべきことですぞ、ほっほっほっ」

魔王「ふぇぇ……」

執事「だからあなたにはなんの恨みもありませんぞ」

執事「憎しみは何も生みませんからな!ほっほっほ!」

魔王「ふぇぇ……」

執事「それでは早速準備を始めますぞ」

魔王「じゅんび?」

執事「そろそろ来る時期なのでしょう?」

執事「……勇者が」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「そういえば来るかもしれないよぉ……」

執事「ほっほっほっ!楽しみですな!」

執事「私も天使のたぐいとやりあったことはありますが」

執事「勇者とは神の剣そのもの!比較にはなりませんなあ!」

――

執事「来たようですぞ」

魔王「ふぇぇ……」

執事「影の魔物から連絡が入りましての」

執事「ここから西へ3キロほどの地点を移動しているようです」

執事「その数……勇者を含めて3」

魔王「ふぇぇ……」

執事「奇襲を仕掛けますかな?」

魔王「うん」

執事「奇襲の報告が来ましたぞ」

執事「勇者一味のうち1人の処理に成功」

執事「こちらの損害は……」

執事「50体。全滅ですな」

魔王「ふぇぇ……」

執事「ちなみに報告用の悪魔もやられていたので」

執事「勇者はもう城内にいる可能性が高いですな」

魔王「ふぇぇ……」

執事「ほっほっほっ!恐ろしい敵ですな!」

勇者「魔王!今日が貴様の命日だ!」

僧侶「覚悟しなさい!」

魔王「ふぇぇ……勇者が来たよぉ……」

執事「ほぉ……あれが勇者ですか」

勇者「ゆくぞっ!」

僧侶「はいっ!」

執事「おや……?」

執事「聖職者の方が来るとは意外ですなぁ」

僧侶「たぁッ!」

ブンッ

執事「ほっほっほ!鈍器を振り回すとは恐ろしいお嬢さんだ」

執事「そらっ!」

ドゴォッ

僧侶「かはっ……」

執事「ほっほっ!いい音がしましたな!」

僧侶「ふぅ……ふぅ……」

執事「神の力を借りた回復魔法ですか。健気ですなぁ」

執事「勇者の回復魔法は神に与えられたものなのに」

僧侶「なにをッ!」

ブンッ ドゴォッ

僧侶「がはっ……ぐ……」

執事「あなた方は神に祈りを捧げますが、勇者は神から愛される」

執事「勇者に嫉妬したりはしないんですかな?」

僧侶「だ、黙りなさい!」

僧侶「神は私達を平等に愛しています!」

執事「そぉらっ!」

僧侶「がっ……!」

ガシャァァアアン

執事「その壁に飾ってあるものが分かりますかな?」

勇者「僧侶!!」

魔王「よそ見しちゃだめだよぉ」

スッ……

勇者「な、なんだ……?服が重たく……」

魔王「ふぇぇ……」

勇者「これしきのことで!」

魔王「なんだか勇者には魔法の効きが悪い気がするよぉ……」

勇者「僧侶!持ちこたえてくれ!」

執事「それは……勇者の腕です」

僧侶「なっ……!?」

執事「勇者が腕を再生できるのかは知りませんが」

執事「念の為に括りつけてあるようですな」

僧侶「そんな……だって……」

執事「そう、数ヶ月前から変わらずこうしてあるのです」

執事「腐敗することなく……」

執事「体の構造が根本から違う……いや」

執事「別の理が足されているのでしょうな」

執事「……傷を回復しないところを見ると」

執事「魔法力が底をつきた様子」

執事「つまり戦闘不能というわけですな」

執事「あの奇襲も意味があったようで何よりです」

僧侶「わ、私は……」

執事「……このままお嬢さんとお話したいのはやまやまですが」

執事「向こうの援護を優先すべきでしょうな」

僧侶「ゆ、勇者様…………」

魔王「燃えちゃえ」

勇者「突っ切る!」

フバッ

魔王「ふぇぇ……」

勇者「ぐ……もらった!」

ザシュッ

魔王「ふぇぇ……」

魔王「斬られちゃったよぉ……」

勇者「っ……」

勇者「浅かったか」

執事「ほっほっほっ」

執事「お嬢さんの武器の味はどうでしたかな?」

勇者「!! そうだ!僧侶は!」

執事「向こうでグッタリしていますよ」

勇者「……」

勇者「はぁああっ!」

カッ

執事「むぅっ!? この光は……!」

勇者「私は! 勇者だぁあああ!!!」

魔王「ふぇぇ……」

ガスッ!

勇者「ぐあっ!」

魔王「そっちの目が見えないんだよねぇ」

魔王「えいっえいっえいっ」

ガスッ ガスッ ガスッ

勇者「かはっ……」

ドサ……

魔王「ふぇぇ……」

魔王「危なかったねぇ」

僧侶「あ……あぁ……」

勇者「ま、またしても……」

魔王「楽しかったねぇ」

魔王「う〜ん……今度はどうしようかなぁ……」

グリグリ

勇者「ぐぁああっ!」

僧侶「こ、こんなことが……」

僧侶「勇者様でも……勝てないなんて」

僧侶「私のせい……いや……いやぁ……」

僧侶「……」

僧侶「そうだ……違うから……」

僧侶「私は……違う……違う……」

僧侶「私と勇者様は違うから」

ダッ

魔王「あれぇっ? 逃げちゃったぁ」

勇者「そ、僧侶……」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「ねぇ」

グィッ

勇者「っ!」

魔王「今の見てたぁ?」

魔王「勇気」

魔王「示せなかったねぇ」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「3回も戦えて、とっても楽しかったよぉ……」

魔王「わたし、勇者のこと大好き」

魔王「でも」

魔王「人間はどう思うだろうねぇ」

魔王「わたしに負けて、仲間に逃げられて……」

魔王「情けないよねぇ……」

勇者「……」

魔王「えへへ、その顔は初めてみるよぉ」

魔王「悲しいんだねぇ……悔しいんだねぇ……」

魔王「その気持ちのまま」

魔王「その表情のまま」

魔王「死んじゃえ」

人面鳥「ギャアギャア!」

勇者「」

魔王「ふぇぇ……死体運びよろしくねぇ……」

執事「ほっほっほ」

魔王「ふぇぇ……あなたもありがとねぇ」

執事「お見事……といいたいところですが」

執事「退職してもよろしいですかな?」

魔王「ふぇぇ……?」

執事「先ほどの光で目をやられましてな」

執事「ほっほっほ!もはやなにも見えませぬ!」

執事「老兵は経験だけが頼りですからな」

執事「初見の攻撃にはどうしても判断が遅れるのです」

魔王「ふぇぇ……」

執事「あなたのように、とっさに闇の魔法で相殺することができませんでした」

執事「まさかあそこまでの光量とは……」

執事「ほっほっほ!影の魔物を何十匹けしかけても返り討ちに合うわけですな!」

執事「次の補佐役ぐらいは用意しておきましょう」

魔王「お別れだねぇ……」

執事「なぁに、また何かの縁で……」

執事「ほっほっほ! 会えないかも知れませんなぁ!」

魔王「ふぇぇ……」

執事「おっと。最後に報告がありますぞ」

執事「たった今、下の階であのお嬢さんを仕留めたようです」

魔王「ふぇぇ……どうでもいいよぉ……」

数日後

新入り「執事様より紹介がされていると思いますが」

新入り「本日から魔王様の補佐をさせていただく新入りです」

新入り「先代魔王様の元では近衛兵をやっていました」

新入り「何とぞよろしくお願いします」

魔王「うん、よろしくねぇ」

新入り「……それだけですか?」

魔王「ふぇぇ……?」

新入り「私はあなた達と戦場で会ったこともあるのですよ?」

新入り「私をスパイと疑ったりしないのですか?」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「どっちでもいいよぉ」

新入り「私など警戒する価値もない、ということでしょうか」

魔王「ちがうよぉ」

魔王「えーと……新入りちゃん」

魔王「あなたを送り出した執事のおじいちゃん」

魔王「二人が何を考えてるかは分からないけど」

魔王「何かは考えてるんでしょぉ?」

新入り「……?」

魔王「わたしね、それが楽しみなの」

魔王「だからあなたが味方でもそうでなくても……」

魔王「どっちでもいいよぉ」

――

新入り「魔王様、魔物の手配が終わりました」

魔王「うん」

新入り「補充にしては飛行系の魔物が多いようですが……?」

魔王「準備だよぉ」

新入り「……準備?」

新入り「勇者を倒した今、これだけの規模となると……」

新入り「ニワトリの産卵を待たずに食べてしまう」

新入り「と、いうことですか?」

魔王「よく分からないけど」

魔王「遊びに行く予定ならあるよぉ」

――

新入り「魔王様、侵入者です」

魔王「ふぇぇ……」

新入り「近くの森に大規模なキャンプを確認した模様」

新入り「城内の魔物を何匹か集めておきます」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「上から来そうだよぉ……?」

新入り「……は?」

新入り「……!!」

新入り「そ、そんな……ありえない……」

魔王「ふぇぇ……いっぱいいるねぇ……」

新入り「あの容姿……あの翼は……」

新入り「天の使い……!」

魔王「初めて見たけど」

魔王「天使ってキャンプとかするんだねぇ……」

新入り「あ、あれは……違う……」

魔王「ふぇぇ……?」

魔王「面白くなってきたねぇ……」

ガシャーンッ!

魔王「ふぇぇ……天使が来たよぉ……」

天使A「な……! 本当にそんな姿とは……」

天使長「勇者を倒す程の相手だ。油断していると一分の勝機が逃げていくぞ」

新入り「これが……天使……」

天使長「我々は神の使い。そなたが魔王で相違無いな?」

魔王「そうだよぉ」

天使長「空からとはいえここまで素通しとは」

天使長「よほど我々を見くびっているようだな」

魔王「そういえば集めた子達は?」

新入り「……地下に待機させております」

天使B「なんか知らねェがチャンスみてェだな!」

天使B「神を封印したその報いを受けやがれェ!」

新入り「!」

魔王「ふぇぇ……それはわたしじゃないよぉ……」

ドゴォッ!

天使B「そうらッ!いいのが入ったァ!」

魔王「ふぇぇ……? 魔法が……」

天使A「我らの肉体は神に直接いただいたもの」

天使C「簡単に干渉を許したりはしない」

魔王「ふぅん……」

天使B「っ……んでだよ……」

ドサッ

天使C「なっ!?」

魔王「つまり、勇者といっしょなんだねぇ」

天使長「我らは神の手足であって剣ではない……」

天使長「いっせいにかかれ!そうすれば勝機もある!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「期待はずれだよぉ……」

天使A「そうか……魔族を滅するために作られたのは勇者のみ」

天使C「ぐ……うぅ……」

天使A「我々天使は……」

天使A「無力……」

魔王「ふぇぇ……3人目だねぇ」

ドスッ

魔王「……」

魔王「痛いよぉ……新入りちゃん」

新入り「これで少しは面白くなったでしょう?」

魔王「ふぇぇ……」

新入り「今、行動に移されるのは想定外でしたか?」

新入り「天使が来たことには驚きましたが、かえって好都合だったようですね」

魔王「わたしを殺してもあなたは助からないよぉ……?」

新入り「大した問題ではありません」

新入り「もともと私は捨て駒、あなたの足止めが出来ればそれで良いのです」

魔王「ふぅん……」

天使A「な、なんだ……?裏切りか……?」

魔王「そっかぁ」

スッ……

パァンッ

魔王「ちょっと期待しすぎたみたい」

天使A「い……一瞬で細切れに……」

天使長「はぁぁっ!!」

バシッ

魔王「ふぇぇ……」

天使長「動きが鈍くなった! 今ならいけるぞ!」

天使A「は、はい!」

天使A「だぁぁっ!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「困ったよぉ……」

ドカッ

天使長「!!」

魔王「また今度ねぇ」

天使長「玉座の下に転移方陣!!」

天使A「逃げる気か!」

魔王「じゃあねぇ」

ピシュンッ

天使長「ぐ……逃がすものか!」

天使長「誰か陣術に長けた者はおるか!」

天使A「天使Bが詳しかったはずですが……」

天使長「すぐに叩き起こせ!」

――

魔族「……よし、着いたな」

魔族「代々魔王一族にしか伝えられていない緊急脱出方陣」

魔族「我々10名はその出口から直接玉座へと逆襲をしかける」

魔族「夜明けまで待機していろ」

執事「ほっほっほ。坊ちゃまは過激ですな」

魔族「執事か。付いてくるなと言ったはずだが」

執事「しかしこの人数で大丈夫ですかな?」

魔族「……まあいい」

魔族「魔王城の目の前に陽動部隊のキャンプがある」

魔族「そいつらが最上部につくと同時に攻め込めば……必ず成功する」

執事「それでも何人が最上部までたどり着けるか……」

魔族「全員だ」

執事「なんですと?」

魔族「内部の魔物をすべて待機させるように言ってある」

魔族「こちらにはスパイがいるからな」

執事「しかし私が紹介したのは……」

魔族「親父の部下は妙に堅い奴が多いからな」

魔族「俺の直属を送らせてもらった」

執事「……」

執事「坊ちゃま」

執事「ルール無用も大変結構ですが、同じ事をされる覚悟がおありですかな?」

魔族「……」

魔族「確かに、俺に魔王の……親父の名を継ぐ器はないのかもしれない」

魔族「だが、あいつには器しかない。大きいだけでからっぽだ」

魔族「あいつが魔王を続ければ世界が壊れてしまう」

魔族「俺は世界を破壊したいのではない、支配したいんだ」

魔族「そして、そのチャンスはもう……今しかない!」

執事「坊ちゃま……」

魔族「執事。最後に聞くが……」

魔族「一度でもあいつの事を"魔王"と呼んだか?」

執事「……」

執事「ほっほっほ! こりゃ痛いところを突かれましたなぁ!」

魔族「それでいい」

魔族「恨みとその反対の感情は、自身を形成する上で一番大きなもの」

魔族「持っていて当たり前のものなんだ」

魔族「だから……」

バッ

魔族「突入するぞ!それすら持たぬバケモノを潰すために!」

執事「おや?突入は日の出と同時なのでは?」

魔族「何を言っている、もうこんなに明るいではないか」

天使B「よォし! 移動できたぜェ!」

天使長「私を含めて5人……ギリギリの数だが……」

天使長「!?」

魔族「あ……あ……」

執事「坊ちゃま!すぐにここから離れなされ!」

天使長「な、なんだこいつらは!?」

天使B「天使長!そっちじゃねェ!上だ!」

天使A「あ、あれは……!!」

天使B「くそッ!もう間に合わねェ!」

天使長「な、なんと皮肉な……」

天使長「我々天使が太陽に焼かれるとは……」

――

魔王「ふぇぇ……」

魔王「天使の人たち、裏切った子たち」

魔王「わたしの城……」

魔王「みぃんな壊しちゃった……」

魔王「……」

魔王「そういえば、地下に移したって新入りちゃんが……」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「無事だったら、遊びに行けるねぇ」

――

女神「……」

天使E「あっ!まだ動いては……」

女神「……私は大丈夫です」

天使E「前魔王の封印が解けてから、力を使い過ぎです!」

天使E「勇者の創造や呪いの対策、天使長たちの降臨作業……」

天使E「もう少しお休みにならないと……」

女神「……なにも」

天使E「はい?」

女神「私は何もできていません」

女神「今の魔王は世界のバランスなど全く考えていません」

女神「多くの人間が無意味に殺されています」

女神「だから私は勇者に力を与え、世界に平和をもたらすように告げました」

天使E「はい。 人間の体に天の加護、光の剣と魔法を操る……」

天使E「まさしくあなたの、神の剣でした!」

女神「ですが、勇者は敗れました」

天使E「……」

女神「魔王の呪いについても……ほぼ手付かずの状態です」

女神「中和することもできず、人々にその危険を伝えることしかできませんでした」

天使E「それでも! 犠牲を最小限に抑えることができました!」

女神「私が創りだした理なのに後手に回っている……」

女神「まさに今の私と魔王の力関係を表しています」

天使E「ですが!」

女神「そして今日送り出した……つまり地上に降臨した天使長たちですが」

女神「たった今全滅しました」

天使E「そ、そんな!?」

天使E「我々の体は直接あなたから頂いたもの」

天使E「理干渉のたぐいは受けつけないはずです!」

女神「勇者が敗れるほどの相手です」

女神「正攻法でも私達に勝ち目はほぼありません」

天使E「それでは……奴がここに来たら」

女神「……」

女神「剣も、理も、使いの者たちもやられました」

女神「私の負けです」

天使E「そんな……」

女神「ですが、私たちの負けではありません」

女神「逃げなさい」

天使E「そ、そんなこと……できるわけがありません!」

天使E「私達が神を見捨てるなど……」

女神「天使長も同じことを言っていました」

天使E「!!」

女神「ですがあの時と今は違います」

女神「もはや万に一つの勝ち目もないのです」

天使E「そ、それでも!」

天使E「私は最後まであなたの部下でいたい!」

天使E「天の使いでありたい!」

女神「命令です。逃げなさい」

女神「天は、もうなくなるのです」

天使G「た、大変です!」

天使G「地上から魔物の大群が押し寄せてきます!」

女神「……来ましたね」

天使E「ば、馬鹿な! 早すぎる!」

女神「さあ、お行きなさい」

スッ……

天使G「えっ!?」

天使E「か……」

天使E「かみさま!」

女神「天使、降臨」

――

女神「私は最後まで勝手でした」

女神「それでも……あの子たちには地上で人として生きてほしい」

女神「人は生きている限り希望を失わない生き物」

女神「それさえ忘れなければ、必ず平和な世界が戻ってきます」

女神「……そして残念です」

女神「最初で最後の客が、私の子でなかったことが」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「魔王だよぉ……」

女神「……神です」

魔王「ここまで真っ直ぐこれたから」

魔王「この部屋にたくさんいると思ったんだけどなぁ……」

魔王「集めたみんなが無駄になっちゃった」

魔王「だからせめて、あなたはわたしを楽しませてね」

女神「……その前に一つ、聞きたいことがあります」

魔王「うん、いいよぉ」

魔王「戦いの前のお話も嫌いじゃないから」

女神「では答えなさい」

女神「あなたは一体何者なのかを」

魔王「ふぇぇ……?」

女神「私は生まれたあと、まず天と使いを作りました」

女神「次に地上を創り、草木を生やし、動物を産み、最後に人間をつくりました」

女神「……それで終わりです」

女神「あなたたちは私と関係無く、いつの間にか地上に存在していた」

女神「誰が、何のために作ったのです?」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「どうでもいいよぉ……」

魔王「たぶん勝手に生まれて、勝手に生きてるんだよぉ」

魔王「あなたもそうなんじゃないのぉ?」

女神「……」

女神「やはり私の理解の及ばぬ者なのですね」

女神「ならば魔王よ」

女神「私にその身を捧げなさい」

魔王「ふぇぇ……?」

女神「王たるあなたが生贄となれば」

女神「私は魔族のすべてを知ることができます」

女神「そうすれば魔族や魔物も私の子」

女神「天使と同様に加護を受けることができるのです」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「あなたがわたしのために死んでよぉ」

魔王「あなたを使えば、きっとすごい呪いができるよぉ」

魔王「ことわりなんて全部壊せちゃう!」

魔王「なにが起こってもおかしくない、すてきな世界になるよぉ」

女神「……それは自由ですらありません」

女神「地獄と呼ばれる世界です」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「天国って初めて来たけど」

魔王「つまんないところだねぇ」

――――

――

―――十年前

幹部「おっ! お前も昇格したのか!」

幹部B「ふぇぇ……」

幹部「まあその実力ならすぐに来ると思ってたけどな」

幹部B「またよろしくねぇ」

幹部「ああ!」

幹部「城勤務は少し退屈だが、お前もすぐに気に入ると思うぞ」

――

幹部「遠隔封印……魔王様らしい緻密な一手だが」

幹部「目的が相互不干渉ってのはちょっと味気ないな」

幹部B「わたし、魔王って初めてみたよぉ」

幹部「少々ご老体だが、立派な演説だったろ?」

幹部「あのカリスマが魔族の王たる所以だよ」

幹部B「ふぇぇ……」

幹部B「あの椅子、座り心地良さそうだったねぇ……」

幹部「……!」

――

幹部「この場所は分かるな?」

幹部B「うん、わたしたちの故郷だもん」

幹部「ここで封印の儀式の続きが行われる」

幹部「天使を送り出す機能に加えて大陸全部を見渡す神の目を封印するから」

幹部「場所を変える必要があるんだ」

幹部「そして……護衛も最小限しかついていない」

幹部B「ふぇぇ……分かったよぉ」

幹部B「あとは勝手にやるねぇ」

幹部「おいおい水くさいな、最後まで付きあわせてくれよ」

――

魔王「……解からんな」

魔王「お前たちには相応の地位と報酬を与えてきたはずだ」

魔王「余を狙う意味がない」

幹部「それがあんたの弱点だよ」

幹部「好かれてるからって部下を信用しすぎたんだ」

幹部「……ま、俺もこの間までは忠誠を誓ってたけどね」

幹部B「ふぇぇ……いいから早く戦おうよぉ」

幹部「そうそう、せっかく決闘って形にしてるんだ」

幹部「あんたがこいつに勝てば何も問題はないでしょう?」

魔王「馬鹿共め」

魔王「数に脅され決闘を受諾したとなればそれだけで魔王の名が廃る」

魔王「そうなれば大陸の統治もままならん」

魔王「名が残っていれば余が死んでもそれを後の者が引き継ぐ」

魔王「お前たちのやっていることは無意味だ」

幹部「それなら二人であんたをタコ殴りにしたあと」

幹部「城にわんさかいる部下相手に分の悪い戦争でも仕掛けてみるさ」

魔王「……やはり解からん。なぜそこまでするのか」

魔王「なぜお前たちは魔王の座を欲する」

魔王「話してみよ」

幹部B「ふぇぇ……」

幹部「直々のご質問だぜ。答えてやれよ」

幹部B「……わたしね」

幹部B「この世界でもっと遊びたい」

幹部B「世界にはまだまだ知らない場所や生き物がたくさんあるんでしょお?」

幹部B「それを見たり、感じたり、触ってみたりしたいの」

幹部B「魔王の椅子って見晴らしがよさそうだし」

幹部B「いろんな人たちがわたしの側に来てくれるだろうし」

幹部B「それにまずは……」

幹部B「あなたとも戦ってみたいしねぇ」

魔王「……ふむ」

魔王「よかろう。 決闘を引き受ける」

幹部「ほ、本当か!?」

魔王「余が見極めねばならんようだ」

魔王「お前がただの狂言者か、魔王たる器なのかをな!」

――

魔王「ふぇぇ……」

幹部「ははは、ローブ似合わねぇな」

魔王「まずは何しよっかなぁ」

幹部「とりあえず人間たちの様子を見ないとな」

幹部「船が一番多く繰り出せるが、空からのほうが早い」

幹部「魔王様、なんにしますかい?」

魔王「……橋がいいよぉ」

幹部「橋? 作れなくもないが……」

魔王「向こうからも来ないと面白くないでしょお?」

――

幹部「これなんかどうだ?」

幹部「男を昼の間馬に、女を夜の間猫に変える呪いだ」

幹部「人間のお偉いさん達にかけてやりゃあ面白いことになるぜ」

魔王「街ごとかけようよぉ」

幹部「おいおい、そんなことしたら反動でずっとその姿のままだぞ」

幹部「数だけでいいなら魔女のやつにでもやらせとけばいいんだ」

魔王「ふぇぇ……呪いは自分でやるよぉ」

魔王「そうしないと苦しんでるのが伝わってこないんだよぉ……」

――

幹部「……」

幹部「適当な期間で村を踏みつぶしていく石の巨人だが」

幹部「先日破壊された」

魔王「ふぇぇ……」

幹部「大きな町や城はルートに入れてないし……」

幹部「あれを倒せるほどの人数が動くなら報告が入ってくるはずだ」

幹部「なにかいるぞ」

魔王「それじゃあ、わたしが行くよぉ」

幹部「おいおい、折角支持も増えてきてるんだ」

幹部「魔王さまはどっしり構えてなよ」

幹部「俺が見てくる」

魔王「ふぇぇ……」

幹部「……本当はな」

幹部「ちょっと楽しみなんだ」

――

魔女「……今のが、幹部がやられるまでの映像よ」

魔王「ふぇぇ……幹部ちゃん死んじゃった」

魔女「ペンダントからの映像だから見づらかったけど……すごいわね」

魔女「"勇者"、神に力を与えられた人間」

魔女「大昔にもこいつにやられたことがあったらしいわ」

魔女「あのおっさんの不干渉主義にはこんな理由もあったのね」

魔王「ふぇぇ……」

魔女「?」

魔王「この人……面白そうだねぇ……」

魔女「仇取りは私にまかせてもらえるかしら?」

魔王「ふぇぇ……?」

魔女「あんた……いや、魔王様が見つけた魔法を使えば」

魔女「相手に関係なくドカン!よ」

魔王「ふぇぇ……一人とは限らないよぉ……?」

魔女「あら、心配してるの? 珍しいわね」

魔女「それじゃあ……ドラゴンを一匹借りて行こうかしら」

魔女「それで十分すぎるでしょ」

――

魔王「ふぇぇ……」

魔王「みんな殺されちゃった」

魔王「わたしだけになっちゃったよぉ……」

魔王「でも、あの勇者がやってくると思うと」

魔王「なんだかワクワクしてきちゃう」

魔王「気持ちの整理ができないよぉ……」

勇者「魔王ォおお! 姿を現せ!」

魔王「ふぇぇ……勇者が来たよぉ……」

魔王「まだ心の準備ができてないよぉ……」

――

――――

――――――――

人面蝶「ギャアギャア!」

国王「またあの魔物が……」

大臣「王様!大変です!」

国王「分かっておる。 また来たのだろう?」

大臣「それについて司祭殿が話をしたいと……」

国王「……ふむ、通せ」

司祭「突然の訪問にもかかわらず通していただき、ありがとうございます」

国王「どうされましたかな? 少し慌てているようすですが」

司祭「はっ。 あの魔物が運んできた……その……」

国王「聖職者が集まってるところを見るに」

国王「今回は死体のようですな」

司祭「確かに死んでおられるのですが……死体の呼んでもよいものか……」

国王「?? 話が見えませんが」

司祭「あれは……あの御方は……おそらく」

司祭「神なのです」

一ヶ月後

囚人E「離せ! 開放しろ!」

看守「2〜3年ここで頭を冷やしてろ」

ガチャン

囚人E「後悔するぞ! 時間がないんだ!」

囚人E「お前たちは! 神を餌にしている!」

囚人E「それだと王都は消滅する! 国ごと消える!」

囚人A「……今度の新入りは元気がいいな」

囚人E「おい聞け! クズ人間が!」

囚人E「……クソッ!」

囚人A「やれやれ、変なやつと相部屋になっちまったな」

囚人E「なんだお前……いや、聞け!」

囚人E「神はもう死んでいる! 今王都にあるのは死体ですらない!」

囚人A「おおかた街なかでそう叫んで、ここにぶちこまれたんだろう」

囚人A「神の死体」

囚人A「あれを見ておかしくなった奴はたくさんいる」

囚人E「ちがう! 私は違う! あれは違う!」

囚人A「おかしくないなら会話をしろ、質問に答えろ」

囚人A「名前は」

囚人E「私は天使!」

囚人A「出身は」

囚人E「天よりの使者! だった!」

囚人A「……大丈夫かこいつ」

囚人E「ここは危ない! 出ないといけない!」

囚人A「出られるならとっくに……」

囚人A「いや、そうでもないか」

囚人E「なんだ! どうした!」

囚人A「ここは囚人と人として扱ってくれる」

囚人A「だらだら刑務をしてれば食いっぱぐれることはない」

囚人A「慣れたらなかなかいいところだぜ」

囚人E「……これだから人間は! クズなんだ!」

囚人A「……」

囚人A「そうかよ」

――

ガリガリ ガリガリ

囚人E「クソッ! 壁が硬い!」

囚人A「そりゃそうだろ」

囚人A「……毎日そんだけ叫んで喉は大丈夫か?」

囚人E「……?」

囚人E「人間は脆いな!」

囚人A「そうかい、天使様はすごいな」

囚人E「天使に敬称は要らない! それよりも神を敬え!」

囚人A「神は死んだからなあ」

囚人E「あああぁぁぁあああぁああ!!」

囚人A「ああ、悪かったよ」

囚人A「熱心な信者だったんだな」

――

ガリガリ ガリガリ

囚人E「ずらさぬように! 正確に!」

囚人A「そんな石ころで壁が掘れるわけないだろう」

囚人A「諦めて静かにしてくれよ」

囚人A「看守にどやされるのは俺だし」

囚人A「見てるこっちの喉が乾いちまう」

囚人E「……」

チャポン

囚人E「水だ! 飲め!」

囚人A「……はっ?」

囚人A「ま、魔法じゃねえか! 使えたのか!?」

囚人E「あたりまえだ! さあ飲め!」

囚人A「……」

囚人A「うぇ、まず! 真水じゃねえなこれ」

囚人E「ここは空気が汚い! 水分も汚い!」

囚人A「風魔法の応用で水を……?」

囚人A「あんた、本当に天使なのか……?」

囚人E「最初から! そう言っている!」

ガリガリ ガリガリ

囚人A「……証明できるか?」

囚人E「なにを!」

囚人A「天使」

囚人E「背中! 羽!」

囚人A「ただの火傷じゃねえか」

囚人A「真っ黒の」

囚人E「!!!!!!」

囚人E「堕天じゃないぃぃいいいぃぃいいいい!!!」

囚人A「!? お、おい!!」

囚人E「違う! 違う違う違う違うちがうちがうちがう!!」

囚人E「これは神の愛がなくなったからではなく神そのものが消えてしまったからで
       あってすべての天使がこうなったといってももう天使など私ともう一体しか残って
       ないがとにかく堕天ではない全て神をほうむったあいつが悪いあいつが憎い
       激しい怒りで絶望を忘れている状態とにかくにくい憎いにくい狂ってしまう
       そうだあいつだ魔族だ魔のものだなんなんだあれはあいつらはあの力は
       干渉するなこっちにくるな神に近づくな神と同じ力を持つな殺してやる
       殺してやる殺すコロスころ……ころころころころコロコロころコロ」

囚人A「お、落ち着け! 俺が悪かった!」

囚人A「あーっと……」

囚人A「あんたは天使だ。 神に愛されている」

囚人E「うぅぅうう……!」

囚人E「……」

囚人E「かみさま、うつくしかった……」

囚人E「……」

囚人E「ありがとう、やっと冷静になれた」

囚人A「そ、そうかい。 そりゃなにより」

囚人E「ここのちょうど真上……」

囚人E「広場に神の死体が置いてあるだろう? あれは客寄せなんだ」

囚人A「お、おい……やっぱりまだ……」

囚人E「神は存在するだけで人を釘付けにする」

囚人E「何がアレを運んで来たのかなんて忘れてしまう」

囚人A「……どういうことだ」

ガリガリ ガリガリ

囚人E「簡単な話なんだ、何人かは気づいているんだ」

囚人E「魔物がアレを持ってきた」

囚人E「人がアレに集まった」

囚人A「……」

囚人E「人を集めるのが魔物の目的だ」

囚人A「た、確かに……」

囚人E「この国もその事には気づいている」

ガリガリ ガリガリ

囚人E「体や心が折れた冒険者が次々と落ちてくる街」

囚人E「そんな不気味な場所には誰も居たくない」

囚人E「人は減る」

囚人E「国も衰退する一方だ」

囚人A「……」

囚人E「そんなとき空から神が降りてきて」

囚人E「人が戻ってきた」

囚人A「……」

囚人A「国の為に手放せない……」

ガリガリ ガリガリ

囚人E「どちらにせよ魔王との戦いは避けられない」

囚人E「それなら人を一点に集めて迎撃するべき?」

囚人E「人間が魔族相手に正面衝突?」

囚人E「これは希望でも何でもない、ヤケだ」

囚人E「そんな正攻法で倒せる相手ならとっくに」

囚人E「戦争と呼ばれる戦いになっている」

囚人E「気づいてはいるがやめられない」

囚人E「国は豊かになっているからな」

囚人A「そ、それならあんたは何のためにここに来たんだ?」

囚人E「伝えるために来た……が」

囚人E「一番動揺していたのは私だったな。それに気づいていなかった」

囚人A「それなら早く伝えようぜ」

囚人E「ああ、看守を待とう」

囚人A「……そういえばもう見回りに来ていい頃だが」

囚人E「……」

囚人E「空気が変わった」

囚人A「はっ?」

パキンッ

囚人E「ここを出るぞ」

囚人A「お、おい……脱獄して話し合いになるのかよ」

囚人E「1秒が惜しい」

タッタッタ……

囚人E「この天井の戸を開ければ外に出るんだな?」

囚人A「そうだけどよ……」

囚人E「っ!」

囚人A「熱っ! な、何だこりゃ!?」

囚人E「地上は炎に包まれているようだな」

囚人A「広場が? 噴水だってあるんだぞ?」

囚人E「おそらく……」

囚人E「魔王はもうここに来ている」

囚人A「牢獄の出口ってのは囚人を出さないように強固にできてる」

囚人A「その上この熱じゃ……」

囚人E「くそっ! 私がもっと早く……!」

囚人A「!! 煙が入ってきやがった!」

囚人E「……」

囚人E「一度部屋に戻るぞ」

囚人A「……ここにだってすぐに煙が入ってくる」

囚人A「そうしたら息ができなるなるぞ」

囚人A「これからどうすんだよ」

囚人E「奇跡を信じる」

囚人A「はぁ?」

ガリガリ ガリガリ

囚人E「……完成だ」

囚人A「それで、これは何なんだ?」

囚人E「転移方陣だ」

囚人A「転移……? ここから出られるのか?」

囚人E「残念ながら私には起動するだけの魔力がない」

囚人A「じゃあなんでこんなものを」

囚人E「もともと心を落ち着けるために書いていたものだが」

囚人E「これを使う方法はある」

囚人E「近くで方陣が発動した時、その魔力に干渉して」

囚人E「私達の体をそこに転移して もらう 」

囚人A「そんなことが……本当にできるのか?」

囚人E「この方陣に必要な魔力の約40倍」

囚人E「それだけの魔力を持った者が陣術を使えば」

囚人E「これを誘発させることができるだろう」

囚人A「40……それこそ無理じゃねえか?」

囚人E「魔王」

囚人A「!!」

囚人E「奴の魔力なら十分すぎる量だ」

囚人A「そ、それでも……奴が陣術を使うとは限らないだろう」

囚人E「それでも、そうするしかない」

囚人E「神は希望を捨てるなと仰られた」

囚人E「私も死ぬ前に力を尽くさねばならん」

数分前

国王「陣術士は抜かりないな?」

大臣「はっ! 交代で常に6人待機させております」

国王「魔王がいかに強大であろうとその力の源は魔力……」

国王「そこを突けば勝機はある……」

国王「これで間違いはないのだ……」

大臣「お、王様!」

国王「……来たか」

ガシャーンッ

魔王「ふぇぇ……」

魔王「天使の言ってた通りだねぇ」

魔王「上からなら直接ここまでこれたよぉ……」

国王「こ、こいつが……」

国王「こんな子供のような奴に……」

大臣「? あの格好は……」

兵士A「敵襲ーッ!」

「「オオーッ!」」

兵士B「だらァッ!」

魔王「あれ? 魔法がでないよぉ……」

バシッ

兵士B「な、なんだ!? 刃が通らねェ!」

魔王「ふぇぇ……」

ドスッ

兵士B「がふっ……!」

ドサッ……

兵士A「つ、続けぇーッ!」

兵士C「たぁあああ!」

兵士D「どりゃあああ!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「素手だけで戦うなんて久しぶりだよぉ……」

国王「こ、こんなことが……」

兵士A「」
兵士C「」

兵士D「ぐぁ……」

ドサッ…

魔王「……見つけた」

陣術士A「!!」

陣術士A「見つかっ……逃げっ……」

魔王「えいっ」

グシャァ

魔王「あれぇ……?」

陣術士A「」

魔王「使った人を殺しても魔法が出ないよぉ……」

魔王「思ったよりすごいんだね、これ」

魔王「来る前に魔法を使っておいてよかったぁ」

国王「……なんだと?」

魔王「外、見てみてぇ」

国王「……!」

国王「た、太陽が……2つ……?」

魔王「わたしの城を壊したのと同じ魔法だよぉ」

魔王「ゆ〜っくり落としてあげるから」

魔王「慌てて逃げようとする人たちを……」

兵士E「かかれーッ!」

魔王「あ、まだいたんだ」

魔王「この人達もみんな殺すから」

魔王「まあ、好きな方を見ててねぇ」

陣術士B〜E「」

魔王「にい、さん……6人もいたんだ」

魔王「う〜ん……まだ使えない……」

魔王「すごい術なんだねぇ」

国王「……」

魔王「どうだった?」

魔王「目の前で部下が殺されて」

魔王「外では……半分ぐらいかな?」

魔王「逃げ遅れて焼けちゃったね」

魔王「ふぇぇ……」

国王「……」

魔王「その顔じゃないよぉ……」

魔王「もっと悲しんで」

魔王「もっとわたしのことを怖がって、怒って」

魔王「ぐちゃぐちゃになった顔が見たいよぉ……」

国王「ここが……」

魔王「ん? なぁに?」

国王「ここがまだ燃えていないのは単に火が移りにくく作ってあるからだ」

国王「もはや下の階は火の海と化しているだろう」

魔王「ふぅん……」

国王「魔王、貴様は自分の魔法で死ぬのだ」

国王「私と共にな」

魔王「別にわたしは死なないと思うけど」

魔王「あなたはもうちょっと生かしておきたいなぁ」

魔王「こんな術作っちゃうすごい人なんだし」

国王「!」

魔王「あなたが生きてるかぎりこれは消えないのかな?」

魔王「……それなら、わたしがこれを強化してあげる」

国王「強化……?」

魔王「魔法が使えなくなる、それだけじゃなくて」

魔王「魔法の影響がここに来なくなるようにするねぇ」

国王「そんなことが……いや」

国王「なぜそのようなことをする」

魔王「もちろん、あなたを生かすためだよぉ」

魔王「この辺がぜーんぶ燃えちゃったあとに」

魔王「いっしょに町を見て歩くの」

魔王「あなたの作った国がどう壊れたのか」

魔王「あなたの国民がどんなふうに死んでいったのか」

魔王「ちゃんとあなたに見てもらって」

魔王「そうしたら」

魔王「殺してあげるね」

国王「き……」

国王「貴様……!」

魔王「それじゃあ……始めるよぉ」

大臣「や、やめろ!」

魔王「あれぇ? まだ生きてたんだ」

大臣「お……お前はなぜこんなことをする!」

魔王「あなたは別にいらない。 すぐに殺してあげるね」

大臣「なぜ人間と敵対する!」

大臣「なぜ魔族は和平へと向かえない!」

魔王「……」

魔王「あのお姉ちゃんはとっくに死んじゃったよぉ?」

大臣「なっ……!」

魔王「じゃあ、バイバイ」

グチャッ

国王「だ、大臣……」

魔王「邪魔が入っちゃったし」

魔王「急ぐねぇ」

魔王「わたしの魔力をあなたに送り込んで」

魔王「あなたの手から直接……」

魔王「えーと……」

魔王「陣術、発動!」

ブワッ!

国王「ほ、ほんとうに……」

国王「この部屋だけ熱が消え……」

囚人E「キェェエエエエエエエ!!!」

囚人A「う、うぉおおおおおおおおお!!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「なんか来たよぉ……」

囚人E「神の仇ィィイイイイイイ!!!」

魔王「ふぇぇ……」

バシッ

囚人E「むっ!? この陣術は魔法封じか……」

囚人A「あ……あれが魔王……?」

囚人E「見た目に惑わされるな!」

囚人E「二人で仕掛けなければ勝てない相手だ!」

国王「一体なにが……?」

囚人A「お、王様!」

国王「お前は……勇者と共にいた……」

囚人A「……」

囚人A「そんな話は後です!」

囚人A「何か武器はありませんか!」

囚人A「槍ではダメなんです! 魔族の体には刺さらない!」

囚人A「重さで叩き斬る剣! できれば斧がいい!」

囚人E「ぐぅ……格闘でもこちらが不利か……」

魔王「あれ……思ったより固いねぇ」

魔王「あなた人間じゃないの? 天使?」

囚人E「……お前はそう呼ぶなァアアアアアア!!!」

魔王「今ならあなたで遊んでも楽しそう」

魔王「だから頑張ってね」

囚人A「だあああァッ!」

魔王「ふぇっ?」

ボギッ

囚人E「おお! やつの腕を!」

囚人A「よ、よし! 骨に直接ぶつかる感触がした!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「折れちゃった……腕が上がらないよぉ……」

囚人E「今だッ! 一気に……」

ズバッ

囚人E「ぐぁああああ!!」

囚人A「ば、馬鹿野郎! 正面から突っ込むな!」

囚人A「リーチはこっちのほうがあるんだ!」

囚人A「中距離を保って武器で攻撃しろ!」

魔王「ふぅん……」

魔王「あなたは前に見たことあるよぉ」

魔王「幹部ちゃんと魔女ちゃんを殺した時にいたよね?」

囚人A「それがどうした」

魔王「でも、勇者は一人で来たよねぇ」

魔王「あなた……逃げたの?」

囚人A「……」

――

 幹部「」

勇者「はぁ……はぁ……」

傭兵B「すげぇや、勇者の旦那」

傭兵A「なんとか勝つことができたな」

魔導士「しかしこれが魔族……」

魔導士「体術も魔法も人間とは桁違い……」

魔導士「これで勇者様がいなかったらと思うとゾッとしますね」

――

 魔女「」

ドラゴン「」

勇者「……みんな大丈夫か?」

傭兵A「……」

傭兵B「」

魔導士「うそだ……こんなことが……」

魔導士「こんな魔法があるなら……」

魔導士「魔族の法だから魔法というのなら……私は……」

勇者「……私は進む」

勇者「誰かが勇気とならねば、人間の歴史はそれで終わってしまう」

傭兵A「俺は……」

魔導士「私は……私は……」

魔導士「うわぁああああ!!」

傭兵A「お、おい!!」

魔導士「」

勇者「……自害を選んだか」

傭兵A「そんな……」

――

 傭兵A「俺も……降りる……」

勇者「……そうか」

傭兵A「相棒も……魔導士の嬢ちゃんもいなくなっちまった」

傭兵A「俺はもう……戦う理由がない……」

勇者「城でゆっくり待っていてくれ」

傭兵A「……なんだよ」

傭兵A「もっと責めろよ! 俺は逃げるんだぞ!」

勇者「お前は悪くない」

勇者「悪いのは……倒すべき悪は……」

勇者「みんなから勇気を奪った魔族だけだ」

――

 囚人A「なんだよ……そのざまは……」

勇者「すぐに出してやる」

囚人A「俺のことなんてどうでもいい!」

囚人A「あんたももう戦うなよ!」

勇者「……それはできない」

囚人A「なんでだよ! もう終わりなんだよ! 逃げちまえよ!」

勇者「私は戦い続ける」

勇者「勇気を取り戻すまで」

――

魔王「今までいろんな人を見てきたけど」

魔王「友達を殺されて逃げる人は初めて見たなぁ」

囚人A「黙れ」

魔王「怖いって思っちゃったんだ」

囚人A「黙れ!!」

魔王「勇者を一人にして逃げちゃったんだ」

魔王「あなたがいれば勇者は負けなかったかもしれないのにねぇ」

囚人A「だまれぇぇえええ!!」

ドゴォッ

魔王「飛び込んじゃったねぇ」

ズシャァァアア……

囚人A「かはっ……ぐぅ……」

囚人A「ただの蹴りがなんて威力……」

魔王「それじゃあ、お別れかな」

囚人A「はぁ……はぁ……い、嫌だ……」

囚人A「死にたくない……」

魔王「バイバイ」

囚人E「だァアアアアアアッ!!」

魔王「あなたからね」

ドシャッ

囚人A「は、腹を突き破られた……!?」

囚人E「…」

魔王「これで人間のあなた一人になったね」

囚人E「い…ま……だ……」

囚人E「」

魔王「あれ」

魔王「腕が抜けないよぉ」

囚人A「う……」

囚人A「うわぁああああ!!!!」

ドグチャッ!!

国王「終わった……」

囚人E「」

囚人A「」

魔王「ふぇぇ……楽しかったねぇ」

国王「い……一体なぜ」

魔王「説明してほしい?」

国王「……」

魔王「えっとね……天使の体ってね、地上とは別のもので出来てるの」

魔王「肉体強化の魔法とかは使えたみたいだし」

魔王「この陣術も天使の体の中には効果がないみたい」

魔王「だから」

魔王「天使の心臓をぐしゃーって潰して」

魔王「そのまま体の中で魔法を使ったんだよぉ」

――

魔王「……火が収まったみたいだね」

国王「……!」

国王「瓦礫の山……これが私の国なのか……?」

魔王「違うよ」

魔王「人も建物も潰しちゃったから」

魔王「国はもうなくなったよぉ」

魔王「それじゃあ、見に行こっか」

魔王「外は煙たいねぇ」

国王「……」

魔王「お城は形だけ残ってるけど……」

ガラガラガラ……

魔王「触ると崩れちゃうね」

国王「……その手は」

魔王「うん? もう治したよぉ」

ザッ……ザッ……

国王「……」

魔王「あ、子供の骨だね」

魔王「となりの骨はこの子の親かな?」

魔王「見捨てれば助かったかもしれないのにねぇ」

国王「……」

魔王「こっちには獣の骨があるね」

魔王「つなげたまま飼い主が逃げちゃったんだねぇ」

魔王「あれ?」

人面鳥「ギ……ギャアギャア……」

国王「この魔物は……」

魔王「ありゃ、逃げ遅れたの?」

魔王「それとも撃ち落とされたのかな?」

人面鳥「ギ……」

魔王「……治してあげてもいいけど」

魔王「怪我だけ治してもその羽根じゃ飛べないねぇ」

魔王「殺してあげようか?」

人面鳥「……」

魔王「うん、分かったよぉ」

魔王「あ、この人は肉が少し残ってるね」

魔王「良い服を着てたのかな?」

国王「……司祭どの……」

魔王「広場の真ん中で座り込んでるから」

魔王「最初から逃げる気がなかったんだねぇ」

魔王「……」

魔王「さすがにこれは焼け残ったね」

国王「……神の死体」

国王「こんなものが……あるから……」

魔王「死体はね、贄にできないの」

国王「……なんの話だ」

魔王「知りたいでしょ?」

グチャ…… グシュグシュ……

国王「な、なんだ……?」

魔王「死体でも……餌にならできるよね」

魔王「お肉の中で温めたから、すぐに生まれるよぉ」

魔王「おいでぇ」

国王「そ、そうか……!」

国王「貴様は……これが目的で……」

ドラゴン「グル……」

魔王「よしよし」

ドラゴン「グルル……」

魔王「あれ? まだお腹すいてるのぉ?」

魔王「……」

魔王「今からあなたを餌にするけど」

国王「!」

魔王「その前にわたしが殺してあげてもいいよぉ」

魔王「どうする?」

10年後

村人A「あ、村長! お疲れ様です」

村長「ああ、無事帰ることができた」

村人A「魔獣タイプ2匹を物ともしないなんて……さすがです!」

村長「なぁに、見張り番のお前が早く見つけてくれたおかげだよ」

村長「ゴーレムの位置はどうだ?」

村人A「はい、少しずつですが……まっすぐこちらに向かってきています」

村長「さすがにあれは相手にできん」

村長「ベースキャンプの移動は予定通り2日後に行う」

村長「わかっていると思うが警報は鳴らすな。 刺激してしまう可能性が高い」

村人A「大丈夫です。 みんなにもそう伝えております」

村長「それでは私はこれで」

村人A「あの少年の様子を見てくるんですか?」

村長「ああ、稽古をつけてやらないとな」

村人A「子供とは思えない剣の冴え、魔法も人並み以上に使える」

村人A「彼ならこの時代を変えてくれるかもしれませんね」

村長「……私もそう信じているよ」

少年「あ! 村長!」

村長「元気そうだな」

少年「……今日も、訓練するの?」

村長「もちろん、お前には強くなってもらわねばならん」

少年「村長がいればこの村は安泰だよ」

村長「……私ではダメなのだ」

少年「?」

村長「さあ、木刀をとれ。 始めるぞ」

――

少年「はぁ……はぁ……」

村長「よし、今日はこれぐらいにしておこう」

少年「……」

村長「どうかしたか?」

少年「なんとなく……そう感じるだけなんだけど」

村長「言ってみろ」

少年「最近この村から邪悪な気配がするんだ」

少年「いや……最初からこの村にいて、僕が最近気づいたような……」

村長「……」

村長「少年、あとで私のテントに来なさい」

――

村長「君か。 入りなさい」

少年「それで話ってなんですか?」

少年「!! そ、村長! なんで脱いでるの!?」

村長「私の体を見てほしい」

少年「ななな、なんで……」

村長「背だ」

少年「……え?」

少年「羽のようなアザが……」

村長「……」

村長「私は天使だった」

村長「さて、私は天使として神に仕えていた」

村長「しかし10年前、神は魔王に殺された」

少年「それは……聞いたことあるけど……」

村長「少年、君の生まれた日だ」

少年「え?」

村長「神はいつも希望を捨てるなと仰っていた」

村長「魔王にただ殺された……とは考えにくい」

村長「おそらく死ぬ直前に、誰かに力を与えたんだ」

村長「それこそが君だ」

村長「君は勇者なんだよ」

少年「ちょ、ちょっと待って!」

少年「そ、村長は……僕に……」

少年「魔王と戦えと言っているの!?」

村長「その通りだ」

少年「僕にそんな力はないよ!」

村長「ある。 現に力を察知したじゃないか」

少年「あれは魔の気配だから……村長じゃないよ!」

村長「この村には人間しかいないさ」

村長「おそらく今の私が堕天使に近い存在なのだろう」

村長「……悲しいことだがな」

少年「村長……」

少年「と、とにかく僕には無理だよ!」

少年「仮に勇者だったとしても、昔勇者は負けたって!」

村長「……少なくとも私の知る中で最も強い生物は勇者だ」

村長「それに、今すぐ戦えと言っているわけではない」

村長「来るべき時に備えて力をつけるのだ」

少年「……」

村長「まず、明日ゴーレムを迎え撃つ」

少年「あの……石の巨人を……?」

少年「魔法も通らないし……投石だってダメだったのに……」

村長「これを使う」

ギラッ

少年「これは……?」

村長「数年前に魔王城跡で発見した」

村長「光の剣だ」

村長「刃が中程で折れていたので短剣に加工してあるが」

村長「今の君にはちょうどいいだろう」

翌日

村長「見えてきたぞ、あれだ」

ゴーレム「……」

少年「お、大きい……」

村長「よし、いくぞ」

少年「え!? 正面から突っ込むんですか!?」

村長「君の力なら大丈夫だ」

少年「どうやって剣であれを……」

村長「なあに、初撃をかわせば隙だらけさ」

ゴーレム「……!」

村長「気づかれたな」

少年「や、やっぱり逃げましょう!」

村長「大丈夫だ」

少年「でも……」

村長「……私がアレの注意を引く」

村長「君は後ろから切りつけてくれたらそれでいい」

ゴーレム「…!……」

村長「来い!」

ドゴォォオオオ

村長「よし、軌道が丸見え……問題なくかわせる」

村長「はぁっ!」

カッ

ゴーレム「……!…」

村長「目眩ましは効果は薄い……が」

少年「た……たぁあああ!!」

ズバッ

ズーンズーン……

村長「……すごいな」

少年「ゴーレムを……真っ二つにできちゃった……」

少年「これが……勇者の力……?」

村長「君が剣の性能を引き出したおかげだ」

村長「光を吸い込んだ剣なら石の硬さなどないに等しい」

少年「す、すごい……」

村長「このように私も出来る限り補助をする」

村長「だから……」

村長「魔王、倒してくれるな?」

少年「……はい!」

村長「よし、穴を掘るぞ」

村長「奴に気づかれる前に埋めてしまおう」

――

村人A「そ、村長!」

村長「ああ、ただいま」

村人A「なんだったんですか? あの力は」

村長「見ていたのか」

村長「もうしばらくは内緒にしておいてくれ」

村長「奴が噂を嗅ぎつけてしまう」

村人A「……わかりました」

村人A「……おや?」

村長「どうした?」

村人A「魔物が遠くから走ってきます」

村長「そうか、少年は疲れているし私が……」

村人A「トカゲ型が一匹と……」

村人A「こ、子供がひとり……?」

村長「!!!」

村長「警報を鳴らせ! すぐに散開する!」

少年「そ、村長! なにがあったの!?」

村長「君は早くみんなと逃げろ!」

少年「大トカゲのたぐいなら僕だって……」

村長「ばかもの! あれはドラゴンだ!」

少年「え……?」

村長「まだ君が嗅ぎつけられたとは限らん」

村長「私が時間を稼ぐからその隙に逃げるんだ!」

――

魔王「ふぇぇ……」

魔王「人がいないよぉ……」

村長「……もう来たのか」

魔王「あれ? あなただれ?」

村長「狙いは私ではないのか?」

魔王「わたしは大きい街から順番に壊してるだけだよぉ」

村長「……変わっていないんだな」

村長「見た目も、その性格も」

魔王「……あっ」

魔王「もしかして天使のお姉ちゃんかな?」

村長「覚えていたか」

村長「あの時は見張り番をしていたから」

村長「その時一瞬だけお前と目が合ったな」

魔王「女神を置いて逃げちゃったんだ」

村長「……」

村長「ああ、希望のためにな」

魔王「ふぅん……」

ドラゴン「グルル……」

魔王「村を壊しに来たんだけど……天使のあなたで我慢してあげる」

村長「……私は村長だ」

村長「自分の村民ぐらい……守ってみせる!」

少年「ま、待ったぁ!」

村長「!?」

魔王「ふぇぇ……?」

村長「しょ、少年! なんできた!」

少年「村長をおいて逃げるなんてできない!」

少年「ドラゴンだってこの剣でやっつけてやる!」

魔王「それ……勇者の使ってた剣だよね?」

魔王「なんで?」

少年「ぼ、僕より小さい……子供……?」

少年「いや……魔の気を感じる! 魔族だ!」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「魔王だよぉ……」

少年「ま、魔王!?」

少年「魔王がこんな子供だったなんて……」

少年「これなら僕にだって……倒せる!」

ダッ

村長「ば、馬鹿!」

魔王「あなたはだぁれ?」

少年「僕は勇者だ!」

魔王「ふぇぇ……」

ボガッ

少年「あ……れ……」

魔王「うそだぁ」

魔王「あなた、弱っちいもん」

村長「しょ、少年!」

ドラゴン「グルル……」

村長「っ!」

少年「うぅ……痛い……くるしい……」

魔王「ちょうどよかった」

魔王「誰かに見てもらわないとね」

魔王「最後の天使が食べられるところ」

少年「ひ、ひぃっ!」

魔王「あなたはまだ殺さないよ」

魔王「さぁ……」

魔王「今から起こることをちゃんと見て」

魔王「わたしとドラゴンちゃんのことを覚えて」

魔王「そしたら、またわたし達を殺しに来てねぇ」

少年「そ……村長……」

村長「……ただでは殺されんッ!」

カッ

魔王「わっ」

村長「うぉおおおお!」

村長「……!?」

村長「な、なんだ!? 光が強すぎる!」

魔王「その魔法なら見たことあるよぉ」

村長「っ! 氷の魔法で鏡を!」

魔王「餌は暴れちゃ駄目だよ」

ドゴッ

村長「ぐぅ……」

ドサッ…

少年「そ、村長!」

魔王「それじゃあドラゴンちゃん、食べちゃえ」

ドラゴン「グルル……!」

村長「……私はここまでのようだ」

村長「少年、聞いてくれ」

村長「私が殺されても、恨みに身を任せてはいけない」

少年「えっ……?」

魔王「……」

村長「怒りは絶望を忘れさせるが、冷静さも欠いてしまう」

村長「常に冷静に……世界のために戦ってほしい」

村長「それが他の者への希望につながる……それが……」

魔王「ドラゴンちゃん」

ドラゴン「グルル……」

少年「そ、村長!」

村長「それが勇者だ」

ドラゴン「ガァッ!」

グルンッ

少年「えっ」

魔王「……あれ?」

少年「こ、こっちに来る……!?」

村長「しょ、少年!」

少年「くそっ!」

ドラゴン「ガァッ!」

ガキッ

少年「光の剣が……はじかれ……」

ガシュ

魔王「ふぇぇ……」

少年「」

魔王「そっちを先に殺しちゃったのぉ……?」

村長「そんな……少年が……希望が……」

ドラゴン「……」

ゴシュ ガシュ モグモグ

ドラゴン「グルゥ」

魔王「よしよし……別にいいよぉ」

魔王「それのほうがおいしそうに見えたんだねぇ」

魔王「それのほうが天使より神に近かったんだねぇ」

村長「な……?」

魔王「分かんないのぉ?」

魔王「そんなのじゃなくて」

少年「」

魔王「ドラゴンちゃんが勇者だったんだよぉ」

魔王「女神は力を与える前に死んじゃったんだねぇ」

魔王「だからそれを食べたこの子が勇者の力も引き継いだ」

村長「な……なにを言っている」

魔王「ふぇぇ……」

魔王「女神も、それも」

魔王「わたしも」

魔王「ただ勝手に生まれただけなんだよぉ」

村長「あ……!」

村長「ああっ……!」

村長「気配察知は勇者の能力ではない……!」

村長「"神の目"だ……」

村長「少年は……勇者ではなく……」

村長「神の生まれ変わりだった……?」

魔王「そうかもねぇ」

魔王「でも、もしそうだとしたら……」

魔王「あなたは二回も女神を見殺しにしたんだね」

村長「そんな……そんなっ……」

魔王「それなのになにもできてない……」

魔王「あなたは希望を無駄使いしたんだ」

魔王「あなたが10年間やってきたこと……」

魔王「ぜ〜んぶ無駄だったんだ」

村長「う……うぅ……」

魔王「悔しいよね、悲しいよね」

村長「おお……主よ……!」

魔王「そんな気持ちでいっぱいになってきたよね」

村長「私は……あなたを……」

魔王「それじゃあ」

魔王「ばいばい」

――パァンッ!

魔王「あ……れ…」

村長「ま、魔王が……」

ドサ…

村長「撃たれた……?」

村人A「よ、よし……爆発してない」

村人A「俺は生きてるぞ! ハッハー!」

魔王「あ……あなたは……」

村人A「……まだ息があるのか、バケモノめ」

村人A「だが、光の剣を加工した弾丸が頭にめり込んだんだ」

村人A「長くは持つまい」

村長「お、お前は一体……」

「最近この村から邪悪な気配がするんだ」

「あれは魔の気配だから……村長じゃないよ!」

村長「ま、まさか……!」

村長「村人A、お前は……」

村長「魔族だったのか……」

村人A「そういうことだ、マヌケな元天使さんよ」

村長「10年もの間……人間を演じきったのか……」

村長「ただ……魔王を倒すためだけに」

村人A「正攻法でこいつは倒せん」

村人A「楽しい戦闘のあと……獲物をなぶるときの隙をつくしかない」

村人A「俺にとって獲物はなんでもよかったのさ」

村人A「そこのガキでも、あんたでもな」

村長「……」

村長「すごいな……」

村人A「ほう?」

村長「なぜだろう……気が動転しているのか……」

村長「素直に称賛してしまう……」

村人A「お前、考え方が魔族に似てきたか?」

村人A「今からでも俺の部下になるか?」

村長「……それは無理だな」

村長「私たちは助からんよ」

村人A「?」

村人A「やはり冷静さを欠いているだけか」

村人A「さてと、こいつにとどめを刺して」

村人A「まずは魔王の称号をいただくとするか」

魔王「……」

村人A「おらバケモノ」

村人A「なにか言い残すことはあるか?」

魔王「あなた……だれ……だっけ……?」

村人A「……」

村人A「―――〜ッ!!!!」

ドゴッ!

村人A「お前が! お前がいるから!」

バキッ! ドガッ!

村人A「俺の親父を殺しやがって!」

村人A「俺の部下を殺しやがって!!!」

村人A「俺の城を壊しやがって!!!!」

村人A「俺より先に成り上がりやがってェエエエ!!!!!!」

ガスッ! ガスッ!

村人A「この10年間! お前への恨みだけで生きてきた!」

村人A「人間同然のボロボロの体で! 逃げ続けて!」

村人A「お前を殺せる武器を作って! チャンスをずっと」

ドラゴン「ガァアアアアア!!!」

ドゴォ!

村人A「かはっ!」

村人A「ぐ……俺に敵対するのか」

ドラゴン「グルル……」

村人A「ドラゴンよ、貴様は知らんのだ」

村人A「お前の仲間がどうなったのか」

村人A「こいつは同族を生贄に使ったんだぞ?」

村人A「お前もいつそうなるか分からなかったんだぞ?」

村人A「俺について来い!」

村人A「魔族と魔物が支配する世界はすぐそこに来ている!」

村人A「お前の力を俺のために役立てるのだ!」

ドラゴン「ガァアッ!!!」

村人A「そうか……なら仕方ない」

村人A「こんなガキに気づかれるほど力も戻ってきた」

村人A「力づくで従えるとしよう」

村人A「……俺は魔族だ!」

村人A「魔族とは"生まれた者"と"産まれた者"の混合種族!」

村人A「作られた天使や魔物とは格が違うということを分からせてやる!!」

村長「恨みが解消されるとき……」

村長「それは別の恨みが生まれるときだ」

村人A「」

村長「光の剣がはじかれたならそれ以上の硬度は持っている」

村長「いや、こいつの鱗が光魔法を吸収したのか」

ドラゴン「グル……」

村長「……」

村長「神の肉を喰らい勇者の力を持ち魔王に育てられたドラゴン……」

村長「ははっ。 希望を持てというのが無理な話だ」

――

――――

――――――

――――――――

子供A「そんちょー」

子供B「そんちょう、あの話してよー」

子供B「小さい勇者のはなしー」

村長「よーしいいぞー」

村長「……そうして、小さな勇者はゴーレムを倒したのです」

子供A「すげー!」

村長「人々は大喜び、誰もが小さな勇者を褒め称えました」

村長「しかし、このことを喜ばない者がいました」

子供B「あれ? みんな大喜びじゃないの?」

村長「……そう、その者は人間ではありません」

村長「魔王の手先だったのです」

村長「それからしばらくしたある日」

村長「村に魔王がやって来ました」

子供A「まおう!」

村長「この村に勇者がいることを知った魔王が」

村長「勇者が小さいうちに倒しに来たのです」

子供A「ずるいやつ!」

村長「魔王は背の高い大男で」

村長「隣には武器を持ったあの手先がいました」

村長「小さな勇者では勝てそうにありません」

村長「村人たちは一緒に逃げようと言いました」

村長「しかし、小さな勇者は逃げませんでした」

村長「小さくても勇者、勇気を持っていたのです」

子供B「かっこいい……」

村長「小さな勇者は勇敢に戦い……」

村長「魔王とその手先をうちたおしました」

村長「しかし……勇者もまた力尽きたのです」

村長「こうして、人間たちに平和がもどりました」

村長「しかし、海の向こうの大陸にはまだまだ魔族がたくさんいます」

村長「いつその中から魔王が生まれ、襲ってくるかわかりません」

村長「……が、人間たちの平和はずっと続いています」

村長「何故だかわかるかな?」

子供A「かみさま!」

子供B「かみさまが守ってくれてるから!」

村長「そう、勇者の頑張りを見て人間たちを認めた神様が」

村長「魔族がやってこないように見張ってくれているのです」

村長「勇者の行動は勇気となって、今も私達を守っているのです」

村長「おしまい」

子供A「おもしろかった!」

子供B「ありがとうそんちょう」

子供A「そんちょー、おれも勇者になるよ!」

子供A「まぞくにまけないくらい、つよい勇者に!」

村長「ああ、きっとなれる」

町長「おや、お話はもう終わってしまいましたか」

子供A「あ、おじさんだ」

子供B「となりまちの偉い人だ」

村長「……私に用かな?」

町長「ええ、少しお話が。 こちらに来てもらえますか?」

村長「分かった」

村長「それじゃあ少し出かけてくるよ」

子供A「そんちょー行ってらっしゃーい」

村長「立派な馬車だね。 快適そうだ」

町長「さて、聞きたいことは山ほどあるのですが……」

町長「まずはあのお話のことを」

村長「小さな勇者の話かな?」

町長「そうです。 私の村でもよく耳にしますよ」

町長「おそらく大陸中に広まっている……」

町長「いや、あなたが広めたのでしょう」

町長「あれは」

町長「どこまでが真実なのです?」

村長「すべて本当さ」

村長「少なくとも私はそう思うことにしているよ」

町長「それはありえませんよ」

町長「すべてが本当ならなぜ神を見に行った人間は帰って……」

村長「……3人」

町長「はい?」

村長「ちょうどいい機会かもしれん。 終わったら全て話してあげよう」

バサァッ

町長「く、黒い翼……!」

盗賊B「あれが町長の馬車ですかい」

盗賊A「一人で遠出など襲ってくれと言っているようなもの」

盗賊A「痛めつけて金品をふんだくるぞ」

盗賊B「へい! ……おや?」

盗賊B「馬車の外……町長の他にもう一人いますぜ?」

町長「こ……これは……」

盗賊A「ぐぅ……」

盗賊B「が……」

村長「どうした? もう終わりか?」

村長「もっと人間の力を見せてくれよ」

村長「人間でも魔族を倒せると証明してくれよ」

盗賊C「う……うわあああああ!!」

ドシュッ パシッ

村長「クロスボウか。 いい武器を持っているね」

盗賊C「素手で矢を……!?」

村長「だが今の私には必要ないな」

パスッ

盗賊C「ぐぁっ!」

ドサッ

村長「投げるだけで同等の効果を得られる」

盗賊A「ば……バケモノめ……」

村長「ひどいことを言ってくれる」

村長「バケモノとは恨みに関係なく殺しを楽しむヤツのこと」

村長「私もそこまで堕ちたつもりはないぞ」

町長「村長……あなたは……」

村長「希望などなかったんだ」

村長「私がそう諦めた時、皮肉にもこの翼は生えてきた」

村長「そのおかげでなんとか逃げ延びることができた」

町長「!! するとやはり!」

村長「ああ。 私は当事者だ」

――

村長「そしてドラゴンは魔王の亡骸……生死を確かめたわけではないが」

村長「とにかくそれを持って魔王城跡地の方に飛んでいったよ」

村長「魔王城は大陸間をつなぐ橋の近くにあった」

村長「誰もドラゴンに近づこうとしないのでこちらにもやって来ない」

村長「つかの間の平和が完成したとさ」

町長「それが……真実……」

村長「勇者と思っていた少年はあっさりと敗れた」

村長「勇者の力は敵が持っていた」

村長「神は無駄死していた」

村長「こんなことを伝えてなんになる?」

町長「……」

村長「だから……これでいい」

町長「分かりました。 この話は伏せておきましょう」

村長「……そうしてくれ」

町長「それともうひとつだけ……お願いがあるのです」

村長「うん?」

町長「馬車の中に私の娘がいます」

町長「本当は真実を伝えるつもりでしたが」

町長「彼女に希望のある話を」

町長「小さな勇者の話をしていただけますか?」

村長「ああ、構わないよ」

町長「おーい! 出てきなさい!」

村長「やあ、君が娘さんだね」

村長「私はそこの村で村長をやっている……」

町長の娘「……お姉ちゃん翼があるの?」

村長「おや、服を少し破いたから見えてしまったか」

村長「私は昔天使だったんだよ」

町長の娘「ふぇぇ……すごぉい」

村長「っ!」ビクッ

町長の娘「?」

町長の娘「お姉ちゃんどうしたの?」
 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:5sudc0dh0編集削除
流石に長すぎ、誰かまとめて、お願い!
2 . 名無しさん  ID:OIkMcL7C0編集削除
つまらん松
3 . 名無しさん  ID:6YxikI7F0編集削除
だからね!テキストなんて下手クソな異様な長文だけなんだからヤメろ!ってば!!!
4 . 名無しさん  ID:MyreEjkL0編集削除
嘘松
5 . 名無しさん  ID:DZtHFy.V0編集削除
つまらない・・・
せめて読みやすくて面白いのにしてくれ・・・。
これ管理人はよんだんか??
6 . 名無し  ID:tnZ1pqqk0編集削除
イミフそして長過ぎ
三行に纏めて出直せ

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