勇次郎「探偵になりてェ」コナン(ハァ?)


小五郎「探偵になるったってアンタ──」


勇次郎「ほんの少しの間だけだが、キサマらの探偵業に協力してやろう」


勇次郎「むろん、報酬は一切不要だ」


小五郎「お、おい、勝手に話を進めるなよ。こっちにも都合ってもんが──」


勇次郎「……キサマ、柔道をやっていたな?」


小五郎「!? なんで、んなこと知ってんだ!?(新聞にでも出てたか……?)」




勇次郎「キサマの骨格、体格、挙動、呼吸、闘気……」


勇次郎「これら全てがキサマが柔道家だと示している」


勇次郎「ちなみに娘は空手をやっているな。こっちは拳ダコと歩法で一目瞭然だ」


蘭(ウソ……!)


蘭(あまり拳ダコ作らないようにしてたのに……やだぁ、もう)


コナン(オイオイ……けっこうやるじゃねえか、このおっさん)


電話が鳴った。


蘭「はい、毛利探偵事務所」


蘭「はい……えぇ、はい……はい、分かりました」


蘭「お父さん、依頼があるからこれから事務所に伺いたいって……」


二日前──


<アリゾナ州立刑務所>


ずらりと並ぶ本棚。


勇次郎「フン……これを全て読破しているのか」


勇次郎「いいご身分だな、アンチェイン」


オリバ「さっきの君との力比べで傷めた指じゃ、本は当分お預けだがね」


勇次郎「イヤミか、キサマッッッ!」


勇次郎「ほう……これは」スッ


オリバ「アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』だな。傑作だ」


勇次郎「…………」ペラペラ


勇次郎「ほう……」


オリバ「君も本を読むのかね?」


勇次郎「フンッ。テメェ、俺をなんだと思っていやがる」


勇次郎「学ぶという行為の最良は、実体験を経ることだという持論はあるが──」


勇次郎「書物から得られる知識をあなどっているワケじゃねェ」


勇次郎「数冊借りるぜ」


オリバ(気に入ったのか……エルキュール・ポアロ)


数時間前──


<日本の某ホテル>


勇次郎はオリバから借りた推理小説を全て読み終えていた。


勇次郎「どれも途中で犯人はワカっちまったが、まぁまぁ楽しめたな……」


勇次郎「探偵か……」


勇次郎(テレビでも事件を探偵が解決したってハナシをよく聞く)


勇次郎(刃牙と闘うまでの、いいヒマつぶしになるかもしれねェ)


勇次郎は常に退屈している。


勇次郎はワガママである。


なおかつ行動は至ってシンプル。


勇次郎(適当な探偵に同行して、ちっと探偵ってヤツを体験してみるか)


勇次郎(さて探偵っつっても、色々いるしな……)


ニュース『“眠りの小五郎”こと毛利名探偵がまたも難事件を解決しました!』


勇次郎「コイツでいいかァ〜」ニィ〜


小五郎(TV)『難事件のご依頼は、米花町の毛利探偵事務所まで! ナ〜ハッハッハ!』


勇次郎「米花町、近ぇな。今から直で行くか」


現在──


<毛利探偵事務所>


小五郎「もうすぐ依頼人が来る」


小五郎「依頼内容は浮気調査だっつうから、お前らは上に行ってろ」


蘭「うん、頑張ってね」


コナン「はーい(ガキと高校生が浮気の話を聞くわけにゃいかねーもんな……)」


勇次郎「クックック……俺はここにいさせてもらうぜ、小五郎よ」


小五郎(くっ、なんでコイツに小五郎呼ばわりされにゃならねーんだ)


依頼人がやってきた。


太郎「はじめまして、毛利探偵。──と、あの、そちらは?」


< 依頼太郎(43) 会社員 >


小五郎「え? いや、あ〜ゴホン、彼は助手の──」


勇次郎「範馬勇次郎だ」


太郎「あ、ど、どうもよろしく……お願いします……」ビクビク


小五郎(オイオイ、めちゃくちゃビビってるじゃねーか)


勇次郎「ニィ〜」


太郎「実は最近、妻の行動が色々とおかしいのです」


太郎「急にお洒落になったり、昼に家に電話をかけてもいなかったり……」


小五郎「ふ〜む、それは怪しいですなぁ……!」


勇次郎「フンッ……で、クロだった場合、妻を殺すというワケか」


太郎「え!?」


小五郎「お、おい、いきなり何を──」


勇次郎「他の奴に取られるくらいならばいっそ──ってとこか。みみっちいことだぜ」


勇次郎「クスクスクスクス……」


勇次郎「さっき妻の挙動について話す時のキサマは──」


勇次郎「妻の潔白を祈るというよりはむしろ、殺意に満ち満ちていた!」


太郎「────!」


勇次郎「こうまで露骨だとよォ、気の毒過ぎてとても突っ込めねェよ」


勇次郎「……が、俺は探偵なんでな。いわせてもらうぜ」


勇次郎「犯人はキサマだッッッ!」ビシッ!


小五郎(オイオイオイ、なにやってんだコイツ!?)


勇次郎「敗北……認めるかい?」


小五郎(敗北もなにも、この人なんもしてねえぞ……)


太郎「は、はい……。申し訳ございませんっ!」


小五郎「えぇっ!?」


太郎「もし毛利探偵の調査で妻が浮気していると分かったら……殺すつもりでした」


太郎「許せなかったんです……」


太郎「私はこんなにも妻を愛しているのに、浮気なんて……!」


太郎「さ、さすがは毛利探偵の助手……お見事です」


勇次郎「ケッ、妻の浮気、テメェにだって責任はあるんだぜ」


勇次郎「メスは強いオスに惹かれる。これは本能だ」


勇次郎「軟弱なオスになびくメスはいねェ」


勇次郎「妻の不義ひとつ直接問いただせないような輩に──誰がついていく?」


勇次郎「全てはキサマ自身が招いた災い。身から出たサビ、ってやつだ」


太郎「は、はい……。私、目が覚めました! この件は私自身が正々堂々カタをつけます!」


太郎「ありがとうございました……!」


小五郎(英理が別居しやがったのも、俺が弱かったからなのかな……)


小五郎(って、感心してる場合じゃねェ! 仕事がパーじゃねぇか!)


蘭「依頼に来た人、ずいぶん早く帰っちゃったけど……」


コナン「何かあったの?」


小五郎「ん、ああ……やっぱり自分で解決するっていってな」


蘭「ふ〜ん。まぁ、そういう時もあるって!」


コナン(おっちゃんの表情からして、多分あのおっさんがなんかやらかしたんだな……)


勇次郎「クスクス……(なるほど、案外悪かねェな。事件を解決したこの感覚……)」


小五郎(クソッ、コイツのせいで依頼がなくなっちまった……)


小五郎の携帯電話が鳴る。


小五郎「あぁ!? だれだ、こんな時に──」ピッ


小五郎「もしもしィ!?」


小五郎「! ……これは目暮警部殿! えぇっ、難事件!? ……はい、はい!」


小五郎「すぐにうかがいます!」


コナン「どうしたの? おじさん」


小五郎「目暮警部から電話だ。なんでも殺人事件らしい」


コナン(殺人事件!?)


勇次郎「面白ェじゃねェか……。すぐ現場に向かうぞ、小五郎ッッッ!」


小五郎&コナン(なんでコイツに仕切られなきゃならねーんだ!)


<タクシーの中>


小五郎「ったく、なんなんだアイツは!?」


小五郎「タクシー1台、一人で占領しやがるしよ。何様のつもりだってんだ!」


蘭「まぁまぁ、お父さん。お金はいらないっていってるし……」


コナン「それにあのおじさん体が大きいから、仕方ないよ」


小五郎「蘭! お前がさっさと空手で追っ払わないからこうなったんだろうが!」


蘭「無理よ……。お父さんだって分かってるでしょ?」


小五郎「ん、まぁな……ありゃあ勝てねェ……」


小五郎「いったい何者なんだ、アイツは……」


コナン(こんな二人を見るのは初めてだな……。ま、無理もねぇか、あの威圧感は異常だ)


コナン「ところでおじさん、ぼくたちをすすんで連れていくなんて珍しいね」


蘭「そうねえ。いつもはコナン君がせがんで、しぶしぶ連れて行くって感じなのに」


小五郎「お前らも、俺の名探偵ぶりを見て勉強しろってことだ!」


コナン(ハハ……あのおっさんと二人きりがイヤだったからだろ……)


<もう一台のタクシーの中>


勇次郎「クスクス……」


勇次郎(なるほど、この依頼を受けて現場に向かう際の高揚感──)


勇次郎(これもこれで味わい深い)


勇次郎(先ほどの解決の悦楽と合わせ、世に探偵なる人種が数多くいるのも理解できる)


勇次郎(むろん、闘争には到底及ぶべくもないがな)


勇次郎(さて、少しは楽しめりゃあいいが……)


勇次郎「エフッ! エフッ! エフッ!」


運転手(さっきからすごい顔で笑ってるよ、この人……)チラッ


運転手(怖い……お金いらないから早く降ろしたい……)


<事件現場>


事件現場はある会社社長の自宅だった。


目暮「すまんな、毛利君。君も色々な事件を抱えて忙しいだろうに」


小五郎「なぁ〜に、警部殿のためとあらば、この毛利小五郎!」


小五郎「たとえ火の中、水の中、いつでも駆けつけますよ! ナァ〜ッハッハッハ!」


コナン(仕事がなくなって、ちょうどヒマになってたくせによくいうよ……)


目暮「おぉ、蘭君とコナン君も来とったか。──とあそこに立っているのは?」


小五郎「あぁ、アレは……まぁ私の押しかけ弟子みたいなもんです」


小五郎「邪魔はさせませんから、大目に見てやってくれませんかねぇ、警部殿」


目暮「あ、あぁ……それはかまわんが……(部外者だらけなのはいつものことだしな)」


目暮(ところで……)


目暮(ワシも目にしたことはないが……あの男、範馬勇次郎なんじゃないか?)


目暮(昔、園田警視正に聞いた特徴とソックリだ)


目暮(──が、まさかな……)


目暮(もしホンモノの範馬勇次郎だとしたら、毛利君に弟子入りなんてするはずがない)


現場検証が始まった。


目暮「被害者は被害次郎氏、死因は青酸カリによる中毒死……」


目暮「死亡推定時刻は昨夜20時から24時の間……」


<被害次郎(53) 会社社長>


小五郎「簡単ですよ警部殿!」


小五郎「死因が青酸カリならば、この近くに付着しているハズです!」


小五郎「そしてきっと、付着している場所には犯人の指紋が──」


目暮「それがないんだよ」


小五郎「へ?」


目暮「鑑識の調べでは、青酸カリは被害者の体にしか付着していなかったんだ」


小五郎「ちなみに被害者の体のどこに、青酸カリは付着していたんですか?」


目暮「両手の手の甲だそうだ」


小五郎「奇妙なところについてるもんですな」


小五郎「指についているのがいつものパターンなんですがね」


目暮(いつものパターンといえるほど殺人事件に遭遇してる君の方が)


目暮(よっぽど奇妙だとワシは思うがね……)


目暮「これから、昨日この家を訪れたという三人の人物が来ることになっている」


目暮「三人とも被害者の会社の社員だそうだ」


目暮「本格的な捜査はそれからとしよう」


勇次郎「フンッ、青酸カリなどで絶命するとは……」


勇次郎「毒を喰らうこともできなかった軟弱者めが……ッッ!」


小五郎「オイ、静かにしてろよ勇次郎」


勇次郎「ほう……この俺に指図するというのか、小五郎」


小五郎「い、いや……」ビクッ


勇次郎「まぁいい、今日の俺はキサマの助手だ。従っておいてやろう」ニィ〜


小五郎(ほっ……)


コナン(──勇次郎!?)


コナン(このおっさん……まさか範馬勇次郎なのか!?)


コナン(たしかハワイで親父に聞いたことがある……)


数年前──


<ハワイ>


新一「範馬勇次郎?」


優作「腕力家、オーガ、地上最強の生物……彼を称える異名は数知れない」


優作「元々は傭兵だったが、現在は戦う相手を求め世界中を放浪している」


優作「あの朱沢グループ総帥殺人事件に関与している疑いもある」


新一「なんでそんなヤツが野放しになってんだよ!」


優作「簡単なハナシだ」


優作「だれも彼を捕まえることができないからだ」


優作「彼の暴力は一国の軍事力をも凌駕し──」


優作「あのアメリカ合衆国も彼個人と友好条約を結んでいるほどだ」


新一「マジかよ……!」


優作「いいか新一……」


優作「もし範馬勇次郎に出会っても、絶対に手を出すな」


優作「いいな?」


コナン(……たしかにあの威圧感、警察はおろか自衛隊でも捕まえられる気がしねぇな)


コナン(しかし、なんでまた、おっちゃんに会いに来たんだ……?)


コナン(──まさか!?)


優作『元々は傭兵だったが、現在は戦う相手を求め世界中を放浪している』


コナン(おっちゃんや蘭と闘いに来たってのか!?)


コナン(だとしたら二人がやべぇ!)


コナン(いや待てよ……?)


コナン(軍隊にも勝てるようなヤツが、今さら二人を相手するとも考えにくい)


コナン(本当に探偵になりたいだけなのか……?)


コナン(あ〜……いったいなに考えてんだ、あのおっさんは……わかんねぇ〜!)ワシャワシャ


蘭「どうしたの、コナン君?」


コナン「な、なんでもないよ蘭姉ちゃん」


コナン(そうだ……とりあえず今は範馬勇次郎より事件を解決しなきゃな!)


まもなく、昨日被害者の家を訪れたという三名が現れた。


三郎「えぇっ!? 社長が殺されたんスか!?」


<容疑三郎(29) 会社員>


四郎「そんな……まさか……」


<嫌疑四郎(35) 会社員>


五郎「社長が殺されるなんて……」


<被疑五郎(43) 会社員>


小五郎「昨日、あなたがたはこの家を訪問したとのことですが」


小五郎「詳しくお話しいただけますか?」


勇次郎「命が惜しくば話せッッッ!」


ほとんど恐喝だった。


三郎「俺、昨日は映画のDVDを渡しに来ただけッスよ」


三郎「あの人、映画が好きッスから」


三郎「映画の名前? ムエタイ映画の『ハットトリック』です」


四郎「ボクも同じです……」


四郎「社長の映画好きは有名で、すぐ影響されるんですよ」


四郎「あ、ボクの持ってきたDVDは『ジュードーマスター』です」


五郎「私も二人と同じです。社長にDVDを持っていきました」


五郎「私が持っていった映画ですか?」


五郎「『血塗られた拳』です」


コナン(共通点は全員映画のDVDを持ってきたってことか……)


コナン(DVDに青酸カリがついてたってんならハナシは簡単だが)


コナン(さっき被害者の体以外からは青酸カリは検出されなかったっていってたしな)


小五郎「分かりました、警部殿!」


目暮「ほう、さすがだな毛利君!」


目暮(眠っていないから、きっとトンチンカンなことをいうにちがいない……)


小五郎「犯人は映画のDVDに青酸カリをつけて、被害者に手渡したんですよ!」


目暮「被害者の体以外から、青酸カリは検出されなかったといったろうが!」


小五郎「え、そうでしたっけ?」


小五郎「じゃあ、これは自殺ですよ!」


小五郎「映画の影響を受けやすい被害者は、おそらく──」


小五郎「映画の登場人物のように死にたいと思って青酸カリで自殺を……」


目暮「……バカかね、君は」


コナン(ハハ……相変わらずだな、おっちゃんは)


コナン(とりあえず、この部屋をくまなく調べてみるか……)


勇次郎「…………」


勇次郎(毛利小五郎……)


勇次郎(柔道家としての技量はまずまずといったところだろうが)


勇次郎(推理の方はお粗末もいいところだ)


勇次郎(とても警察が一目置くほどの探偵にゃ見えねェが……)


勇次郎(──む!?)


コナン「ねえねえ、鑑識のおじさん」


鑑識「なんだい?」


コナン「ぼく退屈だから、お客さんが持ってきたDVDを見たいんだけど」


蘭「ちょっとコナン君! 映画なんて見てる場合じゃないでしょ!?」


コナン「え〜……でもぼく退屈なんだも〜ん」


コナン「それに毒はついてなかったんでしょ? なら安全じゃない!」


鑑識「ま、まあ少しだけなら……」


コナン「ありがとう、おじさん!」


勇次郎「…………」


流石に勇次郎の動物的直感は鋭い


DVDをざっと観賞するコナン。


『ハットトリック』蹴り三発でどんな相手も仕留めるムエタイの達人の映画。


『ジュードーマスター』どんな強敵もキレイに投げ飛ばす柔道家の映画。


『血塗られた拳』相手を血みどろになるまで殴るボクサーの映画。


コナン(う〜ん……)


コナン(とりあえず被害者が格闘をする映画が好きってのは分かったが)


コナン(どれもこれといって変わったところのない、普通の映画だな)


コナン(細工がしてある様子もない)


コナン(事件には関係ねえのか……?)


勇次郎「どうだ、事件は解決できそうか? 小僧」


コナン「バーロ……そんな簡単にいくかっての……」クルッ


コナン「!?」ハッ


勇次郎「ほう、この俺に向かってバカヤロウ呼ばわりとは……ッッッ!」ビキビキッ


コナン「ゲッ!」


コナン(範馬勇次郎!?)(怒ってる!)(すげぇツラ)(鬼!?)(死)


勇次郎「フン……こんな時に映画とは、ガキは気楽でいいことだぜ」


勇次郎「エフッ! エフッ! エフッ!」


コナン「ハハ……ごめんなさい」


コナン(ビビった……マジで殺されるかと思ったぜ)


勇次郎(このガキ……)


勇次郎(映画を見つめていた時の鋭い眼光、一流格闘士のそれに近いものがあった)


勇次郎(容疑者どもを脅して犯人をあぶり出すのはたやすいが──)


勇次郎(この小僧に少々興味がわいた)


勇次郎(もうしばらく観察してみるとするか……)


勇次郎(容疑者どもを脅して犯人をあぶり出すのはたやすいが──)


シコルスキー「た・・・・・探偵じゃねェ・・・・・・・」


次に、コナンは部屋を観察する。


コナン(う〜ん……)


コナン(なんか違和感あるんだよな、この部屋……)


蘭「変ねぇ、なんで壁にスイッチあるのに電灯にヒモがついてるんだろ」


小五郎「どうせ寝ながらでも電気を消せるように、ヒモつけてたんだろ?」


小五郎「よくいるだろ、そういう横着なヤツが」


蘭「でもそれにしてはヒモの長さが短くない?」


コナン「────!」ハッ


コナン(──ん、あのヒモの先端、なんか違和感が……)


コナン「!?」


コナン(もしかして!)


コナンの脳裏に小五郎の言葉が浮かび上がる。


小五郎『じゃあ、これは自殺ですよ!』


小五郎『映画の影響を受けやすい被害者は、おそらく──』


小五郎『映画の登場人物のように死にたいと思って自殺を……』


コナン(そうか、そういうことだったのか!)


コナン(よし、さっそく確認してみるか!)


勇次郎(ほう、どうやらなにかをつかんだようだな……)


コナンは再びDVD観賞を始めた。


『ハットトリック』


コナン(必ず三発の蹴りで敵を倒すムエタイの選手……)


『ジュードーマスター』


コナン(相手を投げたら人差し指を天にかかげる柔道家……)


『血塗られた拳』


コナン(血みどろになった拳を舐めるボクサー……)


コナン(そうか、分かったぞ!)


コナン(ようし、それじゃさっそくおっちゃんを眠らせて、と……)パカッ


勇次郎「クスクスクス……」


コナン「!?」


コナン(いつの間に後ろに!? コイツ、瞬間移動でもしてるのか!?)


勇次郎「俺の目はごまかせねェ……」


勇次郎「なるほど、時計の針の先端には薬品が塗ってあるな」


勇次郎「おそらくはそれで小五郎を眠らせ、キサマが推理をするというワケか」


勇次郎「よく仕込まれたトリックだなァ、オイ」


コナン(ゲ、バレてる!?)


コナン「やだなぁ〜おじさん、そんなワケ──」


勇次郎「…………」ギンッ


コナン(すげぇ殺気だ……!)


コナン(下らん演技でやり過ごそうとするならガキといえども叩き殺す──)


コナン(っていわんばかりだ)


コナン(まぁ、おっちゃんたちも蘭も近くにいねえし……しかたねえ)


コナン「……全部アンタのいうとおりだよ」


コナン「こっちにも色々事情があってよ……」


勇次郎「フンッ、やはりな……」


勇次郎「安心しろ、キサマの正体に興味はねぇし、他人の秘密をバラす趣味もねぇ」


勇次郎「ただし、俺の指図を聞けばのハナシだがな……」


コナン(なんだと!?)


勇次郎「“眠りの小五郎”……体験してみてェ」


コナン(ハァ?)


勇次郎「今すぐ俺を眠らせろッッッ!」


コナン「で、でもおじさんに麻酔って効くの……?」


コナン(このおっさんが眠ってる姿を想像できねぇよ)


勇次郎「麻酔銃に不覚を取った過去がある……効くはずだ」


コナン「(ホントかよ……)じゃあこの腕時計型麻酔銃で……」


勇次郎「ニィ〜」


パシュッ


針が勇次郎の首に刺さった。


しかし──


勇次郎「眠くならねェじゃねえか」


勇次郎「まさかこの俺にブラフをかけたのか、小僧ッッッ!」


コナン「バーロ……アンタの首の筋肉がぶ厚すぎるんだよ……」


勇次郎「キサマ……ッッッ!」ビキビキッ


コナン(やべっ、またいっちまった!)


コナン「しょうがないから、寝たフリをしてくれない?」


コナン「ふにゃ……とか、ほにゃ……っていいながら、寝そべってよ」


コナン「あとはぼくがやるから」


勇次郎「フンッ、いいだろう」


進まない捜査に、容疑者たちもイラだつ。


三郎「あのぉ〜、もう帰っていいッスか?」


四郎「ボクも帰りたいんですけど……」


五郎「私も……」


目暮「いや、もう少しお話しを──」


目暮「毛利君、そろそろ眠くなってこんかね?」


小五郎「それがどうも、まだ……」


目暮(マズイな……これ以上は引き止められんぞ……)


勇次郎「待ていッッッ!」


勇次郎「キサマらに俺からハナシがある……この“眠りの勇次郎”がな」


小五郎「眠りの……勇次郎だとォ!?」


勇次郎(ふにゃとかほにゃとかいいながら、ブッ倒れるんだったな)


勇次郎「ふにゃッッッ! ほにゃッッッ! はにゃッッッ!」グラァ…


ドッシャアァッ!!!


家全体が揺れる勢いで、勇次郎が床に崩れ落ちた。


勇次郎(フン、こんなところか)


コナン「〜〜〜〜〜ッッッ!」


コナン(どういう倒れ方だよ……!)


眠りの勇次郎の誕生である──


コナン(眠りの勇次郎っていうか、ダウンの勇次郎だな、ハハ……)


コナン(さっそく変声機を範馬勇次郎の声にして、と……)カリカリ


勇次郎『まだあなたたちを帰すワケにはいきませんなァ……』


勇次郎『なぜなら私には犯人が分かってしまいましたから』


蘭「えぇっ!?」


小五郎「なんだと!?」


目暮「本当かね!?」


勇次郎「キサマッッッ! 俺はこんな喋り方はしねぇぞ!」


勇次郎「手抜きは認めねェ……やるならば、もっと正確に模倣しろッッッ!」


蘭「ど、どうしたんですか!?」


コナン(あ〜もうめんどくせぇおっさんだな……)


勇次郎『なんでもねェ……ハナシを続けるぜ』


勇次郎『あいにく俺のハナシが終わるまで、だれもここから出すワケにゃいかねェ』


勇次郎『俺には犯人が分かっちまったからな……』


小五郎「オイオイ、いくら俺の助手だからって」


小五郎「“眠りの小五郎”のマネまでするってえのはいただけねえな」ズイッ


蘭「ちょっとお父さん!?」


小五郎「推理をやるんならちゃんと立って──」


小五郎が勇次郎に触れようとする。


勇次郎「邪ッッッ!」


ガイアみたいに声だけで攻撃したんじゃね


小五郎「!?」ビクッ


勇次郎「今度俺に触れようとしたら……だれであろうと殴り殺すッッッ!」


勇次郎「たとえ小五郎、キサマであろうともだッッッ!」


小五郎「わ、分かった……」ビクビク


蘭「とりあえず静かに見てようよ、お父さん」


コナン(わりぃな、おっちゃん……)


コナン(今日のところは眠らずに推理ショーを見ててくれ……)


コナン(このおっさんのジャマしたら永遠に眠ることになりかねないからな……)


勇次郎「よし、続けろッッッ!」


勇次郎『えぇと……この殺人事件のカギは容疑者どもが持ってきた映画にあった』


目暮「映画がかね?」


勇次郎『ああ、それぞれの内容を確認してみろ』


目暮「えぇとまず……」


目暮「『ハットトリック』はムエタイの達人の映画で……」


目暮「必ず敵を三発の蹴りで倒すというムエタイ選手が主役だ」


小五郎「『ジュードーマスター』は柔道家の映画だな」


小五郎「主人公は敵をブン投げた後、人差し指を天にかざすクセがある」


蘭「『血塗られた拳』はボクシングの映画ね」


蘭「主役のボクサーはグローブについた血を舐めるクセがあるわ」


勇次郎『うむ……』


勇次郎『そしてもう一つの手がかりが、電灯のヒモだ』


勇次郎『壁にスイッチがあるのに、ヒモがついているのは不自然極まりねェ……』


勇次郎『しかもヒモの先端には切られた跡が残っているッッッ!』


目暮「ほ、本当だ……!」


勇次郎『なぜヒモの先端が切られているのか、答えは明白だ』


勇次郎『ヒモの先端には青酸カリが塗られていたからだッッッ!』


小五郎「なんだと!?」


勇次郎『そして被害者の死に方と毒が付着していた箇所を考えれば──』


勇次郎『答えは見えてくる』


勇次郎『被害者は電灯のヒモでボクシングの真似事をした後』


勇次郎『自分の拳を舐めて絶命したのだッッッ!』


勇次郎『被害者は映画に影響されやすい男だったらしいからな……』


勇次郎『つまり犯人はキサマということになる』


勇次郎『ボクシング映画『血塗られた拳』を貸した──被疑五郎ッッッ!』


五郎「な……私が……犯人!?」


勇次郎『キサマの行動はこうだ』


勇次郎『この家を訪れ、映画『血塗られた拳』を被害者に貸す』


勇次郎『その際、先端に青酸カリを塗ったヒモを電灯にくっつける』


勇次郎『被害者はボクシング映画を楽しみ、電灯のヒモでボクシングをやり、絶命』


勇次郎『その後キサマは再び家を訪れ、ヒモの先端を切ったのだッッッ!』


勇次郎『証拠隠滅のためにな……ッッッ!』


五郎「バ、バカバカしい……証拠はあるんですか……?」


勇次郎『ある……』


五郎「え!?」


勇次郎『というより、キサマはまだ持っているんだろう?』


勇次郎『青酸カリのついたヒモの切れはしをな……ッッッ!』


勇次郎『人間は自身の弱みになるものは、案外捨てられぬという習性があるからな』


五郎「う、うぐぅっ……!」ガクッ


三郎「ってことは、やっぱりアンタが──」


四郎「社長を殺したんですか!?」


五郎「そうだよォ!」


五郎「こないだ社長に給料の前借りにいったら」


五郎「社長は私にハンガーを投げつけてきたんだ!」


五郎「だから殺してやったんだよ!」


目暮「…………!」ブチッ


目暮「そんな下らん理由でヒト一人の命を──」


勇次郎『アホウがッッッ!』


勇次郎『キサマの甲斐性のなさを他人への逆恨みへと身勝手にも転換し』


勇次郎『挙げ句の果てに毒物での解決──なんという軟弱!!!』


勇次郎『牢獄に消え失せいッッッ!』


五郎「うううっ……」ガクッ


目暮「…………」


こうして事件は解決した。


小五郎「ふん、まさかアンタが推理ショーを披露するとはな」


小五郎「とりあえず礼はいっとくぜ」


勇次郎「クスッ、クスッ、クスッ」


勇次郎「礼など不要だ。俺は床で寝そべっていただけだからな」


小五郎「?」


コナン(このおっさん、また余計なことを……)


勇次郎「しかしまァ、探偵なる職業……それなりに堪能することができた」


勇次郎「これで俺は帰らせてもらうぜ」


小五郎&蘭(よ、よかった……)


勇次郎「小僧……」ニィ〜


コナン「な、なあに、おじさん?」


勇次郎「演技はなかなかだったが……声量がまだまだ未熟だ」


コナン「バーロ……アンタみたいなデカイ声、変声機をボリューム最大にしても出せっかよ」


勇次郎「キサマッッッ! これで三度目だぞッッッ!」


コナン「──ご、ごめんなさい!(やべっ!)」


小五郎「さぁ〜て、あの厄介者は帰ってくれたし」


小五郎「蘭、俺たちも帰ってメシにすんぞ」


蘭「はぁ〜い」


蘭「でもあの人、本当に何者だったんだろ……」


蘭「あの体つきからして、なにか武道をやってるってのはまちがいないよね」


コナン(範馬勇次郎……)


コナン(いずれまた、対峙する時があるかもしれねえな……)


そして数日後──


ついに勇次郎は、念願だった刃牙との対決を果たしていた。


刃牙「ちぇ、さすがオヤジ……この技は通用しないか」


勇次郎「刃牙よ……」


勇次郎「あの程度の小細工が、範馬勇次郎に通用すると思ったか!」


勇次郎「この──」


刃牙(このアホウが、か……?)


勇次郎「バーロッッッッッ!!!」


刃牙「!?」


<おわり>

 


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