野比のび太は橋の下で、青い猫型ロボットと過ごした日々の記憶を反芻していた。
――もう10年も前。
のび太はこの10年で何もかも失ってしまった。父も、母も、友人も。そして、
ドラえもんも。

10年前、のび太が中学3年生の秋。
その日、ドラえもんは何処か変だった。のび太にはその時のドラえもんの状態を的確に表現する
語彙が見つからなかったが、とにかくその日のドラえもんはおかしかった。

「どうしたのドラえもん?」

黒い機械の画面を真剣な面持ちで見つめていたドラえもんが顔を上げた。

「え――いや、何でもないんだ。ちょっと用事が出来たから、これから22世紀に行かなくちゃならない」

そう言ってドラえもんは不自然な笑顔を見せた。

「ふぅん。それで何時帰ってくるの?」

「すぐ帰ってくるから心配要らないよ」

「へぇ」

興味が湧かないので適当に相槌を打っておいた。
暇だし、寝よう。のび太は目を閉じた。すぐに意識が遠のく。

「それじゃ、行ってきます」

そう言ってドラえもんは抽斗を開けタイムマシンに乗り、未来へ行った。

あの時、自分はドラえもんを何としてでも引き止めるべきだったと、のび太は今更ながら後悔している。
それがドラえもんとの最後の会話になってしまったのだから。

母の声で目が覚めたとき、既に日は暮れていた。ドラえもんが帰ってきた様子は無い。

「ドラちゃんは?」

「用事で未来に行ってる」

「そうなの」

「すぐ帰るって言ってた」

夕食を食べ、風呂に入り、再び自分の部屋で寝る。
目が覚めると朝が来ていた。
ドラえもんはまだ帰って来ていない。
まぁいいや、どうせドラえもんのことだ、心配要らないだろうと思い、学校へ行った。

授業が終わった。
今日もクラスの奴等は目障りだった。どうして僕を見て嗤うんだ?
のび太は終業のチャイムと同時に校門を飛び出し、通学路を走った。
――面白い悪戯を考えたんだ。これでクラスの奴等を驚かせてやる。
家に着いた。靴を乱暴に脱ぎ捨て、大きな音を立てて階段を駆け上がり、部屋のドアを思い切り開けた。

「ドラえもん!この間の道具もう1回貸して――よ――」

無人の部屋。

小さなゴミ箱がコトリと倒れて、中に詰まっていたティッシュが零れた。

次の日も、その次の日も、ドラえもんは帰って来なかった。
流石にのび太も心配になってきた。今日学校が終わったら22世紀へ行ってみよう。

授業が終わり、のび太は大急ぎで家に帰った。机の抽斗を開ける。

「あれ――」

時空間への出入り口が無い。
抽斗の中は殺風景だった。薄い木の底板があるだけの、何の変哲も無い抽斗だった。

「なんで――」

これじゃ迎えに行くことも出来ない。

そして、のび太は悟った。
ドラえもんは自分に愛想をつかせ、家出したのだと。

「ママ、ドラえもんが帰ってこなくなっちゃった」

あの時の、洗い物をする手を止めた母の寂しそうな表情を、のび太は一生忘れないだろうと思う。

「はは、残念だねパパ。未来のゴルフ道具とか、もう貸してもらえないね」

父は無言で食事を終え、その日はそれから書斎の外に出てくることは無かった。

「まぁ、いいよね別に。ドラえもんが未来で元気にやってるんなら」

部屋に戻り、のび太は独り泣いた。

ドラえもんが居なくなって1ヶ月ほどが過ぎ去ったある日、母が倒れた。

意識不明のまま救急車で大病院へ搬送され、入院することになった。
翌日、のび太は父と共に病院へ呼ばれた。のび太はその時、学校を早退できたことが嬉しくて、鼻歌を歌っていた。
タイムマシンがあればあの頃の自分に会いに行って、何発も殴ってやりたいとのび太は願う。

――癌。

「――末期です。はっきり申し上げて、治療する術はもうありません。このままここで入院するか――」

「そんな馬鹿な!昨日まで、昨日まであんなに元気だったのに!何かの間違いです!もう一度検査を――」

父が狂ったように泣き喚くのを見て、のび太はようやく事の重大さを理解した。
こんなときドラえもんがいれば。のび太はドラえもんを出て行かせた自分の不甲斐なさを悔いた。

ママは病気なんだ。

「――あとどれくらいですか。どれくらい保つんですか先生!」

父が顔をぐしゃぐしゃにして医者の足に縋り付いている。
きっとその時ものび太は無表情で、椅子に座ったまま黙っていた筈だ。
思い出す度に空虚な気持ちになる。

「あと3ヶ月。長くて3ヶ月です」

3ヵ月後――と言えば、2月か。
のび太はその時点でするつもりも無い受験勉強の心配をした。

診察室で父が嗚咽を漏らしている。医師とのび太は人形のように静止したままだ。

その日からのび太は猛勉強した。
出来るだけレベルの高い学校に行こう。合格したらきっとママも喜んでくれる。

合格したとしても、それが判る頃にはもう、母がこの世にいないであろうことは承知していた。
それでも。
それでも――。

「僕頑張るからね」

3月。

母は白黒の写真になって家に帰ってきていた。

のび太は中学を卒業し、最後の高校入試を終え、遂に合格発表の日がやって来た。
のび太はこの1月程で7つもの高校を受験した。内6つは全て不合格。
やはり数ヶ月前までは九九すら覚束なかった少年が幾ら努力しようとも、結果は覆らないのだ。

結局のび太は所謂底辺の男子校に入学した。
やはり其処でものび太は苛めを受けることになり、やがて不登校になった。
こんな時に助けてくれたドラえもんはもう居ない。

父は母の死後、会社を退職し、1日中家でぼんやりするだけの生活を送っていた。
のび太が学校へ行かなくても、電源の入っていないテレビ画面を見つめたまま沈黙していた。

不登校になってから2ヶ月。
梅雨の鬱陶しい天気の所為で頭が痛くなったのび太は、1ヶ月振りに1人で外出した。目的は特に無い。
ただ気晴らしがしたかった。
こんな時にドラえもんがいれば、面白い道具で沢山遊べるのにな。

曇天の下をとぼとぼと歩く。
――そういえば今日は日曜日だな。

「僕は毎日日曜日だけどね」

誰かの家の塀に貼ってあった選挙用ポスターの禿親父にそう言ってみた。
勿論返事はない。

暫く歩くと懐かしい建物の前に出た。

「しずかちゃん」

小学生時代、のび太が恋心を抱き続けた源静香。
彼女はどこか遠くの中学へ行ったんだっけ。あの出木杉と同じ中学へ。
きっと高校だってあいつと一緒にレベルの高い所へ行ったんだろうな。
今じゃ成長してあの頃よりもっと可愛くなってるんだろうな。

あの窓の所がお風呂で――ドラえもんとよくしずかちゃんの入浴シーンを見たよな。

気がつくとのび太は風呂場の窓の前に屈んでいた。シャワーの音と鼻歌が聴こえる。
ゆっくりと窓に手をかけ、横にずらしていく――。

「――開いた!」

風呂場の窓は開いた。のび太は頭を上げ、中を覗きこんだ。
今となっては何故あんなことをしてしまったのかわからない。

静香の美しい裸身が湯気を纏っている。その光景を目にしたのび太の鼻から血が垂れた。

「し、しずかちゃん。ひさしぶりだね――ぼくだよ、のび――」

凍りついた彼女の表情。
鼓膜が裂けるかと思うほど大音量の悲鳴。

「何をしてるんだお前!其処を離れないか!」

その場を通りかかった中年の男にのび太は取り押さえられた。

「違うよ、僕は何もしてないよぉ」

「ふざけるな!今そこで覗いていたじゃないか!」

「違うよ、違うんだよっ!」

のび太が暴れた所為で中年の男は壁に頭をぶつけて昏倒した。

「うッ」

「あっ」

のび太は我に返り、倒れた男を抱き起こす。

「御免なさい、すいません、大丈夫で――」

男の顔を見た瞬間、のび太は絶句した。

「何と言う奴だ、今すぐ警察に――なんだ?」

男はのび太の手が震えていることに気付いて顔を上げた。そして、驚愕の叫びを上げた。

「お前――の、野比!」

のび太を捕まえた中年の男は、小学生時代の担任だった。

「せ、ん、せい――」

先生は泣きそうな顔でのび太を見返した。口許が何か言いたげにひくひく痙攣している。

「お前、お前と言う奴は――」

先生はのび太の両肩を掴んだ。

嫌だ。
また叱られる。

「うわあああああっ!」

のび太が両腕を無茶苦茶に振り回した所為で、先生は弾き飛ばされて再び壁にぶち当たった。

「嫌だ、いやだ――」

逃げなければ。立ち上がったそのとき、青い服を着た男に手首を掴まれた。
痛い。

「警察――?」

警官の後ろには、服を着て顔面蒼白になった静香が居た。

のび太は傷害やら覗きやらで刑務所に入ることになった。
それまでに事情聴取を受けたりしたが、のび太には行われているコトの意味が理解できなかった。

父はのび太が服役している間に事故死した。
母が死んだのと同時に廃人になっていた父が死んでも、のび太は何ら特別な感情を抱くことが出来なかった。

何もかもがどうでもよくなった。

みんな、帰ってこないドラえもんが悪いんだ。
きっとそうなんだ。

3年が過ぎ、のび太は出所した。
気がつくともう19歳になっていた。別にどうでも良いが。

かつて住んでいた家に行ってみた。そういえばもう父は居ないのか。

家には知らない人間が住んでいた。楽しげな話し声が聞こえた。
――語尾に「ナリ」なんか付けるって、変な人だな。
等と実にどうでもいいことを考えながら、のび太は河原へ行く道を進んだ。
途中で石に躓き転んだ所為で眼鏡にひびが入った。
それ以来のび太の見る世界には亀裂が走っている。

河原の端の下には、何人ものホームレスがいた。
――僕も仲間に入れてもらおうかな。
そう思ってホームレスの群れに近付いた。

のび太が接近してきたことに気付いたホームレスの1人が顔を上げた。

誰だろう、どこかで見た顔だ。
しかしのび太にホームレスの知り合いなど――。

「やぁ、のび太じゃないか、久しぶりだなぁ。家は売りに出されてるし、一体何してたんだい?」

それは骨川スネ夫だった。

スネ夫一家は何故か全財産を失い、ホームレスになり下がっていた。
のび太は敢えて理由を訊かなかった。話してもらったところで、どうせ自分には理解できない。

スネ夫は小中学生時代からは想像もできないほど、のび太に優しく接してくれた。

「みんな変わっちゃったよなぁ。僕の家族やのび太はホームレスだし、ジャイアンはどういうわけか
デビュー曲のCDがミリオンヒットで億万長者に。今度全国ライブツアーやるらしいぜ、自伝本も出すって聞いたよ。
ジャイアニズムとかいう。妹のジャイ子ちゃんも漫画家として成功してるしね。ほら、腐女子っていうの?
そういう人からの人気が凄いらしいよ、彼女の作品。しずかちゃんは街でスカウトされて大学に通う傍らモデル活動、
しかも出木杉の奴と婚約までしちゃってさぁ」

しずかちゃん、やっぱりあいつと結婚するのかよ。
なんだよ、ドラえもんの嘘つき。
嘘ついたことは許してやるから。
帰ってきてよ。

のび太は他のホームレス同様、河原に小屋を建てて暮らした。

そして今、橋の下で、青い猫型ロボットと過ごした日々の記憶を反芻していた。
――もう10年も前。

ゴミ捨て場を巡ってみよう。
何か使えるものが見つかるかもしれない。
のび太は立ち上がり、歩き出した。

いつもこの家の前に来てしまう。
ここにはゴミ捨て場なんて無いのに。

玄関にかかる「出木杉」の表札。
あの忌々しい秀才・出木杉と、妻の静香が暮らす家。

「出木杉静香――変だよ、やっぱりしずかちゃんの苗字は野比だよ」

ふとガレージを見る。
いつもはそこに停めてある高級車が、今日は無い。
――留守だ。

邪心が湧いた。

のび太は家の裏手に回り、石で窓ガラスを叩き割った。
割れた窓から出木杉邸内に侵入する。
家の中には高価そうな家具や電気製品が並んでいた。

「あいつ、科学者になったんだってさ。それで色んな道具を発明して大儲け。
この間、タケコプターのプロトタイプも作ったって新聞にあったぜ」

スネ夫の言っていたことはどうやら本当らしい。

出木杉邸には地下室があった。
どうやら出木杉英才の「研究室」らしい。
薄暗い地下室には訳の分からない機械類や工具、配線図等が散乱していた。
のび太にはここにあるものでそんなに凄い何かが作れるとは到底思えない。
――あいつならドラえもんも作れるのかな。

がたん、と物音がした。

「――静香、やっと例のモノが出来たんだ!一番に君に見せたくて」

「まぁ、ありがとう!」

しまった。
出木杉夫婦が帰ってきたらしい。

見つかると拙い。
もう静香の、あの凍りついた顔は見たくもない。
どこか隠れる場所は――。

――あった。
のび太は無造作に置かれていた、用途不明の白いハコの中に入った。

ばたんとドアを開け閉めする音が聞こえた。
のび太は冷蔵庫のような狭いハコの中で身を捩った。

「これだよ、静香!」

「――凄いわ!」

「まだ試作機だから小型で、人1人がやっと入れる程の大きさだけどね。
でもこれで多くの人が救えるはずなんだ!」

のび太はハコの中で、出木杉の弾んだ声に顔を顰めた。

「この瞬間冷凍機――これを使えば、そう、例えば交通事故に遭って大怪我を負った人がいるとする。
救急車で急いで病院に運んでも間に合わないような大怪我の――そんな人をこの冷凍機で一瞬のうちに
凍らせる。そして病院へ運ぶんだ。病院に着いたら直ぐに解凍し、治療する。どうだい?これで時間がなくて救えなかった
命が幾つも救える筈なんだ!」

「これは素晴らしい発明よ、英才さん!」

――くそ。何が英才さん、だ。君は僕のものの筈だったのに。

「――なんだ?」

ハコの中でのび太は目眩を感じた。

「くらくらする――?」

いや違う。
揺れているのは地面だ。

「これって――」

揺れが激しくなる。

出木杉が叫ぶ。

「地震だ!静香逃げろ!」

――待ってくれ!僕も逃げなくちゃ!
のび太はハコの扉を押した。しかし扉はびくともしない。
どうやら内側からは開かないらしい。

地下室の照明が猛烈な揺れでちぎれ、ハコ――瞬間冷凍機のスイッチ上に落下した。
ブゥン、と唸り声を上げる冷凍機。
中ののび太は扉を開けようと必死にもがいた。

「何?何なんだよぉ、寒い――」

途端に手足が動かなくなった。ハコの内側から冷気が出て、のび太の体を凍らせていく。

「いやだ、やめてくれよ――」

今ここで冷凍されたら、いったい誰が解凍してくれるんだ?

「出木杉、しずかちゃん――スネ夫――助けてよ」

「――助けてよドラえもん!」

寒い。
のび太の意識はそこで途絶えた。

その日発生した大地震は関東地方を壊滅状態にし、日本中を大混乱に陥れた。
出木杉邸のあった地帯は土砂に呑まれ、
スネ夫たちホームレスは倒れてきた橋の下敷きとなって全滅した。

――か?
――ですか?
――大丈夫ですか?

のび太は何処かで見たような少年にハコから引きずり出された。

「まさか、あの大地震の頃から冷凍睡眠状態で生き残っていたなんて、信じられない」

少年は驚愕の表情でのび太を見つめている。

「――きみはなにをしていたの?」

のび太は豪く久しぶりに声を発した気がした。

「ぼ、僕は学校の授業で昔の地震について調べていた者で、その一環でここ――震災で土に埋もれた街の跡へ。
それで、地面から何か突き出しているから掘り出してみようと思って――あ、そうだ!僕の名前は」

――ん。
――この子は。
のび太はやっと思い出した。

「ああーっ!」

「わっ!な、何ですか?」

「き、君は――」

「君はセワシじゃないかッ!」

自ら口にした癖に、のび太はその名前に絶望した。

「――僕はのび太だよ。君の先祖の」

ということは、今は2125年なのか。

そんなに眠っていたのか。
――昼寝時間新記録だ。

のび太はセワシの家に連れて行かれた。

「それじゃあ――あの時やっぱり大きな地震が」

「でもお爺さんは冷凍機のスイッチが入ったお陰で助かったんだ。記録によればあの辺りの人は皆
死んで――」

みんな死んでしまったのか。

いや待て。

「君は誰?」

「セワシだよ!貴方の孫の――」

「僕は今まで冷凍されてたんだよ」

「――あ」

「しずかちゃんも死んじゃったんでしょ?僕まだ童貞だし」

「ド、ウテイ?それは――」

――11歳の子供には早すぎたか。

「いや、兎に角君が今いるのって変じゃないの?」

のび太はかつて無い程に思考を巡らせてその一言を口にした。

「――た、確かに」

その時、部屋にドラミが入ってきた。

「事情は聞いたわ、のび太さん。貴方が前科者の包茎ホームレス童貞なのに何故セワシさんが居るのか、
それはきっと、まだ何かチャンスが残っているからなのよ!」

のび太は無性に腹が立ってきた。

「何言ってるんだよ。それもこれも皆、君の兄さんが居なくなったからだ!ドラえもんが家出してから、僕は、僕は――」

「お兄ちゃん――が?」

「そんな筈は無いわ。お兄ちゃんはちゃんとのび太さんと一緒に――」

「出て行ったんだよドラえもんは!未来に用があるとか何とか、適当なこと言って僕を見捨てたんだ!」

「違う!」

「何がだよ!ドラえもんも君も、僕を見捨てるつもりのくせに!」

怒鳴ってから、のび太はドラミが泣いていることに気付いた。

「――ごめんよ。つい、カッとなってさ。そうだよね、君やドラえもんは悪くない。いつまでも成長しない僕が全部」

「違うの!」

「――え?」

「22世紀に用事があったって言うのはホントなの、信じて」

「な、何の用事だっていうんだよ」

「それは――」

「言えないんだ、嘘だからだろ!」

「それは――のび太さんのお母さんの為に」

「ママの――」

「お兄ちゃん、あらゆる病気診断が簡単に出来るひみつ道具でね、こっそり貴方のお母さんを検査したの。そしたら」

「――ガンだ!」

「もう相当進行してたって。のび太さんの時代の医療技術じゃ治せない。だからお兄ちゃん、22世紀に薬を買いに――のび太さん達には
心配かけたくないから、詳しいことは言わないでおくって――」

――ちょっと用事が出来たから。
――すぐ帰ってくるから心配要らないよ。
じゃあ、どうして帰ってきてくれなかったんだよドラえもん。

「でも帰ってこない――」

「――そこが変なのよ。お兄ちゃんは今日帰ってくるわ。薬を買うために。だから会って真実を確かめましょう」

待つこと約3時間。
日が沈みかけた頃、セワシの部屋にぽっかりと穴が開いた。
それはのび太にとって、とても懐かしい光景だった。ここからドラえもんの乗ったタイムマシンが出て来る。そう思うと
何故か緊張した。

しかし――。

「あれ――」

「ど、どうして」

「そんな――」

3人は絶句した。

穴から飛び出してきたタイムマシンにはドラえもんの姿はなく、ただ一匹の白猫が蹲っているだけだった。

「これは――」

のび太は愕然とした。

部屋に戻ってきたドラミが溜息をついた。

「どうしたの?」

「タイムパトロールから連絡があったわ。時空間に大きな歪みが生じていたらしいの。
恐らくお兄ちゃんはその時空の歪みに呑まれて別の世界へ――」

「別の世界?」

「パラレルワールド、平行世界――とにかく私達が暮らしている世界とは隔絶された別の場所。のび太さんも行ったことが
あるでしょ?魔法が使える世界、鳥人間の暮らす世界――」

「ああ――」

よく憶えていなかった。

それまで沈黙していたセワシが口を開いた。

「あの白い猫はその平行世界からドラえもんと入れかわりにやって来たんだと思うな。だから、あの猫を詳しく
調べてみれば、ドラえもんがどんな世界に飛ばされてしまったのか分かるかもしれない」

勿論、のび太には何のことだか理解できなかった。

猫が

* 

ドラえもんは殺風景な空き地で目を覚ました。

「――ここは?」

土管が3本詰まれている。
だが、いつものび太達が集まっている空き地ではないようだ。

「どこだろう?」

そもそも自分は何をしていたのだろうか。

「――そうだ、僕はタイムマシンに乗って、あれ?」

22世紀に行こうとした筈だ。

「じゃあどうしてこんな所にいるん――あっ」

ドラえもんは全てを思い出した。

「そうだった!僕は22世紀へ行く途中、時空嵐に巻き込まれたんだ!じゃあ此処は――何処だ」

その時。

「おーい、早く!こっちだよ!」

誰か来る。
ドラえもんは咄嗟に土管の中へ身を隠した。

「早く来いよォ磯野!」

いそ――の?
空き地に眼鏡をかけた少年が入ってきた。
――のび太くん?
しかしそれはのび太ではなかった。

「何なんだよ中島、今日はそんなに野球がしたいのか?」

眼鏡の少年――中島の後からもう1人、坊主頭の少年もやって来た。

「違うよ磯野!野球どころじゃないんだ!」

「だから何なんだよ」

「宇宙人だよ!空から降ってきたんだ、青いタヌキみたいな宇宙人が!そこで気絶してるんだ!」

まずい。

「おかしいなぁー、確かに此処で倒れてたんだよぉ」

少年2人が土管に近付いてくる。

恐らくこの世界は、ドラえもんが生まれた時代ほど文明が進んではいない。
――20世紀?
だとしたら自分の存在は異質なモノである。現にあの中島と言う少年は、自分のことを宇宙人だと勘違いしていた。
見つかれば何をされるか分からない。
――逃げよう。

ドラえもんは逃走の為の道具を出そうと、ポケットに手を伸ばした。

――ない!
四次元ポケットが無い。

近くで2人の声がした為、ドラえもんは体を強張らせた。

「おい中島、これなんだろ?」

坊主頭の少年が白い何かを手に持っている。
――四次元ポケット!
どうやらドラえもんの四次元ポケットは、空から落ちてきた衝撃で外れていたらしい。

「ただの袋だろ。それより宇宙人なんだよ!ここで気絶してたんだって!」

「もう分かったよ中島。僕に四月馬鹿でからかわれたのがそんなに悔しかったのかい?お互い宿題が沢山残ってるんだから
もう帰ろうぜ」

「磯野――」

「僕がまた父さんに叱られて野球できなくてもいいのか?」

「う、分かったよ」

2人は四次元ポケットを放り、空き地を去った。

「良かったぁ……」

ドラえもんは土管の中でほっと安堵した。

「そうだ四次元ポケット!」

四次元ポケットを取ろうと土管の中から手を伸ばしたドラえもんを、小さな瞳が見つめていた。

「あ――」

三輪車に跨った幼児は、四次元ポケットをつまみ上げてドラえもんに問うた。

「これは何デスか?」


「お母さん、タマが居ないわ」

「何処かへ散歩にでも行ってるんでしょう。心配しないでもその内帰ってくるわよ」

「でも、もしかしたら家出かも」

「ワカメ、どうしてタマが家出なんかしなくちゃならないのよ。ねぇ母さん?」

「そうねぇ、まぁ、タマだって1人になりたい時くらいはあるかも知れないけどねぇ」

磯野家でタマの行方を案じているのは自分ひとりだと分かって、ワカメは落胆した。

「みんなタマが心配じゃないのね。私、見たのよ。昨日も言ったでしょ!タラちゃんがタマを――」

「ワカメ!」

サザエが声を荒らげた。

「タラちゃんがタマにそんな酷い事する訳ないじゃない!四月一日はもうとっくに過ぎてるのよ!」

大人たちはタラオの残酷な一面を信じようとしない。
ワカメやカツオは知っているのだ。
大人たちが見ていない間、タラオがタマを苛めていることを。
リカちゃんを裸に剥いて木に縛り付けた真犯人が堀川くんではなく、タラオであるということを。
三河屋酒店に火を放ち、サブちゃんに大火傷を負わせたのがタラオであることを。

だがタラオは何一つ咎められない。
3歳の子供がそんな恐ろしいことをするなどと大人たちは思いもしないことを、あいつは知っている。
子供の言うことは、たとえそれが真実であったとしても荒唐無稽な内容ならば一笑に付されることも。

玄関の開く音がした。

「ママー!」

タラオだ。

「新しいペットを見つけたデス!」

それが最大の悲劇の始まりだった。

ごめんちょっと飯喰ってくるわ
すぐ戻る

ただいまデス〜♪

夕食の席。
タラオに有刺鉄線の首輪を巻きつけられたそれは、怯えた目でワカメ達を見た。

「ほう、こんな生き物が空き地にいたのか」

忌々しい禿頭が笑いながら言った。

「珍しい生き物ですねぇ。マスオさん、何と言う生き物かご存知?」

「いやァ僕も知りませんねェ。凄いなァ。アナゴくん以上の珍獣だなァ」

「あら貴方、それじゃアナゴさんに失礼よ」

「そうだな、あははははははは」

大人たちが笑っている。
ワカメはその光景に途轍もない恐怖を感じた。

「――ワカメ、来い」

「お兄ちゃん?」

カツオはワカメを連れて部屋に戻ると、真剣な表情で告げた。

「タラちゃんが連れてきたアイツは宇宙人だ!中島が見たってヤツと同じ姿をしてるんだよ!」

「宇宙人!」

そんな馬鹿な。

「そう、宇宙人だ。宇宙人って言えば光線銃とか持ってたりするもんだろ?タラオがそんなもの飼い慣らしたりしたら、
僕等は確実に殺される!勿論タラオの計画によってね!そうなってもどうせ、いつもみたいにペットが暴れだしただけってことに
されるだろう。父さんや姉さんがまた、タラちゃんには何の罪も無い、凶暴なペットは保健所送りだ――なんていい出すに決まってる。
大人たちはタラオのいいように操られてる!」

「じゃあ――どうすれば良いの」

「逃げるんだよ!家族なんて捨てるんだ、タラオには敵わない。今までだって家族すら何も信じてはくれなかった。
次もそうに決まってる。家族なんかより自分の命の方が大事だ。だからワカメ、逃げよう」

「でもどうやって!」

「花沢さんに手配してもらってる。迷ってる暇は無いぞワカメ、行こう」

ワカメはカツオに手を引かれ、窓から出た庭に出た。

「待ってくださいデス」

「た、タラ、ちゃ、ん」

不気味な笑みを浮かべたタラオは、波平の盆栽を弄びながらワカメを見据えた。

「どこへ行くDEATHか?」

「その――!」

ワカメは息を呑んだ。

「どうしたデス?」

「や――やめて――」

「何をデスか?」

先に庭に下りていたカツオが、荒縄で縛られてタラオに踏みつけられている。

「お兄ちゃんを放して!」

「はなさないデス」

タラオはそう言い放つと、ズボンのポケットから懐中電灯のような物を取り出した。

「――これをカツオ兄ちゃんに使ってみるデス。僕から逃げようとした罰デス」

「――お兄ちゃんに何をする気なの――止めて――やめてタラちゃん」

怯えるワカメを見て、タラオは一層楽しそうな顔になった。

「――これはスモールライトっていうんデスよ。あのタヌキが持ってた道具デス」

タラオはカツオにスモールライトを向けた。

「や――止めろおッ!」

「やーめなーいデスー」

タラオはスモールライトの光を、もがくカツオの股間に浴びせた。
ワカメは恐怖に耐え切れず、その場に蹲って目を瞑った。

「う――うわあああああああああああああっ!」

カツオの絶叫が夜の町内にこだました。

「あぁ……タラオ……なんてこと……を……」

「だからお仕置きデス。もう逃げちゃ駄目デスよ」

カツオが静かになった。どうやら気絶してしまったらしい。

「ワカメお姉ちゃん、いつまで目を閉じてるデスか?怖くないから目を開けるデス」

タラオに促され、ワカメは恐る恐る目を開けた。

「お兄ちゃん!」

カツオは白目を剥き、泡を噴いて気絶していた。

「お兄ちゃん!しっかりして!」

ワカメは兄の下へ駆け寄り、その肩を揺すった。

「お兄ちゃ――」

その時、ワカメはカツオのズボンが脱がされている事に気がついた。

「そいつの股を見るデス」

カツオの股にぶら下がっていた立派な男根は、豆粒のように小さくなっていた。

「スモールライトで小さくしてやったデス」

「何てことを!これじゃ例えエレクト状態でも韓国平均サイズ以下よ!」

「そんなこと言ってもいいんデスか?僕はこいつとワカメお姉ちゃんが関係を持っていたことも
知ってるんデスよ」

「そ、そんな――」

「皆にバラされても良いんデスか?噂が広まれば、そのことをネタ切れ爺の伊佐坂が小説の題材にするデスよ?」

「やめて――もう逃げたりしないから」

「分かれば良いデス。でもこいつの竿を元に戻すつもりは無いデス。こいつはこの先、あらゆる女にマイクロペニスのカツオと
罵られて生きるのがお似合いデス」

のび太、セワシ、ドラミの3人は、タイムマシンに乗っていた白猫に「ほんやくコンニャク」を食べさせた。

「わかるかい?」

「うるせーんだよ包茎メガネが……あっ」

「このコンニャクを食べると僕等にも君の言葉が分かるんだよ。後で殺してやるから覚悟しろよクソ猫」

「黙れよ100年間無職が……あっ」

「セワシくん、どうしてこの猫のモノマネしながら僕の悪口を言ったんだい?僕の意思1つで君が存在しなくなっても」

「ごめんなさい」

「話を本題に戻しましょう。――貴方の名前は?」

「タマと申します。そんなことよりお嬢さん、貴方の名前は?」

「ドラミよ」

「そうか、良い名だ、よろしくドラミさん。それじゃあ今から食事がてら交尾にでも行きませ」

「僕のドラミにセクハラしてんじゃねーよクソ猫」

「低脳メガネ包茎ニート運動音痴の子孫は黙ってろ」

「よし分かった。お爺さん、今からこの猫を殺っちまおう」

のび太はセワシとタマを同時に殴った。
――我ながら大人の対応だ。

「――みんな、真面目にやろうよ」

事の詳細を中々話そうとしない。
仕方が無いのでのび太達は猫に銘酒「はってん場」を呑ませた。余談ではあるが、この銘酒のCMに使われた

「ウホッ、いいお酒!」というフレーズはかつて一世を風靡したらしい。

酒が入ると猫は饒舌になった。

「ああうめぇ。やっぱり鮭より酒だな。で、俺に何のようだ?」

「貴方はどうしてタイムマシンに乗って此処まで来たの?」

「タイムマシン?絨毯みたいなアレかい?俺は空き地で雌猫をナンパしてたんだよ。そしたら空に穴が開いてさ、
いやアナっていっても俺にソッチの趣味は無ェけどさ。でまぁ、何だろうと思ってそのアナを見てたんだよ、別に
穴を見つめてたからってそんな趣味は無いんだぜ?ホントに」

「無駄なことは言わなくて良いから早く話を進めてよ」

「悪ィな。穴を見てたら――俺はその穴に吸い込まれたんだよ。エロチックだろ?あ――そうだ、俺が穴に吸い込まれた瞬間、
穴から青いタヌキみたいなのが飛び出してきてさ。土管に頭打ちつけて気絶したようだったが」

「青いタヌキ!」

3人が一斉に大声を出したので、タマは慌てて耳を塞いだ。

「何だよお前等、青ダヌキがどうかしたか?」

「どどど、ドラえもんなんだよ!」

「ドラ――えもん?何だよそれ」

「詳しく説明してる暇はない!早く君のいた世界に行こう!」

嫌がるタマを説得し、3人はタイムマシンに乗った。

「時空航行履歴からお兄ちゃんが消えた位置は大体割り出せたわ、危険な旅になるけど、良いわね、のび太さん?」

「ああ」

どうせ滅茶苦茶になった人生だ。どうなろうと構わない。
死んだっていい。ただ、ドラえもんにもう1度会えたならそれだけでいい――。

「嫌だよぅ元の世界に戻りたくねぇよぅ勘弁してくれよぅ」

のび太は、タマの異常なまでの狼狽ぶりを不思議に思ったので訊いてみることにした。

「どうしてそんなに嫌がるんだい?故郷に帰れるんだよ」

「故郷だって?そんな良いモンじゃねぇ。向こうの世界にはフグ田タラオってぇとんでもない餓鬼が居るんだよ!
史上稀に見る大犯罪者に育つぜありゃ、若干3歳にして8割方の違法行為は経験してやがる」

「そ、そんな子供が居るのか――」

少し怖くなった。

「な?危ないって、だから帰ろうぜ?このまま22世紀でお互いのんびり暮らそうぜ?」

「そ、そうだね――」

本当にそれでいいのか。

「――いや、やっぱり行く!ドラえもんに会いに行かなきゃ!」

のび太の宣言を聞いたタマは、落胆した様子で溜息をついた。

「やれやれ、どうしてそんなに青いタヌキに会いたいのか、俺にはさっぱり解らんよ」

――僕の言うことを聞けばチンコも元通りの巨根にしてやるデス。
――絵本入り込み靴も貸してやるデス。二次元の女の子とヤり放題デスよー?

たったそれだけの言葉で。
頼れる兄はタラオの奴隷になってしまった。

「こうなったら!」

タラオが連れてきた宇宙人を味方につけるしかない。
宇宙人は今、マスオの建てたタヌキ小屋に幽閉されている。
小屋の前にはいつもマスオが居て、近付くものを全自動卵割り機で殴る。その所為でで小説のタネ詰まり伊佐坂が死んだ。

「どうすれば宇宙人を助けだせるかしら……」

大人たちは皆タラオに言いなりになっている。宇宙人から奪った怪しげな道具が怖いのだ。

「あの道具に太刀打ちできる人を探せばいいのよ、でもそんな超人――」

――いた。

「居たっ!」

ワカメは余りに嬉しくて部屋の中で飛び跳ねた。

恐らく地球で唯一、生身で宇宙人のオーバーテクノロジー兵器と互角に渡り合える男。
その名は――。

――穴子。

「そうだわ、穴子さんなら、穴子さんなら何とかしてくれる筈!」

磯野家の実権を握ったタラオでも、海山商事までは掌握していないだろう。

「――でもタラちゃんが日本を征服するのは、きっと時間の問題だわ」

明日。
学校へ行く振りをして、海山商事へ行こう。

穴子さんに会わなければ。

穴の子と書いて、穴子。
――なんて卑猥な名前なの。でも、素敵。
ワカメは向かい合って座っている穴子の唇を見つめながら、そんなことを考えていた。

「成る程、地球に危機が迫っているんだね」

どうやら理解してくれたようだ。

「そうなんです。だから穴る……穴子さんに力を貸して欲しいんです!」

「成る程――」

「駄目――ですか?」

「君が望むなら――しかし、君は甥っ子を失うことになるんだよ?それでも構わないのかい?」

「構いません」

ワカメは即答した。あんな鬼畜、家族でも何でもない。

「そうか。では――どうすれば良い?」

「まず私の家へ。庭にタヌキ小屋があって、それをマスオ兄さんが監視しています」

「小屋を監視――?そうか、それでフグ田君は何日も会社を無断欠勤していたか」

「タラちゃんの命令は絶対ですから。穴る……穴子さんはマスオ兄さんにいつも通り、話しかけてください」

「成る程、注意を逸らすわけだね。その間にワカメちゃんがその宇宙人を助ける――と」

「はい。上手くいったら宇宙人を連れて家を出ます。きっと私の家族が直ぐに追ってくるわ」

「普通の人間なら僕が瞬殺する」

「お願いします。でもタラちゃんには気をつけて。色んな道具を持ってるから」

「心配要らないさ。この唇が無事な限り、僕は戦い続けるから」

ワカメの目から、知らぬ間に涙が零れていた。

「アナルさん――有り難う」

泣きじゃくりながら礼を言うワカメの頭を穴る……もとい、穴子は優しく撫でた。

「僕の名前は穴子だよ、ワカメちゃん。地の文でも間違えてんじゃねーよAho」

その頃。

マスオに殴られて生死の境をさまよっていた伊佐坂難物は、
突如失踪してしまった担当編集の一家をモデルにした新作小説「リアルかくれんぼ」の執筆作業に疲れ、
気分転換に隣の家を覗いていた。
塀の上に顔を出し、タヌキ小屋に目を遣る。いつもなら此処で見張りをしているマスオと目が合う。

「おや――?」

しかし今日は小屋の前にマスオが居ない。

「留守か――?」

なんだつまらない、そう思って伊佐坂が部屋に戻ろうとしたとき、磯野家から奇怪な叫び声が響いた。

「びゃあ゛ぁ゛゛ぁぁぁぁぁ」

伊佐坂は、地獄の鬼に責め苛まれる亡者の悲鳴のような声を聞き、思わず失禁した。
しかし彼はオムツを装備していたため難を逃れることが出来た。

「びゃあ゛ぁ゛゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「びゃあ゛ぁ゛゛、たす、助け、びゃあ゛ぁ゛゛ぁぁぁ」

声の主は助けを求めているようだ。
伊佐坂は逡巡した。
助けに行くべきか、行かざるべきか――。
しかしこの状況を鑑みるに、何者かに襲われているのは、まず間違いなくマスオであろう。何故襲われている?
彼は人の恨みを買うような男ではない筈だ。

「――む、まさか」

――サザエさんの浮気に気付いたか。
伊佐坂は以前、同じように隣家を覗いていたときに、縁側に腰掛けてサザエと親しげに話す男を見たことがあった。
――やはりあれはサザエさんの間男で間違いなかったか。すると!
マスオは見てしまったのだろう。サザエと間男が情を交わすのを。そして驚いた彼は部屋に踏み込み、2人を問い詰めた。
真面目なマスオはきっと、男を追い返した後に、この事を波平に報告すると言ったのだろう。
そんなことをすればサザエは父からどんな罰を受けるか分からない。
事実を隠すため、サザエはマスオに台所からとってきた包丁を向け――。

「マスオ君が殺されるッ」

伊佐坂は驚異的な跳躍力で塀を飛び越え、磯野家に土足で上がりこんだ。
靴など脱いでいる暇は無い。マスオがサザエに殺されてしまう!

伊佐坂は今まさに凶行が行われようとしている磯野家の客間へ踏み込んだ。

「ああ――」

遅かった。
マスオは裸に剥かれ、泡を噴いて事切れていた。
尻には大きな角材が突き立てられている。

「マスオ君――」

伊佐坂がマスオの屍に触れようとすると、押入れから長身の男が現れた。

「触れちゃあ――いけません、伊佐坂先生」

「あぁ――」

伊佐坂はその男の異相に、思わず呼吸することを忘れた。

「き、君は誰なんだ――」

「あな……」

よく聞き取れなかった。
しかし彼の膨れ上がった醜悪な鱈子唇は、確かに
アナル
と言った。

自らアナルと名乗る謎の男。
――違う。こいつはサザエさんの間男じゃない!

――はっ。

伊佐坂は全てを理解した。

「――衆道か!」

「――ワカメちゃん、穴子だ。マスオ君達は殺った。それから成り行きで、伊佐坂先生の肛門も破壊してしまった。すまない。
そっちは大丈夫かい?小屋から連れ出した――ドラえもんとかいう宇宙人は?」

「無事です。今、三河屋さんに匿って貰ってるの」

「そうか。家中を探してみたが、タラちゃんは居なかったよ。どうやら君を追って家を出たらしい。侵入したときにはあった
三輪車が無くなっていたからね。すぐ向かう。気をつけるんだぞ」

「はい」

通話が終わった。
ワカメは、電池残量の少なくなった携帯電話をポケットにしまい、傷つき寝込んでいる宇宙人――ドラえもんを見た。

海山商事での密談のあと、ワカメとアナルの2人は磯野家へ直行した。
ワカメは、アナルが宇宙人の道具で武装したマスオと壮絶な戦いを繰り広げている間に、小屋に幽閉されていた宇宙人を救出した。
――大丈夫、宇宙人さん?
――宇宙人?違うよ。僕……ドラえもん……です……
宇宙人は、名をドラえもんといった。
――わかったわ、ドラえもん。早く逃げましょ。
ワカメはドラえもんの手を引いて、三河屋まで走って逃げてきたのだった。

どさり、と何かの倒れる音がした。

「やっと見つけたデス」

三河屋酒店の主人が倒れている。その上に「くうき砲」を装備した魔王タラオが立っている。

タラオは怯えるワカメを見て、にやりと笑った。

「ワカメお姉ちゃん、早くそこの青ダヌキを渡すデス。さもないと――ドカン!」

タラオの手に装着されたくうき砲から衝撃波が放たれ、棚に並べられていた酒瓶が砕け散った。床一面に酒が流れ出す。

「命が惜しいならそいつをこっちへやるデス」

「い――いや――」

「……ワカメ……ちゃん……」

満身創痍のドラえもんが小さく声を発した。

「僕……のポケットから……道具を……出すん……だ……」

「わ、わかったわ」

ワカメはタラオに悟られぬよう、そっとポケットに手を伸ばす――。

「そ、そこは……股間だよワカメちゃん……あ……あ……アッー」

――これだわ!
ワカメはドラえもんのポケットからピンク色のドアを引きずり出した。

「そ、それは……どこでもドア……」

ワカメはどこでもドアを両手で掴み、振り上げた。そして全身の力を込め、ドアをタラオの頭に振り下ろした。

べきり。

ドアは床に当たって砕けた。

「タラちゃん――?」

タラオの姿がない。

「何処へ――」

「ウフフ、当たらないデス」

ワカメの背後に、くうき砲を構えたタラオが居た。

「――僕に逆らった罰デス。死ねデス」

「そこまでよ、フグ田タラオ!」

ドラミは、酒屋の奥でくうき砲を構えるタラオにそう言い放った。

「――何者デス?」

「私はドラミ、そこにいるドラえもんの妹よ!」

「いもうと――」

荒れ果てた店の中に、中年童貞ののび太が飛び込んできた。

「ドラえもん!ドラえもん!」

のび太はドラえもんに抱きつき、何度もその名を呼んだ。

「のび太……くん……どうして……そんなに……」

「馬鹿、ドラえもんの馬鹿!君が帰ってこないから――僕は」

のび太はドラえもんに再会する直前まで、会ったら思い切り今までの恨み言を言ってやるつもりだった。しかし。

「――心配したんだぞ!寂しかったじゃないかぁ!」

「のび……太……くん……ごめんよ……」

「いいんだよ、ドラえもん――また会えて、本当に良かった――」

2人の眼から同時に涙が零れ落ちた。

「ドカン!」

タラオのくうき砲が、のび太の体に直撃した。吹き飛ばされ、壁に激突するのび太。

「もう止めてタラちゃん!」

ワカメがタラオの矮躯に縋り付く。

「うるさいデス。もう死ねデス。ドカン!」

タラオは無情にも、ワカメの顔面にくうき砲を放った。
ドラミはその凄惨な光景に思わず眼を背けた。

ワカメを殺したタラオは、三河屋の屍をわざと踏み付け、わなわなと痙攣するドラえもんの前に立った。

「よく考えたら、ポケットさえあればお前なんか要らないデス」

「や……め、ろ……」

「黙れデス」

タラオはドラえもんの四次元ポケットを剥ぎ取った。

「ひぎぃッ!」

「痛かったデスか?すぐ楽にしてやるデス」

タラオが四次元ポケットを探り出した。
それを見たドラミは直ぐにどこでもドアを取り出すと、兄の体を抱えてそれを潜った。

「ここなら大丈夫よ」

ドラミが何処でもドアで逃げてきたのは、かもめ第三小学校の教室だった。

「ドラミ……」

「お兄ちゃん、大怪我してるんだから動いちゃ駄目よ」

「ドラミ……の……」

「喋っても駄目よ、機能停止でもしたら――」

「……び……太…く」

「え?」

「……忘れ……て……る」

のび太くん、忘れてる。

「あ」

しまった。

その事実に気付いたドラミの顔面は、兄と同じくらい真っ青になった。

どういう訳か置き去りにされてしまったのび太は、これ以上タラオに危害を加えられないよう死んだフリをしていた。
タラオは眼を輝かせてポケットの中を探っている。
――まるで子供みたいだ。
否、本当に子供だったか。

「くうき砲があるんだから、くうき嫁も入ってる筈デス!」

――やっぱり子供じゃねーわ。

「ん?誰デス」

「ぶるあぁぁぁぁぁ」

アナル……もとい穴子は怒りに震えていた。

「――よくもワカメちゃんを殺したな、貴様は、悪魔だ!」

「アナルさんも人のことは言えないデスよ。パパを殺した癖に」

「知っていたのか」

のび太はうっすらと目を開けて様子を伺った。
タラオと怪人クチビル男が対峙している。
――誰だろう?
タラオの敵だとすれば、仲間だ。

「子供だからといって容赦はしない。君は――私が倒す!」

「ドカン!」

タラオのくうき砲が炸裂する。
しかし穴子は衝撃波を拳で弾き返した。衝撃波に呑まれ、タラオの姿が粉塵で見えなくなった。

「やったか?」

「甘いデス。僕にはひみつ道具があるんデスよ」

「なん……だと……」

「バリヤーポイントのお陰で助かったデス」

「これでも喰らうデス!」

タラオは四次元ポケットから手榴弾を取り出すと、穴子に投げつけた。
途端に大爆発が起こり、三河屋は炎に包まれた。

「ははは、ざまぁみろデスー」

タラオはタケコプターを使って三河屋を脱出、空の彼方に消えた。

「ドラミちゃん遅いなぁ……」

「タラオに殺られたな……」

セワシとタマは大人のお店でドラミとのび太がドラえもんを連れ帰るのを待っていた。

「だから俺は言ったんだ。タラオなんかにゃ関わらない方が良い。最凶のガキだぜあれは」

「困るなぁ。おじいさん死んだら僕生まれなくなるじゃん」

「ああ。タネの関係でなぁ。タネ。俺はタマ」

灰塵と炎の中から、気絶したのび太を抱えた穴子が立ち上がった。

「ぶるぅあぁぁぁ……君、君、しっかりするんだ」

「――う、あ、貴方は」

「僕はアナゴという者だよ。君は?」

「あな――あな、るさん?僕は、野比のび太です」

「そうか。宜しく、のび太くん。どうやら君もあの魔童と関わりのある人間らしいね」

「え?いや、僕は――ドラえもんと」

「ドラえもん?あの宇宙人だね」

「いや、宇宙人――じゃなくて、ロボット」

「ろぼっと――」

話しているうちに、2人の前にピンク色のドアが現れた。
ドアが開き、ドラミが申し訳なさそうに顔を出す。

「ごめんなさいのび太さん。――その人は?」

「この人はアナルマスター。タラオと戦っている人なんだ」

「あなる、ますたー……?」

小学校。
無人の教室で、穴子は瞑想していた。
――ワカメちゃんを救えなかった。
――その償いのためにも。
――必ず奴をこの手で仕留める!この、
――この唇を失ってでも。

anagoは目を開き、ドラミとのび太に言った。

「君達は直ぐにもといた世界へ帰るんだ」

ドラミが困惑した顔を向ける。

「で、でも破滅招来体タラオが――」

「タラオのことは心配ない。僕が倒す」

そう言い残し、穴子は最後の戦いへと発った――。

穴子は校庭に立ち、夕焼け空を見上げた。

――日が沈むのが先か、命が尽きるのが先か。

――む。

「来たか」

爆音を轟かせながら、改造三輪車に乗った魔人タラオが近付いてくる。

「しつこい唇野郎デス!今度こそ息の根を止めてやるデス!」

タラオは爆走する三輪車に取り付けられた機械の、赤いスイッチを押した。
すると前輪横の銛が射出され、穴子の唇に突き刺さった。

「ぐわぁっ!」

唇から鮮血が迸り、夕日を浴びてきらきらと輝いた。

「突撃するデス!」

タラオは手にくうき砲を嵌め、銛を打ち込まれもがく穴子に向けた。

「ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!」

タラオが狂ったように衝撃波を乱射する。唇に銛を打たれ身動きの取れない穴子は、成す術も無く苦痛を全身に受けるしかなかった。

「もう1発やるデス!」

タラオが三輪車操縦席の黒いボタンを押した。

後輪の間から砲身がせり出し、強烈な勢いで何かを発射した。

「チャーン!!ハーイッ!」

三輪車砲から撃ちだされたイクラが、穴子の鳩尾にめり込んだ。

「許せデス、イクラちゃん。お前は奴を葬る為の生贄となったデス」

穴子に埋め込まれたイクラは、尚も両足をバタつかせている。

穴子は全身の力を込めて鳩尾に突き立った幼児を引き抜くと、タラオ目掛けてそれを投げつけた。同時に唇に激痛が走る。
放り投げられたイクラは宙を舞い、笑顔で三輪車上のタラオに抱きつこうとした。

「邪魔デス!ドカン!」

タラオはイクラをくうき砲で粉砕した。ばらばらに砕けた肉片が、呆然と立ち尽くす穴子に降りかかった。

「貴様――」

穴子に再び怒りが満ちた。

「――何故イクラまで殺した!奴は仲間ではなかったと言うのかっ!」

「僕に仲間なんていないデースー。僕にいるのは、下僕と肉便器と、敵だけデスッ!」

三輪車が穴子に激突した。棘付きの前輪が、穴子の体から肉を削ぎ落とす。

「ぶるああああああああああっ!」

穴子は己の唇から銛を引き抜き、眼前のタラオの脳天に突き立てた。

「くたばれぇッ!」

「ぶわぁーっ!」

校庭で繰り広げられた2人の血みどろの闘いを、のび太は教室から見守っていた。

銛を刺されたタラオの三輪車が横転し、炎を吹き上げた。

「やった!アナルマスターが勝ったんだ!」

アナルマスターは全身血で赤黒く染まり、日が沈みかけた校庭に、幽鬼のように立っていた。
抉られた唇が痛々しい。

「のび太さん、タイムマシンの整備が終わったわ!もとの世界へ帰りましょう!
お兄ちゃんを早く治してあげないと、再起不能になるかも知れないわ!」

「よし、行こう!」

のび太とドラミは息も絶え絶えのドラえもんを抱え、タイムマシンに乗り込んだ。

「出発するわよ!」

タイムマシンが発進する。
開け放った窓から教室を出て、空中に出来た時空間の入り口へ飛び込む瞬間、
闘いに勝利した穴子が微笑み、のび太たちにサムズアップをして見せた。

「ありがとう――穴師匠」

不思議な異世界の住人達が、時空の彼方へ帰っていった。
――これで。
――これで終わったのか。
そう思うと全身に漲らせていた力が自然に抜け、穴子はその場に座り込んだ。

炎上した三輪車の残骸に目をやる。
すっかり陽は落ちて、三輪車から出る炎だけが辺りを照らしていた。

――タラオ。
ああ見えて、まだ年端も行かぬ子供だ。

「――弔いの言葉の一つも」

穴子は再び立ち上がって、燃える三輪車に歩み寄っていった。

「お前は力を持ちすぎたんだ、タラオ」

そう、穴子が言葉をかけた瞬間――。

炎の中から小さな手が突き出し、穴子の腕を掴んだ。

「な――タラオ――まだ生きているのか!」

穴子は底知れぬ恐怖を覚えた。

「僕には――あのタヌキの道具が――だから――そう簡単には死なないデス!」

三輪車の残骸を跳ね上げて、全身に火傷を負ったタラオが現れた。

「まだ――ポケットは残ってるんデスよ」

狂気を孕んだ視線が、穴子の傷ついた唇を射る。

「もう――何もかも破壊しつくしてやるデス――この――この爆弾で――」

タラオはポケットの中から、自分の背丈ほどもある黒い塊を出した。

「地球はかい爆弾」

「これで地球諸共あんたを吹っ飛ばしてやるデス」

目の焦点が合っていない。
タラオはもう、完全に狂っていた。

「止せ、そんなことをしたらお前だって本当に死ぬぞ!」

「唇ごときに言われなくても解ってるデス。どうせ勝てないなら、
どんな手段を使ってでもお前を道連れにするまでデスよ」

「こ――殺すなら殺せ!だが他の人間は関係ない、必要以上に命を奪うな!」

穴子の悲痛な叫びが、広い校庭にこだました。

「だめデス」

タラオは――地球はかい爆弾を地面に叩きつけた。

「これで終わりデス」

爆弾から強烈な閃光が放たれる。

目の前が真っ白になる。

穴子は――否、穴子達の暮らす世界の地球は、

消滅した。

ドラミ達によるドラえもんの救出後間もなく、時空間に発生した謎の歪みはタイムパトロールによって修復された。
もう2度とあの世界に行くことはないだろう。

ドラえもんはタラオに虐待を受け負傷していたため、22世紀に到着してすぐにロボット病院へ搬送された。
しばらく入院すれば傷は治るとのことだった。

時空嵐によって人生を狂わされたのび太は、今は疲れてセワシの家で眠っている。

そしてドラミは――大変なことに気付いた。

「セワシくん……」

兄を助けに行く際、セワシとタマを、向こうの世界の大人のお店に置いてきたのだった。

「……忘れてた」

「ま、いっか」

「のび太くん、朝だよ!早くしないと学校遅刻しちゃうよ!」

丸く、真っ白な手がのび太の体を揺すっている。

「ああ、あと5分――」

――夢、だったのだろうか。

ドラえもんが家出し、母が死んで、逮捕されて、父が死んで、ホームレスになって、童貞を脱出できなくて、地震が来て――
気がつくと22世紀で、ドラえもんが行方不明で、異世界に助けに行って、やっとまた会えて――。

「のび太くん、早く!」

ドラえもんの声がする。
やっぱり夢だったのか。否――
今が夢なのかもしれない。なら起きちゃ駄目だ。起きてしまったら、夢の中のドラえもんが居なくなって――。

「のび太ッ!早く起きなさい!」

かつて毎日のように聞いた怒声。
のび太は驚いて身を起こした。

「――ママ?」

母がのび太の顔を睨みつけていた。

「ほら、早く着替えなさい!朝ごはん食べる時間も無いわよ!」

「ママ――」

母の後ろで、ドラえもんが優しく笑っている。

「ドラえもん――」

目の前が滲む。
――なんで涙なんか出るんだよ。
――ドラえもんが、ママが、見えなくなるじゃないか。

「――のび太くん」

――ドラえもん。

「――ただいま」

その頃。

絵本入り込み靴で二次元世界の住人となった、磯野カツオは――。
地球がタラオの使った爆弾で滅び去った後も、其処で平和に生き続けていた。

カツオはこの世界で、高校生になり、青春を謳歌していた。

「今日も学校だなぁ」

通学路をゆったりと歩きながら、カツオはクラスの女子を思い浮かべ、股間を膨らませていた。

「楽しそうデスね」

懐かしい――そして最も聞きたくなかった声が、
カツオの耳に確かに届いた。

「た――タラちゃん」

「久しぶりデスねカツオ兄ちゃん」

タラオが不気味な笑みを浮かべて近付いてくる。

「あれ?どうして勃起してるデスか?ショタコンなんデスかー?」

「ちちちちちちっちち違うよ!これは、」

「コレは?」

「クラスの女の子のことを――」

「ふぅん」

タラオは目にも留まらぬ速さでカツオのベルトを緩め、ズボンをずり下げた。

「キャッ!変態!」

「うるさいデス」

タラオは叔父のいきり立った一物を掴み、もう片方の手に持った懐中電灯の光を当てた。

「う――うわぁぁぁあぁぁ!」

途端にカツオの、巨象の鼻のような一物は萎縮し、蚤の足のような大きさになってしまった。

「す――スモールライト」

「ウフフ」

タラオはカツオの股をまじまじと見て嗤った。

「僕は一度死んだデス」

「地球はかい爆弾の超エネルギーで、空間に歪みが出来たデス。体の小さい僕はその歪みに飛び込んだんデス。
そして着いたのが――この世界だったんデス」

「そんな――まさか――」

タラオは四次元ポケットを出し、中に手を入れた。

「見てくださいカツオ兄ちゃん」

「なんだい――この輪っかは。ま、まさか僕の首輪じゃ」

「そんなしょうもない道具じゃないデス。コレは変身リングっていう道具デス」

「変身リング?」

「そうデス。ここにカードを入れて、リングを自分の体に潜らせると、
その部位がカードに描かれた生き物のモノと交換できるデス」

タラオは楽しそうにそう言って、カードを変身リングに挿入した。
カードには黒人男性の絵が描かれている。

「やるデスー」

タラオは自分の下半身に、変身リングを潜らせた。

「これで僕のおちんちんは黒人級のクロデカになったデスー!わーいわーい」

「カツオ兄ちゃん」

「い、嫌だ、いやだいやだいやだぁッ!」

「そんなこと言うと、痛い目に遭うデスよ?」

「う――」

「さぁ、兄ちゃんの通っている学校を教えるデス。想像しただけで勃起するぐらいなんだから、さぞ可愛い子が沢山――」

「それだけは止めてくれッ!頼む!」

「はやく校名を言うデス」

「タラ――」

「はやく」

「う、りょ――」

「りょ?」

「陵桜学園――」

「わかったデス。さっそく案内するデス。犯りまくりんぐデス!」

カツオは、この邪悪な甥の呪縛から永遠に解放されぬことを悟り、

絶望した。

大長編ドラえもん・のび太と肛門世界の覇王完

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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:a90jCWGm0編集削除
いやぁ〜、すごいですねぇ!
今まで長いテキストは斜め読みしてましたが、面白い。
予想を裏切ってくれましたねぇ。
たまにこんなのがあるから、油断できないなぁ・・・
2 . 名無しさん  ID:MYoG0wA10編集削除
なるほど
こりゃすごい
3 . 名無しさん  ID:a90jCWGm0編集削除
最後は陵桜学園ではなく、私立八光学園がよかった。
裏生徒会にあれやこれやお仕置きされるのも良し、
暴君タラオのブラック下半身顔射シリーズも良し。
4 . 名無しさん  ID:.Wx8TGIG0編集削除
狂っとる

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