野比家、夕食

のび太のママ(以下、たま子)「ドラちゃん、いつになったらのび太の成績は上がるの?」

ドラえもん「え、その、努力はしてるんですが・・・」

今日ものび太はテストで0点だった。



たま子「いつまでも成績が上がらないようなら未来に帰ってもらいますからね」

ドラえもん「はい・・・」

のび太「・・・」

のび太は俯きながら黙々と食事を続ける。

のび太の部屋

ドラえもん「のび太君、まあ、気楽にいこうよ。君はコツコツゆっくりタイプだから」

のび太「うん・・・」

その日は珍しく復習をするのび太。しかし、今日、勉強したその内容さえ全くわからない。

のび太(ああ、僕はどうしてこんなに馬鹿なんだ・・・)

ドラえもん(どうしてあげたらいいんだろう・・・)

一ヶ月後

のび太はまたテストで0点を取った。

たま子「・・・」

のび太「・・・」

ドラえもん「・・・」

正座する二人と一体。沈黙が包む。

たま子「わかりました」

ドラえもん「え?」

たま子「ドラちゃん、、もうあなたには頼りません」

ドラえもん「え、でも、僕は」

たま子「あなたには未来に帰って頂きます」

ドラえもん「!」

たま子「きっとあなたにはのび太を教えるにはむいてないのよ」

のび太「待ってよ、ママ!」

たま子「待ちません。のび太、これはいつまでも成績を上げないあなたが悪いのよ」

のび太「嫌だよ、ドラえもんがいないと僕は」

たま子「駄目よ。ドラちゃん、未来に帰る支度をしなさい」

ドラえもん「ママ・・・」

それから一週間後、ドラえもんは未来へと帰っていった。

そして、ママによる新しい教育が始まった。

朝食

のび助・たま子・のび太の三人

のび太「ママ!これはなに!」

のび太は赤い液体の入ったコップを指差しながら聞く。

たま子「それはスッポンの血と朝鮮人参、オットセイの睾丸、鹿の角を混ぜたものよ」

のび太「こんなの、飲めないよ」

たま子「飲みなさい。残したら許さないわよ!」

のび助「しかし、ママ、これはのび太には朝からキツすぎるんじゃないか?」

たま子「いいえ。これぐらいしなきゃだめよ。まずは体力が基本なんだから」

のび太はママにどやされながら特製ジュースを飲み干し、学校へ行った。

学校へ向かう道中。

ジャイアン「あ、のび太だ」

スネ夫「のび太だ」

のび太に近づく二人。

ジャイアン「おい、のび太」

のび太「あ、ジャイアンにスネ夫、おはよう」

ジャイアン「へへへ、おい、のび太、俺達のかばんを持てよ」

スネ夫「持てよー」

のび太「え、なんで僕が」

ジャイアン「うるせえ!いいからさっさと持て!」

のび太にかばんを押し付けるジャイアンとスネ夫。

のび太(あれ、ジャイアンとスネ夫のかばん・・・。軽い)

ジャイアン「おい、しっかり運べよな」

その時、のび太の血が熱くなる。

のび太(あれ、身体が熱い)

スネ夫「ね、ねえ、ジャイアン。のび太の様子が」

ジャイアン「あん?のび太の様子?」

のび太の顔は真っ赤になり、汗を流している。

ジャイアン「お、おい、のび太!どうしたんだ!」

のび太の心臓の鼓動が上がり続ける。

のび太(熱い!熱い!じっとしていられない)

のび太は歯を剥き出し、ジャイアンに飛び掛かる。

ジャイアン「う、うわあ!」

ジャイアンにのしかかるのび太。

ジャイアン「こ、こいつ!のび太のくせに!」

鉄拳で応戦するジャイアンだが、ことごとくかわされてしまう。

のび太(身体が勝手に動く・・・。ジャイアンのこぶしがスローに見える・・・)

冷静かつ合理的にジャイアンを打ちのめすのび太。

スネ夫「あ、あ、あ・・・」

伸びてしまったジャイアン。

スネ夫のほうに振り向くのび太。

のび太「はぁ、はぁ、はぁ」

腰を抜かし、小便を漏らすスネ夫。

スネ夫「あ、あわ、あああ」

のび太の脳はスネ夫は戦うまでもない相手と判断した。

何かを悟ったように自分のかばんを持ち、学校へ向かうのび太。

倒れているジャイアンを揺さぶるスネ夫。

スネ夫(なんなんだよあののび太。まるで狼かライオンみたいだった。怖いよ)

授業中

のび太は眠くはなかった。

先生(野比が起きとる・・・。感心だな。剛田も転んで怪我をしたとかで大人しいし、今日は授業がやりやすいな)

その日は居眠りをすることなく一日が過ぎた。

のび太、帰宅。

たま子「おかえり、のびちゃん」

のび太「ただいま」

たま子「かばんを置いたらおやつよ」

のび太「え、やったあ!」

食卓へ向かうのび太。

のび太「え、ママ、これは・・・」

たま子「まぐろの目玉よ」

皿の上にはまぐろの目玉が3つおかれている。

のび太「こんなの・・・」

たま子「DHAがたっぷりだから、残さず食べなさいね。あと、このカプセルを飲みなさい」

そこには毒々しいカプセルが4種類置かれている。

のび太「ママ・・・このカプセルはなんなの?」

たま子「サプリメントよ。スマートドラッグっていうのよ」

のび太「スマート・・・ドラッグ?」

たま子「そう、海外からのびちゃんの為に個人輸入したのよ。頭にいいから食べなさいね」

ジャイアンを打ち負かしたのび太であったがママの何かを達観したような威圧感には勝てなかった。

目を閉じて目玉とスマートドラッグを飲み込むのび太。

たま子「偉いわ。のびちゃん」

その後、のび太とたま子は日○研という学習塾に入学手続きに向かう。

とんでもない早さで非人道的な授業が行われている。

教師「こんな問題がわからんのかああ!クズがああ!」

生徒「すいません!すいません!許して下さい!」

殴る蹴る、罵倒する。

勉強のできない人間にはゴミのように扱われる空間がそこにはあった。

たま子「のびちゃん、入学手続きは終わったわ。明日からここに通うのよ」

のび太「え、ママ、でも、僕、怖いよ」

教師「勉強のできない奴は死ね!」

生徒達「勉強のできない奴は死ね!」

翌日。

のび太は栄養満点のスタミナ料理と脳へのエネルギーたっぷりのスマートドラッグを摂取し、学校へ向かう。

先生(今日ものび太は居眠りをせんな。感心だ。しかし、果たして授業を聞いておるのか)

先生「野比、今から書く問題をやってみろ」

のび太「はい」

(68×12)+(45÷9)=

先生「では、野比、前に出てやりなさい」

のび太「821です」

先生が書き終えると同時に答えを言うのび太。

先生「な、なに!」

のび太に途中の式を書かせながら答えを確認しようと考えていた先生は急いで計算する。

先生「野比、正解だ。しかし、なぜ、わかったんだ?」

のび太「なぜって・・・見ればわかります」

ざわつく教室。

先生「そ、そうか、そうか。野比は暗算が得意なんだな、ハハ、ハハハハハ」

その後も国語、社会、理科を始め音楽や美術、体育に至っても超人的な成績を出すのび太。

帰り道。

しずか「のび太さん、すごいわ!一体どうしたの?」

のび太「う、うん、ありがとう。僕にもよくわからないんだ」

しずかは輝き始めるのび太に感動を感じるとともに何か距離が出来はじめたのび太に不安を感じていた。

帰宅。

たま子「さあ、おやつを食べたら、日悩研に行きましょう」

おやつはハーブティーと昨日と同じスマートドラッグだった。

日悩研

教師「今日から誉れある日悩研に入学した野比のび太君だ!みんな仲良く勉強しあってくれ!」

死んだ魚のような目でのび太を迎える塾生達。

教師「では、今日は算数からだ!馬鹿やクズは置いていくから寝てろ!教科書の77ページを開け!」

わかるはずもないスピードと必要以上の罵声で進む授業。

わからなければ侮辱と暴力が待っている。

怯えながら必死に食らいついていく塾生達。

教師「よーし、ではこの問題を」

震え上がる塾生達。

複雑な図形をたくさん書き、その一部の塗り潰す教師。

教師「新入りの野比、やってみろ。塗り潰した場所の面積を出せ」

ニヤリと笑う教師。

のび太「4.35です」

教師「な、なに!間違えていたらわかってるんだろうなああ?」

のび太「いえ、わかりません。ただ、問題の答えは4.35です」

計算を始める教師。
答えが4.35だとわかる。

教師「正解だ。だが、算数は考え方が大事だからな!答えがわかってればいいんじゃないんだぞ!」

その後も引っかけ問題等をのび太に出す教師。

全て正解するのび太。

難癖をつけてのび太を否定する教師。

そんなことが繰り返される。

授業が終わる。

塾生「君、すごいね。暗算で計算してるの?」

のび太「暗算?よくわからないけど、答えがわかるんだ」

塾生「へー」

のび太(みんなあんな問題がわからないの?見ればわかる当たり前だと思うけど・・・)

それから月日は流れる。

のび太は出来杉と並び神童と呼ばれるようになる。

のび太、小学6年生。
栄養満点のスタミナ食のおかげて身長も伸び、筋骨隆々・頭脳明晰な最強小学生となっていた。

女子「ねえ、野比君って凄いわね。何でも出来てかっこよくて!」

女子「そうよねー」

女子「結婚するなら野比君か出来杉君よねー!」

しずか「そ、そうよ、ね・・・」

今日も女子達はのび太と出来杉の褒めあいで盛り上がっていた。

そんな中、しずかは一人寂しい感じていた。
しずか(私が好きなのび太さんは・・・本当にあんな人だったかしら・・・。
以前は確かにだらし無い部分があったけど、気力や明るさがあった。でも、今は、何か冷徹な感じが・・・)

野比家、夕食

のび助「やー、今日は久々に家族揃っての食事だなぁ!のび太はいつも塾でいないもんなぁ!」

機嫌良くビールを飲むのび助。

のび助「のび太、また100点なんだって?すごいなぁ!」

たま子「学校のテストで100点は当たり前です」

のび助「そ、そうか。」

感情もなくただただ頭と身体にいい夕食を口にするのび太。

のび助「どうだろう?今度の日曜にみんなで遊園地にでもいかないか?」

のび助を睨みつけるたま子。

たま子「パパ!何が遊園地ですか!のびちゃんにはお受験があるの!!!」

のび助「!!」

のび助「お、おい、受験はわかるが、たまの休みぐらい・・・」

たま子「受験じゃありません!『お』受験です!!!」

のび助「わかった、わかったよ。ごめん。ただ、のび太だってたまには遊びたいだろうと思って」

たま子「私立に受かるまでは遊びはいりません」

のび助「そ、そうかい・・・」

のび助(そういえばのび太のやつ、小遣いをせびりにこなくなったなぁ・・・)

のび太「・・・」

翌日、夕方、塾

頭に必勝という鉢巻きを巻いている教師と塾生達。

教師「いいかあ!今年一年はいよいよお受験だ!岩にかじりついてでも勉強しろおおお!!!」

塾生達「おーーー!!!」

教師「思い出はお受験が終わってから作ればいい!遊びも友達も今は我慢するんだああああ!!!」

塾生達「おおおーーーーー!!!」

教師「友達も遊びも思い出も受験には全く役に立たんぞおおおー!!!」

塾生達「おおおー!!!」

のび太(友達・・・か)

のび太は特進クラスのトップに君臨し、塾のテストさえ全て100点という天才塾生であった。

教師「この世で一番偉大な小学生は誰かわかるか!この野比のび太君だ!」

教師「友達と馬鹿みたいに遊び、野球をやり、思い出などと無意味なことはせず、
       ただひたすら勉強に打ち込む!」

教師「小学生の鏡だ!必ずや私立に受かるだろう!
       みんな野比のび太君を目指し、がむしゃらに勉強したまえ!!!」

塾生達「はい!!!」

のび太(虚しいな・・・。勉強ができるからなんだというのだろうか)

のび太(あれから馬鹿にされたり、先生やママから怒られることはなくなった。でも、何だろう。何かが足りない・・・)

のび太(ただ、毎日が虚しく、そして無意味)

塾が終わりのび太を迎いにきたママ。

帰り道、偶然にジャイアンとスネ夫に遭遇する。

ジャイアン「あ、のび太」

たま子(あれは剛田さんとこの)

たま子「のび太、無視しなさい」

コクンと頷くのび太。

ジャイアン「お、おい・・・」

目も合わさずすれ違うのび太。

ジャイアン「のび太・・・」

スネ夫「・・・」

二人はのび太に怯えていた。

冷たく、血の通わないロボットのようなのび太が怖くて仕方がなかったのだ。

たま子「のびちゃん。ああいう低レベルな子と付き合っちゃだめよ。あの子達、成績悪いんでしょ?」

頷くのび太。

たま子「困るわねぇ。先生に行って学校に行かなくしてもらえないかしら。
         公立はのびちゃんには低俗過ぎるわ」

頷くのび太。

たま子「出来杉さんも我慢してるからうちも我慢ね」

頷くのび太。

翌日

たま子「のびちゃん。のびちゃんは今日からしばらく学校に行かなくていいのよ」

のび太「?」

たま子「私達が受ける私立は出席日数関係ないし、小学校には最低日数行けばいいから」

その日からのび太は学校へはたまにしか行かなくなった。

家でただ一人、黙々と参考書を解いた。

のび太(虚しいな。人生ってずっとこうなのかな)

漫画、ゲーム、遊び。

のび太は「欲」というものを無くした。

数週間後

しずか(のび太さんが学校を休みがち・・・お見舞いにいこうかしら)

学校帰りにプリントを持ってのび太の家に立ち寄るしずか。

たま子「あら、しずちゃん。どうしたの?」

しずか「あ、あの、のび太さんが最近学校を休みがちだから、これ」

しずかは学校のプリントを差し出す。

たま子「あら、わざわざありがとう。でも、いらないわ」

しずか「え?」

たま子「それにね、しずちゃん。あなた学校の成績は?」

しずか「成績とか、そんな」

たま子「のび太に釣り合う成績なの?うちの子が成績いいからって色じかけ?」

しずか「そんな!そんなんじゃありません!」

たま子「だったらなんでのびちゃんと関わるの!?関わっていい身分だと思ってるの!?」

怒鳴りつけるたま子。泣き出すしずか。

しずか「私は、ただ、のび太さんが、心配で」

たま子「はいはい。うちの子と関わりたいんでしょ?最低限の成績を取ってからきて。
         のびちゃんが馬鹿になるから」

しずか「そんな、私達、一緒に冒険したり、遊んだり、悩んだりした、仲間なのに・・・」

たま子「やめて。のびちゃんはあなたのような普通の人間と仲間なわけないでしょ」

たま子に追い出されるしずか。

泣きながら野比家を後にするしずか。

帰り道、ジャイアンとスネ夫に出会う。

ジャイアンとスネ夫はしずかから事情を聞きながら空き地へと向かう。

土管に座りながら話し合いを始める。

ジャイアン「のび太、どうしちゃったんだろ」

しずか「ひど過ぎるわ。私達、友達だったのに」

スネ夫「学校にも来ないよ。のび太、何を考えているんだろう」

しずか「ねえ、のび太さんを連れだしましょう」

ジャイアン・スネ夫「えっ!」

しずか「もう一度、みんなで遊びましょう」

ジャイアン「遊ぶったって」

しずか「ずっと勉強ばかりしてるからストレスが溜まってるのよ」

スネ夫「それにのび太をどうやって誘うの?」

話が進展しない3人。

しずか「ドラちゃん・・・。こんな時、ドラちゃんがいてくれたら」

ジャイアン「ドラえもんか。ドラえもんがいてくれたらな」

スネ夫「ドラえもんがいなくなってからだね。のび太が変わったの」

ジャイアン「まずはドラえもんだな」

何とか野比家に侵入し、ドラえもんに会おうと考えた三人。

スネ夫「のび太とのび太のママは塾に行く時に家をあける!」

ジャイアン「その時にのび太の部屋に入ろう」

しずか「そうよね。事態が事態だから仕方ないわよね」

翌日、のび太とたま子は塾へと向かう。

野比家へ忍び込む三人。

のび太の部屋へと急行する。

ジャイアン「な、なんだよ、この部屋」

スネ夫「これは・・・」

しずか「ひ、酷い」

のび太の部屋は壁と床、家具に到るまで全て「必勝」「勉強」「私立合格」と赤く書かれていた。

漫画もおもちゃもなく、子供部屋とは掛け離れたあまりに不気味なものだった。

かつてみんなで遊んだ明るい雰囲気はなく、心が冷たくなるのを感じた。

部屋中どこを見ても「勉強」というプレッシャーが襲ってくる部屋だった。

しずか「こんな部屋にいたらおかしくなるのは当たり前よ」

泣き崩れるしずか。

ジャイアン「とにかくドラえもんだ。ドラえもんを探そう」

スネ夫「そ、そうだね」

ドラえもんの手がかりを探す三人であったが勉強机は新しくなっており、押し入れのスペアポケットもなかった。

スネ夫「ね、ねえ、まずいよ。ドラえもん、どこにもいないよ」

ジャイアン「くそぅ!いったいどうすりゃいいんだ」

しずか「このままじゃ、のび太さんが、壊れちゃう・・・」

なおも泣き続けるしずか。

スネ夫「ね、いくらなんでもこれは虐待だよ。のび太の心が壊れちゃってる」

ジャイアン「虐待?」

スネ夫「電話しようよ。そういう施設に」

ジャイアン「・・・そう、だな。こんなの耐えられないよな」

しずか「そうね。そうしましょうよ。のび太さんを助けないと」

のび太の部屋を出ようとする三人。

するとたま子が立っている。

ジャイアン「うわああ!お、おばさん!」

戦慄する三人。

たま子「うちの子が・・・かわいそう・・・ですって・・・?」

しずか「のび太さんはかわいそうです!笑ってないし、学校にも行かせてもらってない!」

ジャイアン「そ、そうだよ・・・。あんな部屋に入れられてたら・・・」

スネ夫「勉強がいくらできても、あれじゃあ・・・のび太はきっと後悔しますよ」

真下を向いてわなわなとふるえるたま子。

三人「・・・」

たま子「ふ、ふふふ、あははは」

三人「!?」

たま子「やあねぇ、これだから公立の子は」

たま子「かわいそうなのはあなた達よ。どうせ、親御さんはあなた達に勉強をさせてないんでしょ?」

しずか「え・・・」

たま子「私はね、のびちゃんの将来の為にあの子を学校へ行かせないし、
         無駄なものを省いてあげているの。わかる?」

ジャイアン「無駄って・・・」

たま子「私立へ行き、さらに勉強をし、有名な大学に入り、一流企業へ就職する。その為にのびちゃんに厳しくしているのよ」

スネ夫「で、でも、のび太は」

たま子「これが本当の親から子への愛なの。子供の将来を考えたら遊びだの友達だのに構っていられないのよ」

たま子「あなた達にはわからないかな?ま、いつか後悔すればいいわ。あの時、遊ばずに勉強をしていればよかったと」

たま子「友情や遊びはお受験には何の役にも立たないのよ。
         あなた達はせいぜい今を楽しんで将来、貧しい暮らしをしなさい」

しずか「私達は・・・」

たま子「?」

しずか「私達は何があったってのび太さんやドラえもんと遊んだ想い出や友情を後悔したりはしないわ!」

ジャイアン「しずかちゃん・・・」

しずか「あんなに楽しい想い出があるからこそ私達は生きていける!
        未来の為に今の大切なものを犠牲にするあなたのやり方は絶対に間違っているわ!」

たま子「あっはっは。ま、言ってればいいわ」

しずか「のび太さんを返して!私達の大切な仲間なの!」

その時、警察官が野比家にやってくる。

たま子「あ、お巡りさーん、こっちです」

三人「!?」

たま子「先程通報したのは、この子供達が勝手に家に入っていて。連れ出してもらえますか?」

警察官「勝手に?みたところ、お子さんのお友達が何かじゃないんですか?」

たま子「いいえ〜、知りませんわ」

三人「!!!」

警察官「そ、そうですか。では、とりあえず、お嬢ちゃん達、ちょっと一緒に来てくれるかなぁ?」

野比家に忍び込んだ三人は警察に補導され、それぞれのうちに帰っていった。

三人は三人ともそれぞれの親にこっぴどく叱られてしまう。

「よそのお家のやり方に口出しするな!」

「あそこのおうちはお受験だから大変なの」

「いい加減中学生になるんだから!」

三人は落胆した。

かつてのび太と育んだ友情はこれで終わりなのか。

のび太のママの言うことは正しいのか。

三人は悩み続けた。

その夜、のび太は塾から帰っても勉強をしていた。

参考書を広げるのび太。

参考書に手紙が入っていた。


のび太さんへ

2月14日に学校の裏山にきてくれませんか。渡したいものがあります

源静


無表情で読み終えると手紙をたま子のところへ持っていくのび太。

たま子は激怒し、源家へと電話をする。

ビリビリに破り捨てられる手紙。

2月14日は私立の受験日だった。


しずかはさらに両親から叱られる。

それでもしずかはのび太を信じた。

のび太にはまだ優しい心が残っている。

しずかはただただのび太を信じ続けた。

2月14日

タクシーを手配するたま子。

朝から裏山へと向かうしずか。

一人では不安だからと付き添いを頼まれたジャイアンとスネ夫。

何も感じず、人形のようにたま子に従うのび太。

受験会場へと向かうタクシー内。

いかに受験が大切か、将来がかかっているかを説くたま子。

機械のように頷くのび太。

その時、周囲の時間が止まる。

たま子「え・・・?」

時が止まった世界。

ふと、タクシーの助手席を見るとドラえもんが座っている。

ドラえもん「僕が・・・止めたんです」

たま子「ド、ドラちゃん!何をしているの!今日は大切なのびちゃんのお受験」

怒鳴り声を遮り、新聞をたま子に渡すドラえもん。

たま子「なによ!!」

ドラえもん「未来の、新聞です。8年後です」

助手席に座り前を見ながら淡々と言葉を発するドラえもん。

たま子は新聞を見る。

新聞の一面は「大学生による無差別連続殺人」と書かれていた。

たま子「な、なによ、これ」

ドラえもん「のび太くんは将来、無差別連続殺人を犯します」

たま子「な、なんですって!」

ドラえもん「僕は8年後ののび太くんに会いに行きました。
            街でいきなり刃物を振り回し、老若男女を問わず刺し殺したのび太くんに」

たま子「こ、この子がそんなこと!」

ドラえもん「二十歳ののび太くんは言いました。羨ましかった、と」

その時、のび太は顔を上げる。

ドラえもん「一緒に遊ぶ友達が、馬鹿なことで騒げる仲間がいる、そんな街の人が羨ましかった、と」

泣き始めるドラえもん。

ドラえもん「笑顔で歩くカップルが、親子が、羨ましかった、と」

たま子「う、嘘よ!この子は今日、私立に受かるんだから、そんなこと」

のび太の目から涙がこぼれる。

ドラえもん「大人になったのび太くんは全て教えてくれました。一緒に成人式にいく友達もいない」

たま子「と、友達なんて、私立で」

ドラえもん「のび太くんが受ける私立には友達なんかいませんよ。
            いるのはのび太くんと同じ心を壊されたかわいそうな子供ばかりです」

ブルブルと震えるのび太。

ドラえもん「のび太くん」

ドラえもんに視線を向けるのび太。

ドラえもん「20歳の君はね、たくさんの後悔をしていた」

のび太「・・・」

ドラえもん「その中で一番後悔していたのは、今日、しずかちゃんと会わないことだって」

たま子「だ、駄目よ。のびちゃん!そんなこと。今日はお受験だし、終わったら塾で採点もあるんだから」

ドラえもん「のび太くん。未来では今日、君は学校の裏山に行っていない。でもね」

ドラえもん「しずかちゃんとジャイアンとスネ夫は今日は日付が変わるまで裏山にいたんだ」

ドラえもん「ずっと、ずっと、君を待って、ね」

泣き崩れるのび太。

声にならない悲痛な叫びがタクシーの中に響く。

のび太「ママ・・・ママ・・・僕、僕は、」

たま子「の、のびちゃん!いいからお受験よ!ドラちゃんが嘘ついてるかもしれないじゃない!とにかくお受験!ねっ?」

のび太「ママ、私立にはしずかちゃんもジャイアンもスネ夫もいない、よね」

たま子「そ、そんなのいいじゃない。きっともっといいお友達がたくさんできるわ。そうよ、あなた馬鹿にされてたじゃない」

のび太「しずかちゃんやジャイアンやスネ夫よりいい友達、か」

たま子「い、いい?とにかく、お・じゅ・け・ん。その為に頑張ってきたんでしょ?終わったらその子達と遊んでいいから」

のび太「ドラえもん」

ドラえもん「?」

のび太「行こう。裏山へ」

たま子「何を行ってるの!のび太!」

のび太「ごめん。ママ、僕今までどうかしてたよ」

たま子「駄目よ。あなたは今日、お受験をするの!」

のび太「僕、しずかちゃんから呼び出されてるもん。受験なんかより大事だよ」

たま子「のび太!あなたって子は!」

のび太「ごめんなさい、ママ。どうしても後悔したくないんだ」

たま子「お受験しないほうが後悔します!!!」

タクシーのドアを開けるのび太。

のび太「行こうよ!ドラえもん」

ドラえもん「うん。のび太くん、先に行っててくれる?」

のび太「わかった!後からきっときてね!」

軽快に走り去るのび太。

頭をぐしゃぐしゃにして狂乱するたま子

たま子「あああああああああああああああああ」

ドラえもん「ママ・・・」

目は白目になり、何度も何度も頭をタクシーの窓にぶつける。

ドラえもん「ママ・・・。許してほしい。
            僕は本当はジャイ子と結婚するのび太くんの運命を変える為にきたんじゃないんだ」

たま子「ぎぃあああああああああああああああああああ」

髪の毛を掻きむしり抜け毛が血と混じりボロボロとタクシーの床に落ちていく。

ドラえもん「僕は大量殺人鬼の家庭を更正させる為に未来からやってきた家庭矯正ロボットなんだ」

たま子「はっ、はっ、はっ、はっ」

よだれを垂らし、半分気絶しているたま子。

ドラえもん「未来はあなたに母親失格の烙印を押した」

たま子「わたしが、まちがって、いる、と、いうの、わたしが、のびちゃんは、わたしが、いちばん、あいしている」

ドラえもん「あなたは間違っていない。この国の教育が間違っている。あなたはその犠牲者なんです」

たま子「なによ、しりつにいって、いいだいがくにいれて、いいかいしゃに」

ドラえもん「確かにのび太くんは有名な一流大学に入ります。
             でも、その後に彼が進む道は歴史に名を残す犯罪者への道です」

たま子「わたしは、まちがって、いない。のびたをしあわせに、できるのは、わたし。わたしだけ」

ポケットに手を入れるドラえもん。

ドラえもん「母親矯正機〜」

ドラえもん「さあ、この機械のスイッチを押して下さい」

ドラえもんに指を持たれ、スイッチを押すたま子。

たま子の姿は消え、機械の中の空間に閉じ込められる。

小学生一年生ののび太がたま子の前に現れる。

たま子「のび太!」

のび太「え、なぁに、まま〜」

たま子「何してるの!お勉強よ!」

のび太「え〜、ぼく、べんきょう、いやだよー」

のび太を平手打ちするたま子。

たま子「馬鹿おっしゃい!とにかく勉強するのよ!」

機械の中で我が子に勉強をひたすらやらせ続けるたま子。

ドラえもんはたま子に語りかける。

ドラえもん(この機械の中は時間がゆっくり流れ、この時代の現実が入っています)

たま子は機械の中でのび太を育てる。

しかし、20歳ののび太は大量殺人を犯すという過ちを繰り返す。

何度も何度もコンティニューするが機械の中ののび太が「人」として明るく生きる人生はやってこない。

ドラえもん(いつかのび太くんをきちんと子育てできれば機械から出れます)

そう言い残すとドラえもんは機械を四次元ポケットにしまう。

ドラえもん(ごめんよ・・・のび太くん・・・)

裏山に急ぐのび太。

山頂の大きな木にはハート型のチョコレートを持ってしずかちゃんが立っている。

泣き出しそうなしずかだが、のび太の姿を見ると笑みがこぼれる。

のび太も笑顔で応える。

しずかから一人じゃ怖いからと付き添いを頼まれたジャイアンとスネ夫にも笑顔になる。

しずか「のび太さん、よかった。元に戻ったのね」

のび太「うん、僕、どうかしていたよ」

赤い顔で頭をかくのび太。

しずか「あの、これ・・・」

チョコレートを手渡すしずか。

のび太「え、これ、僕に?いいの」

しずか「うん、のび太さんの為に作ったから」

のび太「えー、でもこんなに大きいの食べられないよ。みんなでわけよう!」

しずか「え」

びっくりするジャイアンとスネ夫。

次第に笑いが込み上げる。

ジャイアン「おい、のび太、お前、このチョコレートの意味わかってないだろ?」

スネ夫「ププッ」

のび太「え?チョコレートの意味って?チョコレートはチョコレートでしょ?」

ジャイアン「ギャハハハハ」

スネ夫「やっぱりのび太だ!アハハハ」

真っ赤になるしずかちゃん。

しずか「もう!のび太さん!最低!!!」

まだ春も遠い裏山に四人の笑い声が響いていた。

感情をなくした少年はいま、大切な仲間と共に大切なものを取り戻す。

未来は変わった。

ドラえもんにより変更された未来。

野比のび太は源静と優しさと子供を授かり、愛情に満ちた幸せな家庭を築いた。

しずか「ねえ、あなた、この子、どんな風に育ってほしい?」

のび太「そうだな。勉強も運動もできなくていい。ただ、心の優しい子になってくれたら・・・」

幸せそうにゆりかごの中で揺れている赤ん坊。

のび太(ドラえもん。君のおかげで僕は大切なものを失わずにすんだよ・・・。)

のび太(ドラえもん・・・本当にありがとう・・・)

fin

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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:EXZPdvR90編集削除
SSイラネ(゚⊿゚)
2 . 名無しさん  ID:QbaEyYCt0編集削除
たまごがポケットの中でくさくってるようですよ?
3 . 名無しさん  ID:kwXtFsmr0編集削除
塾名大丈夫なん?
4 . 名無しさん  ID:GB810usH0編集削除
傷ついたしずかちゃんを慰めたかっただけなのに、僕は。
5 . 名無しさん  ID:xkCdGgKd0編集削除
たま子は無期懲役か?
6 . 名無し  ID:C.X9CmkbO編集削除
たま子が異能力に目覚めた的な展開かと思ったけど、普通だったな。ただスッポンの血やらの飲み物でいきなりバーサーカー化したり、サプリメントで頭脳明晰になれるならちょっと欲しい気はする
7 . 名無しさん  ID:rnY.RabY0編集削除
やっぱりドラえもんという物語は良いな。
こんなクソみたいなサイトに取り上げられる創作ストーリーでさえ、これほどまでに感動させてくれる。
いや、ドラえもんはもはや物語という枠では収まらない。ドラえもんは文化だ!現代の一大メディアだ!!
8 . 名無しさん  ID:CKHNMu5T0編集削除
進学がイケないなどという古くさ��靴げ礎祐僂魏,敬佞韻誅辰世覆 �
一流大学とまでは言わないが、貧困を脱っするには進学は必要不可欠。
社会で自由を得られるのは教育を受けた家庭だけという現実から目をそらすなよな。
9 . 名無しさん  ID:CKHNMu5T0編集削除
うお文字化けした。
進学がイケないなどという古くさ��靴げ礎祐僂魏,敬佞韻誅辰世覆 �

進学がイケないなどという古くさーい価値観を押し付ける話だな。



10 . 名無しさん  ID:1qPNwRd50編集削除
>>ドラえもん(この機械の中は時間がゆっくり流れ、この時代の現実が入っています)
ゆっくり流れちゃ駄目だと思うんですがそれは・・・
11 . 名無しさん  ID:DVDCpSxT0編集削除
面白い。読ませる文章だったね。
12 . 名無しさん  ID:iAozFk5R0編集削除
日能研は自ら学んでいく姿勢を作らせる点で塾業界で断トツトップ
他の塾とは一線を画しているよ
最近はごり押しの武闘派塾に押され気味なところもあるけど、授業内容や講師陣は間違いなくトップ
まあこんな駄文書くような馬鹿にはわかんねえだろうな
13 . G  ID:y3h3TwAfO編集削除
ママはどうなったの?

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