高校の頃、イジメにあっていた。
陰口なんて無視しとけばいいけど、連中は体育会系ばかりで、ひたすら肉体的に痛めつけられるのがキツかった。
顔とか目立つところはやらないんだよな。
一番キツかったのは、マチ針の飾りを取って針だけにし、それをシャーペンの芯の代わりに入れ、投げつけてくる「ダーツごっこ」だった。
授業中だろうが休み時間だろうが、的である俺がいれば始まる。
ガチに突き刺さるんだ。これ。
冬服だとわからないんだが、夏服だとシャツの背中に点々と血の跡が出る。
何度か先生が不審に思ってバレそうになったんだが、リーダー格のAがたまたまその場にいて、
「背中に出来たニキビを潰してくれって言われたんでw」
とか何とかごまかされてしまった。
二ヶ月くらい経って、ストレスのせいか学校に来ると鼻血が止まらないようになった。
だくだく出るわけじゃないんだが、ときどきつーっと喉に流れ落ちる。
血って、飲んでると食欲ガタ落ちするのな。
お陰で4キロ痩せた。
その日もやっぱり、ダーツごっこが始まって、俺は必死こいて避けていた。
避けてるとエスカレートするのはわかってるんだけど、やっぱ痛いもんな。
するとAが
「オイ避けんな。B連れて来てマトにするぞ」
と言い出した。
Bは近所に住んでる幼なじみの同級生で、母親同士も同級生ということもあって、クラスは違っても俺と仲が良かった子だ。
俺は避けられなくなった。
三本ほど、背中と腕に突き刺さったところで、見張りが先生が来る!とご注進、その日のダーツごっこはお開きになった。
このままだと、本当にBを巻き込むことになるかもしれない。
それだけは嫌だった。
だから考えた。
翌日、その日も朝から鼻血が止まらない。
ただ、前日までと違って、鼻血を嚥下しなかった。
学ランのカラーのところに隠したチューブから、胸ポケットに入れた野菜生活100の空きパックに、唾液と一緒に鼻血を流し込む。
昼休みまでに、パックの内容量はほぼ半分といったところ。
そしてダーツごっこが始まった。
俺はパックの中身をバレない程度に口に含んで、飛んでくるシャーペンに集中した。
自分のものとは言え、固まりかけたどろどろっとした鼻血の感触と唾液の生ぬるさはかなり悍ましかったが、何とか我慢した。
ただ、これまでと違ったのは、こちらが今日で絶対に終わらせてやると覚悟完了していたところだ。
数本のシャーペンを避けると、AはまたBのことを言い出した。
俺は黙ったまま、黒板に当たって落ちたシャーペンをいくつか拾い上げると、全力でAの顔を狙って投げつけた。
目とかに突き立っても構わないと思っていた。
他は明後日の方向に飛んでいったが、一本だけ、Aの顔をかすめた。
途端にAがキレた。
走ってくると、俺の首に両腕を絡めて、膝蹴りを腹に入れて来る。
何発も何発も。
口中の唾液ミックスの鼻血と膝蹴りで、もどしそうになる。
俺は思いっきり、口中の血糊と胃液をAの顔面にぶちまけてやった。
言葉にならない悲鳴を上げて、俺から飛び離れようとしたAが椅子に引っかかって盛大にコケた。
真っ赤に濡れた顔面だが、ビビってるのはよくわかった。
そのまま離れようとするAに、針シャーペンを拾いながら近づく。
カチカチカチカチカチカチカチカチ。
可能な限り、針を長く出し、どこにぶっ刺してやろうかと考える。
決めた。
キンタマだ。
松葉や竹串で銀杏を刺すようにしてやろう。
結局、実行前に先生が来て止められてしまった。
血で染まった歯をむき出しにしてニタニタ笑ってるという、なかなかホラーな絵ヅラだったようだ。
俺は血を吐くほど痛めつけられてキレたというていで、これまでのことを洗いざらいぶちまけた。
病院に行かされる前、鼻血入りパックはトイレで始末した。
俺の胃には潰瘍が出来ていたようで、血はそのせいだろうということになった。
これがきっかけになって、イジメが明るみに出た。
Aにやられていたのは俺一人じゃなく、余罪が出まくってAはスポーツ推薦どころか退学になった。
取り巻き連中も、関与の度合いによって停学や退学、転学といった処置になった。
あれから十数年。
我が子のハイハイ姿を床にうつ伏せて撮っていたら、カメラに頭突きされて我が子はギャン泣き、こっちは鼻血が出たので、ついつい思い出した出来事だ。
|
|
