【天国の控室】

ここは通称「天国の控室」、正式名称は「国立終末介護医療センター」である。
比較的裕福で身寄りの少ない重病患者が終の棲家として選択する医療機関だ。
ただ、すでに危篤状態になっている患者はここに入院することは無い。
なぜなら、寿命を全うするまでの期間たとえそれが数日であろうと、本人の意思で至福の時間を過ごす事を目的としているからだ。
人によっては数年間の長期入院になる事もある。幸せな時間を1日でも多く過ごしたいという欲求がその命を永らえるのかもしれない。
N氏もそんな患者の一人であった。

「Yさん、ちょっとこちらへ来てくれないか」

「はいN様」

そう応えたのは、N氏が入院してからずっと付きっ切りで介護してきたY看護婦だった。


「もうどれくらいになるかな…」

「約4年7ヶ月になりますわ。正しくは4年6ヶ月と28日8時間46分…」

「ははは、君はいつも正確無比だな」

「恐れ入りますN様」

「私にはもう近々お迎えが来る。君には本当に世話になった」

「そんな気の弱いことをおっしゃってはいけませんわ」

「いや、分かるんだよ自分の事は」

「N様がそんな気持ちになってしまわれると、私が担当の先生に叱られます」

「そんな医者、私が怒鳴りつけてやる!わっはっは」

「うふふ…患者様から気を使われるなんて、看護婦失格ですわね」

「ところで、私が死んでからの事なんだが…私にはこれまで苦労の末築いた財産がある
それを君に相続してもらうわけにはいかんだろうか?」

「唐突なお話ですのね。しかし私には財産をいただく権利はございません。
それにN様もご存知のように…」

「そう、君はロボットだ。だがロボットが相続してはいけない法律はないだろう」

「いいえN様、法律の問題ではなくて、私にとってはその財産が無意味なのですわ」

「そうなのか、私の財産は君には何の価値も無いということなのか…」

「申し訳ございません、私には物の価値を認識するデータがプログラムされていないのです」

「…確かにな、金や不動産や贅沢品は人の欲望が造り上げた物。君には無用か…」

「ご好意には感謝いたします」

「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功したが良い家庭は築けなかった。
家族ほったらかしで仕事に没頭し、愛想をつかした妻は一人息子を連れて家を出て行った」

「そうだったのですか」

「だが、今私はとても幸せだ。君のお陰で最高の死を迎えられそうだよ」

その時、一人の男性が病室に入ってきた。

「お、お前は…」

「父さん、久しぶりです」

「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやらんぞ!」

「父さん、母さんはもう5年前にここで亡くなりました。最期まで父さんを愛していましたよ」

「そ…そんな人情話は通用せん!」

「僕は財産が欲しくてここに来たんじゃありません。本当のことをお話しに来たのです」

「何だと?」

「母さんは家を出たあと、大変な苦労をして僕を育ててくれ、大学にまで入れてくれました。
お陰で僕は思う存分自分の好きなロボット工学の勉強をすることができました」

「ロボット工学…」

「そうです。実は、この施設の介護ロボットはすべて僕が開発したものなんです」

「では、このYさんも…」

「ええ、今まではロックがかかっていたのでお話できませんでした。申し訳ございません」

「父さんは先程、彼女のお陰で幸せだと言っていましたね。どうしてだか分かりますか?」

「ああ、彼女は親切でよく気が利いて私の好みも分かってくれていて、まるで…」

「まるで?」

「…かつての私の妻のように…!」

「そうです、Yには僕の覚えている限りの母さんの性格やしぐさをプログラミングしてあります。
ただ、父さんの好みまでは僕は知りませんが」

「そ…そうだったのか」

「母さんは本当に最期まで父さんを愛していました。これを聞いてください」

息子はY看護婦の耳たぶにそっと触れた。

「お父さん、お久しぶりです。もう、お互いに昔の事になってしまいましたね。
あの時は突然出て行ってしまってごめんなさい。ご苦労されたでしょうね。」

Y看護婦はN氏の妻の声で話し続ける。

「お父さんのお仕事の邪魔になってはいけない。私達が出て行かなければいけないって
勝手に思い込んでしまって。でも大成功されたんですものこれで良かったんだと思います。
私が先に逝くことになってしまったけれど、本当に愛していました、さようなら…」

その後、幾日かしてN氏は天寿を全うしこの世を去った。
病室には1通のメモ書きがサインを添えて残してあった。

『遺言 私Nの全財産を Y看護婦の開発者に贈与する』


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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:F0RpDrgZ0編集削除
税務署が4割持って行きます
2 . 名無しさん  ID:ozAIfDQI0編集削除
「息子に」と書かないところがオツだなw
3 . 名無しさん  ID:Xu9j6KymO編集削除
素直に感動出来ないのは何故かしら?
4 . 名無しさん  ID:JuSaFtgn0編集削除
なんかイマイチなんだよね・・
5 . 名無しさん  ID:NBIiidXq0編集削除
星新一風に書くスレのだな
6 . 名無しさん  ID:ZBBP.i9C0編集削除
「息子」ではなく「開発者」であるので、相続ではなく遺贈となります。
*1の通り、たっぷり税金取られます^^
7 . 名無しさん  ID:mjCL0eso0編集削除
あと一捻り欲しいなあ、ピリッと皮肉の利いた
8 . 名無しさん  ID:d4uhMGcB0編集削除
ん〜。
9 . 匿名ちゃん  ID:z.nX19VGO編集削除
遠回しな恩の押し売りやな、静かに死なせてやれや。
10 . 名無しさん  ID:qaRDZJ.30編集削除
そこまですごかったらプロになれるんだからこれで充分でしょ
11 . 名無しさん  ID:vpJRa.8C0編集削除
必然性が無いから腹に落ちない。意外性が無いからドキドキしない。
12 . 名無しさん  ID:RYRDUeDJ0編集削除
米9

家庭を蔑ろにしたことを悔やんでいるから「私はとても幸せだ。」の前に“だが、今”がつくんだよ。
そして遺言の書き換えにつながる。死ぬ前に胸のつかえが取れたってことさ。
13 . マッコイ  ID:7ebfIhr9O編集削除

終末とか正式名称には書かないんじゃないか?

終末期=ターミナルケアって言葉が有るわけだし
14 . 名無しさん  ID:ifdTbLuY0編集削除
息子には遺産を渡したくなくてYに譲るつもりだったけど
妻は最後まで主人を愛していて、息子は自分のために妻そっくりのロボットを作ってた事がわかった

で、なんでYの開発者っていう言い回しになる訳?
事実を知って妻と息子に対する気持ちがどう変わったかっていうのが話のヤマらしいのに
結局その医療機関で受けたYの看護に対するお礼しか言われてない

Yの看護を妻と息子の愛情と受け取って自分を捨てた家族っていう
わだかまりが無くなって素直に息子と妻に気持ちを述べてるべきなんじゃないのかね
話の流れ的に
全然うまいこと言えてないし捻れてない
15 . 名無しさん  ID:IhOdhpAD0編集削除
結局ひねれてなくてストレートだから、「泣けるだろ(ドヤッ」って感じで素直になれねーんだろうな。
16 . 名無しさん  ID:S4Ps1jeS0編集削除
みんなの言っていることは正しい。だからアマチュアの作品なんだ。
17 . 名無しさん  ID:T7tlAIDB0編集削除
どらえもんが頭に浮かんだのはオレだけか。
18 . 名無しさん  ID:psJYh0IE0編集削除
星新一を少しと乙一を少し足して水で100倍に薄めた感じ
19 . 名無しさん  ID:ARPiGBVT0編集削除
「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功し たが良い家庭は築けなかった。」

「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやら んぞ!」

構成のバラバラ感www
20 . 名無しさん  ID:tba34SjF0編集削除
>15
読んでて、なんか一つ二つ三つ足りない気がしてぜんぜん感動できなかったんだけど・・・。
うん、ドヤ顔が透けてるんだよ。「ほらっ、泣けっ」って。
21 . 名無しさん  ID:GK9De8wH0編集削除
話の流れがストレートすぎたんだろうな。
なんつーか、曲がりくねったりしないでそのままストーンと落ちる味気ない感じ。
22 . 名無しさん  ID:NR6C31lD0編集削除
そんなすげぇ介護ロボ作れるんだったら遺産なんかイラネんだろうな
23 . タロウ  ID:blpJibWQ0編集削除
クソ以下の話やな。

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